ハランド編5 デュラハン
――ダンジョン30階のボス、デュラハン。
首のない身体に強固な甲冑を身に帯びた強敵。
僕らは作戦会議を開いた。
「あの防御力は厄介だ。
新調した武器の性能で何とかなるかもしれないけれど、作戦を立てておきたい」
「私の紅桜で一閃よ。見たでしょ?あの試し斬り」
分厚い鋼の鎧をいとも簡単に切り裂いた紅桜。
「そこはすごく期待してる。だけど、僕らは余力を残したあいつしか知らない。
いざという時の作戦は必要だと思う」
「デュラハンですか。それなら私も参戦できますわ」
キキラがテーブルに立てかけた槍を撫でる。
「え?キキラも前衛に加わるの?」
ヒーラーは後衛職だ。
敵と交戦するヒーラーは聞いたことがない。
「攻撃する人数が多いほうが戦闘が有利に運ぶでしょう?
それに…私は誰かだけが傷つくのは嫌なのです」
キキラは遠い目をしている。
「...わかった。僕ら3人でデュラハンを討伐しよう」
作戦会議は続いた。
》
30階の扉の前に立つ。
「準備はいい?」
「いつでも!」
「ええ、私も大丈夫です」
扉をゆっくりと開く。
広いフィールドの中央に大剣を構えたデュラハンが鎮座している。
今日こそ忌々しい鉄塊を粉々にしてやる。
僕は懐から丸い玉を取り出し放り投げる。
「グレネード!」
デュラハンの足元に転がり爆発する。
デュラハンが吹き飛んで壁に叩きつけられる。
さすがに一撃とはいかないが、甲冑が所々凹んでいてダメージが見て取れる。
「リリス!」
「オッケー、任せて!」
リリスが走り出しデュラハンの足に一太刀食らわせる。
太ももに大きな傷が入り、血しぶきが上がる。
「やっぱりこの刀すごい!あっさり斬れちゃった!」
リリスが飛び跳ねて喜んでいる。
デュラハンが起き上がりざまに大剣を横に振るう。
すかさず僕が間に入り盾でガードする。
「リリス、うれしいのはわかるけど喜ぶのは後。集中!」
「はーい」
リリスに注意を促した後、僕は一旦距離を取って下がる。
「私も参戦しますね」
キキラが槍を構えた。
リリスとデュラハンは剣撃を交わしている。
がら空きの背中にキキラが槍を突き立てる。
甲冑は貫けないが、体勢を崩すには十分な一撃だ。
デュラハンが片膝をつく。
「スキル・居合い斬り」
リリスの一撃でデュラハンの左手が吹き飛ぶ。
予定通りだ。
デュラハンの機動力を奪い、片手を封じる。
僕は左手に銃を構え発砲する。
デュラハンの甲冑の隙間、膝関節のくさりかたびらを弾が貫く。
デュラハンが両膝をついた。
いける。
あとは胴体にダメージを与えておしまいだ。
≫
突如デュラハンから黒いオーラが吹き出す。
陣が出現し、そこから何かが召喚される。
――馬だ。
デュラハンと同じく全身に甲冑を帯びている。
デュラハンは馬に飛び乗り駆け出した。
想定外の事態だ。
機動力の上がったデュラハンはリリスに狙いを定め、走り抜けざまに重い一撃を振るう。
素早さに長けたリリスでもさすがに馬の機動力には敵わない。
銃を撃つが当たらない。
速すぎる。
もっと練習しておくべきだった。
焦りが汗へと変わり頬を伝う。
「スキル・円陣斬!」
リリスは範囲攻撃を行うことでデュラハンをけん制している。
デュラハンはリリスの周囲を旋回しつつ、突撃を繰り返す。
「スキル・居合い斬り!」
後の先を取ろうとリリスが瞬殺の剣を放つが、デュラハンは間合いをとり応戦する。
剣術士にとって圧倒的に不利な状況だ。
このままではリリスのスキルポイントがもたない。
僕とキキラは目配せをして走り出す。
「グレネード!」
馬の前方で爆発が起き、馬がいななきを上げながら立ち止まる。
デュラハンが大ぶりな一撃を振るう。
僕が盾で防ぎ、その間隙からキキラが槍を走らせる。
デュラハンの攻撃を捌きつつ、馬の進路を妨害する。
「今だ、リリス!」
「スキル・刺突!」
リリスが矢のように飛びかかり、デュラハンの腹に大穴を空けた。
デュラハンが騎乗から倒れ地に伏す。
馬が消えていく。
――デュラハンに勝ったのだ。
≫
僕らはダンジョンを出て街に戻り、酒場で祝賀会を開いた。
「キョウ、見たでしょ、わたしの紅桜の一撃!これなら硬い敵でも怖いものなしだわ!」
骨付き肉を豪快に食べながらリリスが言う。
「ものすごい切れ味でしたね。私の槍では到底真似できそうにありませんわ」
キキラはワインを片手にリリスの頭を撫でる。
「リリスの斬撃もすごかったけど、フォローに入ってくれたキキラのおかげでリリスの攻撃が通ったんだよ。
キキラに感謝しないと」
ヒーラーが前衛に出るなど最初は恐ろしかったが、キキラの槍の腕前を見て納得した。
彼女なら主戦力とはいかなくとも、十分に攻撃のサポートができる。
「最下層の50階までこのまま一気に進むわよ!どんな敵だってわたしがぶった斬ってやるわ!
そういえば最下層をクリアすると何が起きるの?」
ため息をつきながら返答する。
「リリスはそんなことも知らずにダンジョンに潜ってたの?」
キキラが苦笑する。
「ダンジョンの最下層を攻略すると宝箱が出現するんです。中身は開けた者が望むもの。
富を求めれば財宝が。力を求めれば武器や防具が。
それに...」
キキラがちらりと僕を見る。
「人の幸せを願うなら叶える何かが」
心の中を見通すような視線を僕に向けてくる。
アキの精神汚染を治す方法はまだわからない。
その手掛かりが宝箱の中に入っていないかと僕は期待している。
回復薬か魔石か。
いずれにせよ、僕の願いはただ一つだ。
アキを取り戻す。
ひとまずは勝利の余韻にひたろう。
デュラハンは強敵だった。
僕ら3人が力を合わせたから勝てたのだ。
「キキラ、改めてこれからもよろしくね」
「私こそです。お二人と旅をすることで、私の探し物が見つかるかもしれません」
乾杯をし、料理を楽しみながらその晩は語り明かした。




