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カフチェーク  作者: 月夜調
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29

「・・・」


 永遠の様な将又、一瞬の様な間の終わりは突然として訪れ、白が目覚めた刻。

 辺りは先程までの様に明かりは着いておらず、深い闇に覆われた、湿気臭い底冷えのする場所だった。


「身体は・・・、大丈夫そうだな」


 先程まで斬り落とされていた首は、しっかりと胴体と繋がっており、自身が死んだのではない事を理解した白。


(それに・・・)


 自身が気を失う直前に耳の奥に届いた声。

 その持ち主と内容に、流れに身を任せる事を決めた白。


「それにしても急過ぎるだろ」

「ふふふ、そうかな」

「っ⁈」


 その声が届くとは思わなかった白。

 然し、其れを聞かせたかった相手はどうやら白の側に居たらしく、深い闇の奥から先程白の首を斬り落とした魔法使い風の者が現れた。


「ローブを脱げよ」

「・・・」

「雪だろ?」


 先程、白の耳に届いた声の持ち主の名を、暗闇の奥へと向けて投げつけた白。

 その相手はすぐには応えなかったが、一拍の間を置き、やがて・・・。


「ふふふ、いやらしいね」


 そんな冗談めかした言葉と共に、顔を隠していたローブを脱ぎ、その素顔を白の前へと示した。


「久しぶりだな」


 このカフチェークの中でそう作成したものかもしれなかったが、雪の容姿はそのきめ細やかな白い肌と、やや眠たそうな双眸を伸び切った銀髪で隠し、遠く忘れかけたあの日、白と同じ時を過ごしていた峯島雪そのままのものであった。


「そうだね」

「・・・」


 特に感慨深そうでもなく返してきた雪に、白はその顔を覗き込んだ。


「そんなまじまじと見つめられると照れるよ」

「そんなタマじゃないだろうに」

「ふふふ」

「そういえば・・・」


 暗闇に覆われていた為、白は自身の居る空間がどの程度の広さかは分からなかったが、それでも同じ空間に同行していた結の存在が感じられなかった為、何処に行ったのか気になり・・・。


「結さんはどうしたんだ?」

「ああ、彼女なら別の場所で眠ってもらっているよ」

「安全なんだろうな?」

「ふふふ、まあね」

「・・・」


 悪戯な笑みを浮かべ、そう告げた雪に、白は一応の納得を示す。


「それにしても、お前が佐藤と一緒に居たとはな」

「佐藤?ああ、彼だね」


 イスカーチェリで同じ時を過ごしたとは思えない程、佐藤誠の事を他人の様に扱う雪。

 その一言が彼女の対人関係の希薄さを表していた。


「でも、どういうつもりだったんだ?」

「どういうって?」

「お前からの指示は佐藤を倒せって事だっただろ?それを邪魔する様な真似をして」

「ああ、その事かい?」

「お前の邪魔がなければ、彼奴を倒せていたのに」

「倒せてじゃないだろう?」

「・・・」

「殺せていたの間違いじゃないかい」


 平然にしてそう白へと告げた雪。

 その表情には温度が感じられず、然し、底冷えする様な冷たさもなかった。


「だったらどうしたんだ?」

「だから、止めてあげたのさ?」

「・・・」

「・・・」


 静寂の中、その双眸を重ねた白と雪。

 二人の間には静寂と共に、なんとも言えない空気が流れ、其れを肌で感じながら、白は静かに口を開いた。


「それがお前の望みじゃないのか?」

「どうして、そう思うんだい?」

「このカフチェークを作ったのはお前なんだろ?」

「どうして?」

「あの時、お前が使ったスキルで分かってるんだ」


 白の言ったスキルとは、このカフチェークの世界で雪の持つスキル『世界を創造せし者』。

 以前のカフチェークでは、エディターと同義のスキルであり、ゲーム世界のあらゆる事象を書き換える力の事だった。


「どうしてだい?」

「お前も知ってるだろう?俺に魔法は通用しない」

「其れを手に入れてたのは想定外だったよ」


 其れと言いながら、白の身に纏った虹霓の闇衣装を顎で指した雪。


「でも僕がカフチェークを作ったとして、どうして君に人殺しになって欲しいと思うんだい?」

「こんな事を始めれば、人殺しが起こるのは想定外とは言えないだろう」

「こんな事?」

「今のカフチェークの状況だ」

「ああ・・・」


 今、カフチェークのプレイヤー達が置かれている不安定な状況。

 その状況を考えれば、殺人事件が起こらないというのは土台無理な話で、その状況を想定してなかったとは、誰が考えても言える事ではなかった。


「じゃあ、正直に言うよ」

「何をだ?」

「このカフチェークを作ったのは確かに僕だ。だけど、今のこの状況を作ったのは僕じゃないんだ」

「何だって?」

「信じてもらえるかは分からないけどね」


 そういって、雪が白に語った内容。

 それは、白達と別れた後、暫くして、イカロス社に入社し、アイタースの開発に関わり、そのローンチタイトルとして過去に作ったカフチェークを会議で提案した事。

 過去のカフチェークに幾つかの改修を加え、今のカフチェークが完成。

 そうして、そのカフチェークとアイタースをイスカーチェリのメンバーへと送った事だった。


「同窓会気分だったんだよ。幾つか趣向を凝らさせてもらったけどね」

「じゃあ、犯人は?」

「さあ?」

「さあって、心当たりはないのか?」

「ないとも言えるし、あるとも言える」

「雪‼︎」

「そんなに怒鳴らないでくれよ」


 声を荒げた白に、雪は困った様な表情を浮かべ、然し、余裕のある態度は崩さなかった。


「もう殺人事件も起きているんだぞ」

「悪いと思っているさ。だから、彼の手綱を握っているんだから」

「彼?佐藤の事か?」

「ああ。ジャードノチスを与えて、王様ごっこをやらせてあげてガス抜きをしてるのさ」

「・・・」


 其れがせめてもの罪滅ぼしだと語った雪に、白は続ける言葉を慎重に探す。


「ゲームクリアに協力しろ」

「僕がかい?」

「あぁ。それをしてこその罪滅ぼしだろ」

「それは無理だね」

「何故だ?」

「僕の力を分かっているだろう?」

「・・・」

「この世界の中で真にチートと呼べる能力だからね。このゲームのボスに完全にマークされているんだ」

「やっぱり犯人に覚えがあるんだな」

「ふふふ、困ったね」


 そう言いつつも、大して困ってなさそうにする雪。

 そんな雪の様子に白も慎重に言葉を選ぶ。


(そうしないと、此れも監視下にあると考えられるからな)


 雪の語る内容に嘘はないと感じた白。


「なら、何の為に俺を呼んだんだ?」

「ん?ああ、そうだった」


 雪の語る内容が真実だと考えた時に、危険をおかしてまで白を呼び寄せた意味が分からず、それを問う事にした白。


「本題を忘れるところだったよ」

「本題?」

「ああ。白」

「な、なんだ」


 改まった様に自身の覗き込みながら、その名を呼んできた雪に、一瞬心臓を掴まれた白。


「神速を手に入れないかい?」


 然し、雪は全く予想してなかった言葉を告げてきたのだった。

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