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カフチェーク  作者: 月夜調
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「どうです?」

「えぇ、流石ですね」


 夜風に消えそうな小声で白に問い掛け、その答えに当然とばかりに胸を張った結。


「・・・行きましょう」

「はい」


 白はそんな結に特段の反応は示さず、静まり返った漆黒の周囲に警戒はしつつも、目的地へと足を進めた。


「アラマート区、クーリツァ通り」

「時刻は2時」


 昼間、喫茶店に身を隠した警視庁の協力者の諜報員から得た暗号を元に選んだ道は、ジャードノチスの警備兵が一切居らず、内部に潜入している諜報員の優秀さは、白にも十分理解出来たのだった。


「それにしてもここは大通りは眠らない街といった感じですね」

「えぇ。カジノもありますからね」


 二人の言葉通り、二人の往く道から幾つか通りを離れると、其処は現実世界の夜の繁華街の様相を呈しており、幾人ものプレイヤーやNPC達が、終わらない夜を賑やかに過ごしていた。


「城に用があるんでしたよね?」

「えぇ」


 結の言葉通り、雪が再会の場に指定したのはジャードノチスの城という、最高の危険地帯。

 現在、このジャードノチスはあるプレイヤーの支配下にあり、その名を結から聞いた白は、最初雪からのメールに見せ掛けた、何かの罠かと疑ったが、雪の人となりを考えた時、彼女ならばその場を指定したとしても不思議ではないと思い返したのだった。


「ん」

「どうしたました?」

「いえ、ちょっと・・・」


 短く結に応えながら、自身へと届いたメールに気付いた白。

 内容を確認する前に、タイミングの良さに監視の目でも有るのではないかと、周囲への警戒を一段深めたが、其れは見つけられず、内容を静かに確認する。


「・・・」


 内容に驚く事はしなかったが、夜の静けさに一層染まりそうな程、思考は沈み、単独行動を取らなかった事を少しだけ後悔した。


「どうしました、アキラさん?」

「いえ、何でもありません」


 そんな白の様子を、結は静かに覗き込んだが、短く首を振るだけの白に、歩く速度は緩めなかった。

 やがて見えてきたジャードノチス城。

 其れは城としては大きくはなく、然し、屋敷というには広大なものだった。


「警備の兵士は居ませんね」


 城門は開けられており、通常なら立ちはだかっている警備兵は、諜報員により場を離れさせられており、今ならフリーパスで城への出入りが可能となっていた。


「今のうちに」

「えぇ。行きましょう」


 メールの内容は受け入れ難いものだったが、ゲームクリアの為には雪の指示に従うしかなく、このチャンスは逃せないと城へと潜入して行く白。

 二人の手には得物が握られ、臨戦体制での入城となった。


「何処へ?」

「城主の所へ」


 短く聞いた結の言葉に、此方も短く応えた白。

 結は反論こそしなかったが、一瞬驚きの表情を浮かべ、然し、それでも白の後へと続いた。


「・・・」

「・・・」


 無言のまま、城の奥へと進んで往く二人。

 警察官の結としては、白の目的地は願ったり叶ったりといった場所だったが、其処へ行っても今の自分に何が出来るかは、正直答えが見つけられなかった。

 そして、白も同じく、其処へ辿り着いたとして、メールの指示を遂行出来る程の力は、今の自分にあるとは言えず、然し、いつかは自身の手で決着を着けなければいけない内容であり、そのいつかが今となっただけと考えた。


「着きます」

「ええ」


 然し、そんな二人の思考ほど、往く道は険しくはなく、あっさりと目的地へと辿り着いた二人。

 静かに、眼前に立つ大扉に身を寄せ、一瞬しかない今を手繰り寄せようとする。


「・・・ぅ」


 扉に掻き消された声は男のもの。

 僅かに粗暴さを感じさせる其れは、白には耳馴染みのあるもので、自身が間違いなく目的地へと辿り着いた事を理解する。


「結さんは・・・」

「一緒に行きます」

「・・・」


 此処まで来ておいてそれは通用しないと、その双眸の強さで応えた結に、白もあっさりと諦める。


「ガリャツィナーツィヤをかけます」

「いきなり仕掛けるんですね?」

「えぇ。それと・・・」

「分かってます。彼は既に許されざる犯罪者です」

「・・・」


 白の確認に、迷いなく頷いた結。

 扉を開けたと同時のガリャツィナーツィヤを合図に、一気に場の制圧を確認する。

 そうして、二人は双眸を重ね合い、一拍の間を置き、同時に大扉を開き・・・。


「ガリャツィナーツィヤ!」


 扉を開けた刹那、飛び込んで来た城主の姿に、白がガリャツィナーツィヤを発動させる。


「行きます!」

「はい‼︎」


 呼応する様に駆け出した二人。

 然し、刹那の間で其れは止められてしまう。


「なんだ、テメェらは‼︎」

「っ⁈」


 ガリャツィナーツィヤを喰らわせたにもかかわらず、正確に白と結を捉えた城主の双眸。

 そこには明確な苛立ちが、眉間の皺と共に刻まれており、その手にはこのカフチェークで最強の一本であるエクスカリバーが握られていた。


「お前・・・」


 突然の乱入者に見覚えありと、ハッとした表情を浮かべる城主こと、佐藤誠。

 そう、このジャードノチスを現在牛耳っているのはアオイの恋人を殺したこの男であり、雪からのメールでの指示はこの誠を倒す事なのだった。


「白だな、お前?」

「・・・」


 誠からの問い掛けには答えを返さず、静かにウプイーリを構える白。


(余計な事を喋られる前に殺らなきゃな)


 結も居る為、二人の関係を誠が口を滑らせる前に、仕留める必要があると感じた白。

 護衛の兵士の数を確認する。


(兵士が3と、女が4。それに・・・、ローブを被っているが、魔法使いか?)


 白には魔法は通用しない為、其処は警戒する必要はなかったし、兵士達も結が抑えに走っていた。


「・・・」

「おい!」

「っ‼︎」


 呼び掛ける誠の声を無視し、斬撃一閃。

 ウプイーリの固有スキルの発動の一撃を誠へと喰らわせた白。


「この野郎!」


 そんな白に、誠はその表情を怒りで一層歪ませ、エクスカリバーを構えた腕を振り上げる。


「オラァ!」

(そんな分かり易い攻撃は受けないよ)


 振り上げた刃を気合いそのまま、一直線で振り下ろした誠に、余裕で其れを避けた白。

 そのままの流れで、紅黒く光る刃を払い、誠の腹へと喰らわせ、突きによる連携を一閃土手っ腹へと入れた。


「クソがぁぁぁ‼︎」


 冷静さをカケラ程も感じさせない誠だが、そのHPはまだ七割程あり、エクスカリバーを持つ手にも力を感じさせた。


「お前等、手伝え!」


 誠に呼ばれた兵士達だったが、彼等は結によって抑えられており、一人の魔法使い風の者は何らかの詠唱を行っていた。


(女達は恐れて下がっているな)


 状況を確認し、誠との戦闘により一層深化していく白。

 誠のステータスは白よりかなり上だったが、此方に来てからギリギリの戦闘を経験しておらず、逆に白は無理なレベリング等で、幾多の戦闘経験を積んでいた。

 其れが、この戦闘での二人の差であり、その差とウプイーリの固有スキルによって、絶望的なステータス差も埋め、この戦闘は白が勝つ筈のものであった。

 然し・・・。


(待ってもらうよ)

「っ⁈」


 突如として白の耳元に届いた囁く様な、然し、脳髄の奥まで響き渡る様な声。

 その声の先と、ローブを被った魔法使い風の者へと視線を送ると、ローブの奥から腕を白へと伸ばし、その指先が妖しく光った・・・、刹那だった。


「な・・・?」


 突然の脱力感と前身が宙を回転する様な感覚と共に、白の視界が回転し、地へ辿り着くと同時に・・・。


「アキラさん‼︎」


 結の声が届き、自身の置かれている状況を何故か正確に理解出来た白。

 床に転がる白の首と切り離されてしまった胴体。


(・・・)


 やがて底から届いた声に惹かれる様に、白の意識は失われていったのだった。

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