第49話 没落貴族 1
「殿下、そろそろお時間です」
「もうそんな時間ですか……」
「はい。……それと、毒見していない物を口にするのはお控えください」
声を掛けたのはカルロスの使用人だった。毒見の件や二人きりでの会話の件が重なってか、ノーマに対する視線が冷たかった。
「も、申し訳ございません」
「僕が勝手に食べたんです。彼女に非はありませんよ」
「……ご自身の立場をご自覚ください」
「……友人と談笑もできないとは窮屈ですね」
「……」
「そんな顔をしないでください。……それでは、僕はこの辺りで失礼します」
「はい。お手合わせ、ありがとうございました」
「……ノーマさんも、またの機会に……」
「は、はい。お疲れ様でした……」
(……また?)
使用人に睨まれながらカルロスは立ち去った。そのタイミングを見計らったかのように、三人の男が近づいてきた。
「おい、シルト!お前、訓練サボって女と逢引きとはいい度胸だな」
「ラクマ……」
「……アーノルドさん。あの方たちは?」
「ラクマ・タージュ。この国のタージュ子爵家の嫡男だ。騎士の家系であり、騎士としての実戦経験を積むためにここに来ている。横のやつらは取り巻きだな」
「仲が悪そうですけど……」
「貴族としてのプライドが高いから、どうしても人を下に見るんだ。シルトの場合は特にな……」
「?」
「殿下との試合の後は、各々での自主訓練だったはずだ。今日はその時間を友人に使っただけだ」
「負けたくせに随分と余裕があるな」
「……確かに油断した。だから、今日は訓練が終わったら自主的に残って訓練を続けるつもりだったぞ?」
「そういう独断行動が迷惑なんだよ。お前が勝手に頑張るせいで比較されて、みんな肩身の狭い思いをしているのがわからないのか?」
「オレは強くなりたいから訓練しているだけで、それは周りも理解してるはずだ」
「生意気な……没落貴族の分際で、殿下と親しいからと調子に乗るな!」
「!!」
その言葉はシルトにとっては禁句だったようで、目つきが変わり、剣を構える。
「なんだ?やる気か?」
「……剣を抜け」
「……おい、誰向かって口を利いている」
「さっさと抜け!!」
「……この、無礼者が!!」
シルトの言葉に憤慨し、ラクマも剣を抜く。一触即発の空気だったが、アーノルドが割り込んだ。
「はいはい、ストーーップ!!」
「……邪魔するな!」
「するわ馬鹿!私闘は厳禁、懲罰ものだぞ?」
「……運がよかったな、シルト」
「お前もだラクマ!ここでは爵位を持たない冒険者上がりの者もいる以上、爵位という立場は何の意味も持たないことは入隊時に説明したはずだ。忘れたわけじゃないだろ?」
「……失礼しました」
「それに、シルトに逆恨みするのはやめろ!」
「……逆恨み?」
「気付いてなかったのかよ。こいつ、アニーにプロポーズして振られたんだよ。シルトが好きだからって」
「な、なぜそれをっ!?」
「本人が相談してきたんだよ。振られた後、散々嫌がらせしたらしいな。……取り巻きにやらせたのか?」
バツが悪そうに取り巻きは目を逸らす。ラクマは秘密を暴露され、顔は紅潮していた。
「だから最近、妙に絡んできたのか……でも、アニーって平民だったよな?爵位がどうとか言ってるお前がなぜ……」
「この国では平民の女性との婚姻は認められている!彼女は、彼女は……特別だったんだ!なのに、なのに―――なんでお前が~~~……!」
「知らん」
「……お前さえ、お前さえいなければーーーっ!」
怒りのままに剣を振るおうとするラクマだったが、ある一言で動きが止まる。
「本当にそうかな?」
「……!」
「ひっ……!」
「……どういうことだ?」
ノーマの呟きに反応し、ラクマは動きを止めて詰め寄った。それでも騎士道精神からかノーマの意見を聞く気はあるようで、その剣幕に怯みながらもノーマは言葉を続ける。
お疲れ様でした。
最近、書く時間があまり取れず、一話一話が短くなってしまって申し訳ございません。




