ハランド編4 新たな武器
前回こなしたクエストで思わぬ大金を得た僕らは、装備の新調をすることにした。
リリスの両手剣はボロボロで刃こぼれしているところがある。
僕の片手剣は比較的マシだが、盾にはいくつもの傷が残っている。
30階のボス、デュラハンの装甲は分厚い。
良い武器を手に入れてあの忌々しい鉄塊を粉々にしてやるんだ。
≫
「わたしくめの工房へようこそ、キョウ様。
スミスと申します。以後お見知りおきを」
きちんと束ねられた髪を後ろに回し、オーダーメイドであろうスーツを着こなした初老の男性が挨拶をしてきた。
高級そうな眼鏡から真摯なまなざしを向けてくる。
――ここはドランに紹介してもらったハランドの街随一の武器屋、スミス工房だ。
壁には様々な形の武器が飾られている。
大剣、ウォーハンマー、鎖鎌、ククリ刀。
中にはムチもある。
その中に、小さな黒い鉄でできた見慣れない物が置いてある。
「ドランさんからキョウ様のことは聞き及んでおります。
命を救ってくださったと。
友を守ってくださった御恩、私からも返させていただきたく存じます。
さてキョウ様、本日は何をお探しで?」
「僕とリリスの武器を新しくしたいんです。
まずはリリスの剣をお願いします」
リリスが両手剣をテーブルに置く。
「これはまたずいぶん使い込まれましたね。
ですが剣筋がよいのでしょう。
刃こぼれはありますが芯は曲がっていません」
ほめられたリリスが笑顔になる。
リリスは壁の武器を眺めた。
「スミスさん、あの剣を見せてもらってもいいですか?」
刀身が少し反っている剣を指さす。
「少々お待ちを。こちらは刀という剣です。
片刃で薄身ではありますが、その分切れ味に優れております」
リリスが刀を手に取り一振りする。
「これ、私が前世で使っていた武器だ。すごく手になじむ!」
「これは珍しい、リリスさんの前世はサムライでしたか!
大抵の方は両刃の剣を使いますが、刀は一歩間違えるとすぐに折れてしまうので、扱えるものはごくわずかなのです」
スミスの目が輝く。
「わたくし自身、刀を打つのが最も好きでして。金属を重ねて層にし、何度も打ち直して冷ます。
前面には切れ味を、後面には耐久力を持たす。その加減が好きでたまらないのです!」
冷静そうなスミスが熱く語りだす。
リリスが苦笑いをする。
「失礼しました、わたくしとしたことが少々取り乱しました。
リリス様は剣筋がよく、予算も潤沢にご準備されております。
ここは私の最高傑作を試していただきたく存じます」
スミスが奥から一振りの刀を持ってきた。
白い鞘に納められ、持ち手部分は赤い紐でくくられている。
リリスは渡された刀を抜いた。
刀身は研ぎ澄まされ、空気をも切り裂けそうだ。
「こちらはミスリルで作った刀、紅桜でございます。
わたくし自らが素材から厳選して打ち固めた最高傑作です。
試し切りなさいますか?」
店の裏庭に回る。
分厚めの鋼鉄の甲冑を着た人形が立っている。
リリスは呼吸を整えた後、それを一閃した。
真っ二つになった甲冑が地面に落ちる。
「この刀、すごい...軽く振っただけなのにあっさりと斬れちゃった!」
「もちろん、わたくしの最高傑作ですから。
ですが、リリス様の剣筋があってこその技です。ぜひこちらをお使いください。
リリス様の剣筋を見て確信しました。この刀の主は貴方様なのだと」
こうしてリリスは紅桜を手に入れた。
≫
「実体剣は紅桜として、魔道剣はどうなさいますか?」
「魔道剣?」
リリスが首を傾げる。
「魔道剣、総じて魔道武器っていうのはね、普通の剣じゃ切れない魔法やエレメンタル、ゴーストなんかの敵を切るためのものだよ。
魔道石が使われていて、それを取り換えることで強化することもできるんだ」
「へー。キョウは物知りだね」
「今は肉体を持つ魔物と戦われているようですが、
この先に進むのでしたら一振りお持ちいただいた方がよろしいかと。
魔道剣はこちらに揃えてございます」
一本の剣を鞘から抜く。
刀身が赤く輝いている。
柄には魔道石が埋め込まれている。
これが魔道剣か。
魔道剣を物色していく。
すると、ほこり一つない店内で一振りだけやけに汚れた剣がかかっている。
リリスは魅入られたようにその剣に手を伸ばし鞘から引き抜く。
「お客様!その剣は...」
「妖刀」
リリスがつぶやく。
怪しく紫に輝く刀身から怪しい冷気を感じる。
「さようでございます。その剣は妖気をおびております。
切れ味は抜群。どんな魔法でも切り裂くことができます。
しかし代償を求めてきます。」
「...スキルポイントが減っていく」
リリスがつぶやく。
「一度鞘から引き抜けば、持ち主のスキルポイントを際限なく吸い続ける。
その剣に魅入られたがために精神汚染に陥ったものが数多くおります」
リリスは何度か剣を振ったのちに鞘におさめた。
「たしかに結構持っていかれるね。
たった何回か振っただけなのに三分の一もなくなっちゃった」
「リリス様。悪いことは言いません。この剣はおやめください。
リリス様の腕前なら他の魔道剣でも十分通用します」
「...わたしはアキを取り戻したい。
そのためにはもっと強力な魔物と戦うことになると思う。
振ってみてこの剣がすさまじい力を秘めていることがわかったの。
加減はうまくやってみせるから、この剣で戦わせて」
リリスが決意を固めた目で僕を見てくる。
「それに、前世でもこの剣を振った時と同じ感覚があるのを思い出したの。
わたしならこの妖刀を扱える気がする」
「リリス...。
わかった。でも絶対に無理はしないで。
危ないと思ったらその剣を取り上げるからね」
≫
次は僕の武器探しだ。
僕の課題は火力。
片手剣だけでは致命傷は与えられない。
どうしたものか。
店内を見渡す。
入店したときに気になった鉄の塊に視線が向く。
スミスが説明してくれる。
「こちらは銃でございます。
鉄でできており、火薬を爆発させて内部の弾丸を押し出し発射、敵にダメージを与えます」
裏庭で試し撃ちをさせてもらった。
照準を合わせて引き金を引く。
――バンッ!
強烈に跳ね上がる反動に驚きつつ人形を見る。
丸い穴がぽっかり開いている。
「この弾頭は鉄製ですが、ミスリル製も用意がございます。
そちらの方がより威力が出るかと」
右手に片手剣、左手に銃と小盾。
遠距離からの攻撃手段が増え、なおかつ近距離のカウンターでも致命傷を与えられる。
「その使い方になると弾数の少ないリボルバーではなく、マガジンのついたものがよいでしょうね」
スミスが弾倉の交換の仕方を教えてくれる。
一つ目の武器が決まった。
片手剣に関しては、切れ味よりも頑丈さを優先したものを選んでもらった。
チタンという金属でできたものらしい。
分厚い身幅でこれなら敵の攻撃が強力でも折れなさそうだ。
最後に盾。
レベルが上がるとともに腕力が付いてきたからもう少し大きめな物でもいいか。
そう思案しながら物色していく。
黒い盾が目に入った。
手に取ってみる。
分厚く多少重さは感じるが、これなら動きに支障は出なさそうだ。
これにしよう。
「キキラは新調しなくていいの?」
「大丈夫です。私にはこの槍がありますから」
三又に分かれたトライデント。
よく手入れされていて切っ先は輝いている。
「ダンジョンでドロップしたものですが、ちょっとした効果も付与されているんですよ。
なので私はこれで戦えます」
≫
それぞれの新しい武器が決まり会計をした。
去り際に銃の棚に置いてある箱が気になった。
「スミスさん、これはなんですか?」
「これは手りゅう弾ですね。グレネードとも呼ばれます。
ピンを外して投げると数秒後に爆発します。
音と閃光を放つスタングレネードや魔法探知を妨害するチャフグレネードもあります」
これは手軽に火力が出せそうだ。
購入決定。
その下には四角形の同じような物が置いてある。
「これは地雷ですね。
足元に設置するトラップです。
踏むと爆発して内部にある無数の鉄球が飛び出すんですよ」
地面に設置するのか。
防衛戦をすることはないだろうから必要ないか。
そう思った時にある考えが閃いた。
「スミスさん、これをこのように改造できないでしょうか?」
簡単な図面を書く。
「なるほど...ですがこれは危険もありますよ?」
「僕が強くなるためには多少の危険は覚悟する必要があります。
このくらいなら許容範囲ですよ」
「わかりました。
私としてはあまりお勧めしたくないのですが、
キョウ様のご要望でしたらそのように仕上げて見せます。
調整が必要なので3日ほどお時間をいただきたく存じます。
これだけのお買い上げですので、当店独自のサービスも同時に提供させていただきます」
≫
3日後、僕たちは新しい装備を受け取った。
キキラが更衣室から出てくる。
「この素材、軽くて柔らかいのに、ナイフで突き刺しても傷がつかないわ。
凄いですね」
「カーボンという金属を糸にして、皆様の衣服の裏地に縫い込んであります。
これで多少の攻撃なら体に貫通することはございません。
当店からのサービスでございます」
「スミスさん、色々とありがとうございました」
装備は整った。
あとはあいつを倒すだけだ。
――僕らは再びダンジョンへと向かった




