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カフチェーク  作者: 月夜調
30/37

30

「本当に強かったですね?」

「・・・」

「アキラさん?」

「え?あぁ、そうですね」


 白と雪が再会を果たし、一夜明けた日。

 ジャードノチスでの予定を済ませ、帰路についた白と結。

 結は対峙した雪の強さに感嘆し、それを白へ告げるが、白は心ここに在らずといった様子でそれを受けた。


「・・・」


 白の思考に浮かぶのは昨晩の雪との会話だった。



「・・・」


 衝撃的にして、印象的な台詞を白に投げかけた雪。

 その発言の真意を探る様に、僅かに沈黙の間を作った白。


「ふふふ、どうしたんだい?」

「どうかしてるのはお前の方だろ」

「どうかしてるはひどいなぁ」

「・・・」


 ひどいと言いつつも、さしてそんな風には感じさせずにいた雪。

 その表情は面白そうな笑みを浮かべており、白はそんな雪の真意が分からず、其れを無言の間で問うた。


「『スコーラスチ』の事は覚えているかい?」

「スコーラスチ?う〜んと・・・」


 雪から告げられた耳に馴染まぬ単語を、必死に何か思い出す様に反芻する白。

 すると記憶の奥底に辿り着き、その単語の意味を理解する。


「スコーラスチだな」

「うん。そのスコーラスチだよ」


 要領を得た様な、しかし、何も要点のない白と雪の会話。

 しかし、白もスコーラスチの事を思い出し、雪の伝えたい事の意味を理解する。


「『スィニエーク大地』の洞窟に隠してある筈だよな?」

「うん。製品版でもそこに変わりはないよ」


 白の言ったスィニエーク大地とは、カフチェークの世界で北に位置する『シェーヴィル大陸』の中央に広がる永久凍土の雪原地帯なのだった。


「でも、彼処は・・・」

「ああ。製品版でも通行証無しでは出入り出来ないよ」

「やっぱりか」


 雪の言った通り、スィニエーク大地は特殊なクエストをクリアして、通行証を手に入れなければ踏み入る事が出来ず、そのクエストはかなり高レベルで無ければクリア出来ないものになっていた。


「確かにスコーラスチが有れば攻略も楽になるが、あのクエストをクリアするにはまだパーティ全体のレベルが足りてないからな」

「うん。だろうね」


 白の現在のレベルは40になっていたが、通行証を得る為のクエストをクリアするにはバランスのとれたフルパーティで平均レベル50はいるクエストだった。


(俺は装備の力で足りないレベルを補えるが・・・)


 しかし、結とグレイスはそういう訳にもいかず、レベル的にもまだまだその段階ではなかった。


「そういう事だから・・・」


 雪からのせっかくの提案ではあったが、そこには行けないと白が言おうとした瞬間だった。


「これ何だか分かるかい?」

「ん?」


 雪がローブの奥に手をやり、何やら取り出して白へと示してきた物。

 それは一枚の手のひら大の木片であり、白は其れを暗闇の中、目を凝らして見てみた。


「其奴は・・・、通行証じゃないか」

「ふふふ。そうだよ」


 白の言葉通り、雪の掌の上に載っていたのはスィニエーク大地の通行証であり、雪は其れを掲げる様にしてみせた。


「ふふふ。此れが欲しいかい?」

「・・・」

「どうだい?欲しいだろう?」


 無言ながら、其れを確認した時に、僅かに一瞬身を乗り出した白の動きを見逃さず、実に愉快そうに振る舞う雪。

 その様子は子供の其れで、しかし、ひとしきり其れを楽しんだ後・・・。


「はい。あげるよ」


 そう言って白へと向かい、通行証を差し出したのだった。


「良いのか?」

「うん。元々、其れで呼び出したからね」

「そうだったのか」

「うん。君の手にスコーラスチが渡れば、間接的とはいえ僕の目的に近付けるからね」

「お前の目的?」

「うん。ゲームクリアさ」

「・・・」


 自身の目的をゲームクリアと告げた雪。

 その表情には一片の曇りも無く、其れが白には嘘だと告げている様に感じられた。


「でも、大丈夫なのかな?」

「何がだい?」

「あぁ。スィニエーク大地に行ったはいいが、いきなり全滅したら目も当てられないからな」

「そこは大丈夫だよ。彼処は前のカフチェークと仕様が変わっていないしね」

「本当か?」

「うん」


 スィニエーク大地の仕様とは、フルパーティで平均レベル50はいるクエストをクリアした先に待つ推奨レベル30のモンスターの待つエリアなのだった。


「彼処は調整をミスったからな」

「うん。でも、製品版でも当時のままのレベル帯にしているよ」

「良かったのか?」

「スタッフにも意外と好評だったんだよ。獲れるアイテム自体は高価な物も多いし、ボーナスエリアみたいなものだってね」


 雪の言葉通り、スィニエーク大地のモンスターからは高価なドロップアイテムが獲れ、金策という意味ではかなりおいしいエリアなのだった。


「肝心のスコーラスチが取られてないといいが」

「大丈夫だよ。まだ、スィニエーク大地へ辿り着いたプレイヤーは多くないし、それに君以外があれを手に入れても、使いこなす事は出来ないしね」

「確かにな」


 二人の言葉通り、スコーラスチは装備した者に神速と呼べる速さを与える代わりに、常時混乱のバッドステータスを付与する為、白で無ければ其れを装備する事はあり得なかった。


「じゃあ、また会おう」

「お前は此処にいるつもりか」

「まあね。彼にカフチェークを送った責任もあるしね」

「・・・」


 責任。

 そう語った雪の双眸に僅かな曇りを感じた白。

 其処に僅かながらの真実を見れた事で、白にとってこの再会が無駄ではなかったと呼べるものになったのだった。



「それで、今度はシェーヴィル大陸へ行きたいですか」

「えぇ。警視庁の管理するワープクリスタルなら一瞬ですからね」

「それはそうですけどね」


 白の言葉に僅かにつまらなそうな表情を浮かべた結。

 結からすれば、昨晩の様な荒事の頼みは嬉しいものだったが、直接戦闘に繋がらない様な頼みはつまらないものなのだった。


「でも、スィニエーク大地へ行けば、新しいモンスターとの戦闘が待ってますよ」

「そうなんですか?」

「えぇ。それに洞窟にも潜りますしね」

「それは楽しみですね」

「それなら良かったです」


 白の言葉に現金なもので、その表情を明るくした結。

 その表情は子供の其れといったものなのだった。

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