ハランド編6 お出かけ
暖かな朝日を浴びながら宿を出る。
今日は1日を街で過ごすことにした。
僕らはEランクの冒険者となった。
キキラはすでにBランクだ。
デュラハン討伐も含めて大分レベルも上がった。
僕のレベルは10。
スキルポイントは相変わらず0だ。
「キョウはレベル10ね。見てみて、わたしなんてもう12よ!」
【Lv.12 現世: 剣術士 前世: サムライ スキルポイント: 120】
悔しいことに僕より大きくレベルが上がっている。
デュラハン戦で一番経験を積んだのはリリスだ。
悔しいがそこは納得する。
≫
デュラハンは倒せたし、休養も大切だ。
僕らは各々が好きな場所で過ごし、夕方に酒場の前で待ち合わせることにした。
「リリス、無駄遣いしちゃダメだよ?」
「わかってるわよ。
ただ屋台で美味しいものを見つけたら食べて、かわいいアクセサリーがあれば買うだけよ」
「それを無駄遣いって言うんだよ…」
「いいではありませんか。
デュラハン討伐で1番活躍したのはリリスさんですし、少しくらい大目に見ても」
「それもそうだね。でも予算は厳守!キキラは好きに使ってくれて構わないからね」
「ずるい!まったく、キキラには甘いんだから」
「キキラは大人だからね」
リリスがぶつくさ文句を言ってくる。
一旦3人は別れ、それぞれが街を散策する。
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大通りを歩く。
【パン屋】―前世では行列店でした―
【服のご要望は当店まで】―前世は王族への献上経験あり―
どの店も前世の功績を看板にアピールしている。
【アクセサリーならお任せあれ】―前世では悪役令嬢をしておりました―
それは宣伝文句になるのか?
人通りを抜けて冒険者ギルドへ赴く。
当面のことも考えてクエストボードをチェックする。
テーブルに座っている男たちの会話が聞こえた。
「前世では竜騎士をやってたんだよ。
ドラゴンの背に乗って高い山を越えたり、大海原を巡ったり。
ああ、また飛びたいな」
「この世界じゃドラゴンなんておとぎ話さ。
乗れてせいぜいワイバーンだよ。暴れて言うこと聞かないだろうけど。
それよりも次のクエストはさ...」
ついつい口を挟みそうになるが抑える。
ドラゴンが出たなんて言ったら街中大騒ぎだ。
特にめぼしいクエストも見つからず、僕はギルドを後にした。
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武器屋のスミス工房に訪れた。
「これはこれはキョウ様。息災なようで何よりでございます。
して、今日は何用で?」
「銃の手入れをお願いします。
あとは不足したグレネードの買い出しと、何かいい魔道具があれば買おうかと」
「かしこまりました。
少々お時間を頂戴しますので、ごゆるりと店内をご覧くださいませ」
店内は相変わらずホコリ1つなく綺麗に整頓されている。
武器屋ではなく高級なブティックのようだ。
僕は魔道具を片っ端から眺めていく。
何か新しく使えるものはないだろうか。
四つ葉のクローバーの形をしたアクセサリーが目に入る。
「スミスさん、この首飾りは何ですか?」
「これは単なる首飾りではなく、れっきとした魔道具です。範囲内の仲間の声を確認できる機能が付いています」
これは便利そうだ。
いまはダンジョンで固まって行動しているが、離れ離れになることがあるかもしれない。
広範囲のクエストをこなす時にも使えそうだ。
「これを3つ…いや、4つお願いします」
「お買い上げありがとうございます」
リリスとキキラにおみやげができた。
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リリスは屋台通りを歩く。
色とりどりの屋台が並んでいる。
肉の串焼き、魚の蒸し焼き、野菜や果物。
その中の1店で大きな弁当を買い、リリスはまた歩き出した。
街の郊外に出る。
しばらく歩いて開けているところを見つけた。
ここでよいだろう。
デュラハン戦。
勝ちはしたが、馬が召喚されてからは防戦一方だった。
二人のサポートがなければ、スキルポイントが尽きて危なかったかもしれない。
紅桜の威力は圧倒的だが、武器だけに頼ってはいられない。
リリスは思案する。
居合い斬り、刺突、円陣斬。
これまで習得したスキルは単発技だ。
それぞれ早さ、間合い、範囲の違いがあり、複合して使用することでしのいできた。
けれども剣劇の押し合いになるとそれらのスキルでは物足りない。
「うーん...難しいなあ。キョウに相談しようかな。
いやいや、ここは自分で考えて2人をあっと言わせるんだ!」
とりあえず刀を振る。
前より手になじむ。
鋭い刃先。
湾曲した刀身。
私は前世ではどんな戦い方をしていたんだろう。
目を閉じて考える。
何も浮かばない。
困った。
「とりあえず100本くらい斬ってみようかな」
リリスは考えることをやめ、木に向かっていく。
1本。
5本。
10本。
一つ一つ集中しながら斬っていく。
つまらない。
どうにかして遊べないかと考える。
そうだ、1回じゃなく2回斬ればいい。
それまでは輪切りにしていた木にさらにもう一閃重ねる。
二つの塊になった木が地面に同時に着地した。
リリスは閃いた。
同時だ。
集中する。
鳥の声が遠のき、風のそよめきを感じず、己の精神と向き合う。
刀と五体。
むしろ一心同体。
おぼろげながら木造の道場が頭に浮かんだ。
老人が一振りすると竹刀が3つに斬れる。
2振りじゃない。
同時なんだ。
リリスはより集中する。
そしてカッと目を開いて大木に刀を振るった。
「スキル・剣舞!」
大木が3等分され、同時に倒れる。
1振りで2つの斬撃を繰り出したのだ。
「できた!あとでキョウたちに自慢しなきゃ!」
≫
キキラは住宅街を歩いていた。
少年と少女の会話が聞こえてくる。
「今日は王宮での作法を勉強しましょう」
「またなの?僕は魔法使いだったんだ。騎士の作法なんて知らないし、これからも必要ないよ」
「私の前世がお姫様なんだから、あなたは私の騎士なの!」
少女の迫力に少年は怖気づき、結局騎士ごっこに付き合わされるようだ。
その光景を見て微笑みながら、目的地に向かう。
それは教会だった。
この世界ではすべての者が前世を経験している。
ゆえに各々が信仰する神も異なる。
唯一神、八百万の神、精霊、星々。
その中で大勢を占めるのがグランレピア神をあがめるものだ。
グランレピア神はこの世界の創造主とされている。
それぞれの世界で生を全うし消えゆく魂を嘆き、この世界を創造したと言われている。
キキラは教会に入り、神の像に祈りを捧げる。
その後教会を出て周りを見渡すと墓地が目に入った。
墓石を見る。
風雨にさらされて文字は所々かすれているが、かろうじて読み取れる。
【ニーニャ 前世は魔力に恵まれ、現世はつつましい妻であった者
ここに安らかに眠る】
キキラは祈りを捧げた。
今、彼の魂はどこにいるんだろうか。
キョウが彼の生まれ変わりだったらいいのに…
「そんなうまい話、あるわけないですよね」
自嘲気味に笑った後に沈黙する。
いまはただ彼の安息な眠りを祈ろう。
空を見つめながらキキラは涙をこぼした。
≫
夕暮れ、3人は酒場に集まった。
「二人に渡したいものがあるんだ」
首飾りを差し出す。
「キョウにそんな甲斐性があったなんて...」
「違うよ。これは遠くにいても会話できる魔道具」
「期待したわたしが馬鹿だったわ」
「私は嬉しいですよ。素敵なネックレスですわ」
キキラが早速首飾りを付けている。
チャームを目で追っていくうちに胸元を見てしまい、慌てて顔を背ける。
「キキラはネックレスが似合うね。まるで王女様みたいだ」
「ちょっと、わたしには何か感想ないの?」
リリスがむくれた顔をする。
「まあまあ。これは魔道具だけど、このパーティーの証にしたいんだ。
幸せを願う四葉のクローバー。なんだか幸運を運んできてくれそうじゃない?」
「いいわね、幸せの象徴。わたしたちの旅路が恵まれたものになりますように」
改めてパーティーの結束が固まった気がした。




