ハランド編3 ヒーラーとクエスト
クエストボードから一つの依頼を選んだ。
今回は商人の依頼で付近の山中のとある場所への護衛だ。
書類を持って歩き出そうとした。
「あの...」
後ろを振り返る。
白髪碧眼の女性が立っている。
背中には大きな槍を背負い、修道服に似た格好をしている。
槍術士だろうか?
「私をパーティーに入れてくれませんか?」
突然の申し出。
「えっと、どこかでお会いしたことありましたっけ?」
「いいえ、初対面です。
私はヒーラーのキキラと申します。
あなた方は最近ダンジョン攻略を始めた二人組のパーティーですよね?
剣術士が二人のパーティーと聞いています。
この先の攻略にはヒーラーが必要になると思いますが...」
ステータスパネルを確認する。
【Lv.20 現世: ヒーラー 前世: ヒーラー スキルポイント: 150】
前世もヒーラーなのか。
しかし槍が気になる。
槍を装備したヒーラーは聞いたことがない。
いきなりのことで面食らったが、僕らのパーティーに進んで入ろうとしてくれているヒーラーがいる。
しかも僕らよりレベルが高い。
願ってもない話だ。
「僕はキョウ。こっちはリリス。どうかよろしくお願いします」
僕らは3人パーティーになった。
――ギルドがざわつき出す。
「おい、あのヒーラー」
「ああ...例のやつだろ?」
「だけどあのパーティーにはお似合いじゃないか?
どうせこれ以上先には進めそうにないからな」
≫
「依頼を受けてくれて助かったよ。
私はドラン。
現世では商人をしているが、前世は地質調査をしていたんだ。
どうしても確かめたいことがあるんだけど、
その場所には最近強い魔物が住み着いてしまって困ってたところさ」
僕ら一行は川沿いに一つの山を目指して歩いていく。
ドランは手につるはしを持っている。
道中魔物にでくわしたものの、さして問題はない。
歩き続けて半日。
山の中腹で洞窟にたどり着いた。
「ここを調査したいが、暴れグリズリーが住み着いてしまってね」
「わかりました。離れずに後ろからついてきてください」
途中で魔物と出くわしたが大したことはなかった。
初めて遭遇する敵で間合いがつかみきれず、腕には擦り傷を負ってしまったが。
「キョウさん、こちらへ。治療しますね。ヒール」
あっという間に傷口が無くなった。
やはりヒーラーがいてくれるのは大変心強い。
「キキラさん、ありがとうございます!」
「いいえ、仲間が傷ついたら癒すのがヒーラーの役目ですから」
落ち着いた振る舞いで彼女は立ち上がる。
「このあたりで休憩しましょうか」
≫
ドランが用意してくれた昼食にありつく。
サンドイッチだ。
僕は手持ちの干し肉を使って簡単なスープを作った。
リリスは両手いっぱいにサンドイッチを持ち頬張っている。
キキラは上品に一口ずつ噛みしめながら食べている。
視線がキキラと交錯する。
一瞬の後、キキラが視線を逸らす。
「キキラさんはどうして僕らのパーティーに参加してくれたんですか?
噂になっているからご存じだと思いますが、僕は前世がないのでスキルが使えません。
レベル20なら他のパーティーでも十分に通用すると思いますが」
「そうですね。
私は15歳からヒーラーとして冒険者をしています。
ですがなかなか一所に落ち着けず、新しいパーティーを探していたところでお見かけしたので声をかけたのです」
キキラが一口お茶を飲む。
「あなたのパーティーに声をかけたのは...縁、とでも申し上げましょうか。
昔の知り合いにあなたが似ているのですよ」
「そういうことだったんですね。
道中の戦闘でご覧いただけたと思うのですが、僕の戦闘スタイルはカウンターです。
敵の攻撃を紙一重でかわす必要があるので、生傷が絶えないかもしれません。
お手数おかけします」
「大丈夫ですよ。これからは敬語はなしに、お気軽にキキラとお呼びくださいませ」
「わかりました。キキラ、これからもよろしく」
≫
僕らは洞窟の奥へと足を進める。
程なくして漂ってくる獣の臭い。
ランタンの光の先で茶色い巨体が身を起こす。
暴れグリズリーは鼻を鳴らしながら突進してきた。
盾で受け止めるが身体が宙を舞い、なんとか着地する。
デュラハンほどの強敵ではないが、腕力だけならそれを凌駕している。
リリスと交代で攻撃をし、注意を分散させ確実にダメージを与えていく。
問題ない。
このまま倒せる。
「ひい!」
後方でドランが悲鳴をあげる。
暴れグリズリーがもう1体いる。
ぎらついた爪のついた腕を振り上げている。
間一髪で間に合い、僕は盾で攻撃を受け止める。
「キキラ、ドランさんをお願い。
リリス、一気に決めるよ!」
「わかった!スキル・居合い斬り!」
動きの鈍っていたグリズリーの胴体が真っ二つに切り裂かれる。
僕はもう一匹のグリズリーと力比べの態勢になっている。
後ろからリリスが走ってくる。
「スキル・刺突!」
暴れグリズリーの胴体に穴が開いた。
「ふう。みんなけがはない?」
幸い大きな傷はないが、皆ところどころ擦りむいている。
キキラがヒールをかけて治してくれた。
「ありがとうございます!あなた方は命の恩人です!」
「そんな。むしろ警戒を怠って危険な目に合わせてしまい申し訳ありません」
「それでも、あの時キョウさんが駆けつけてくれなかったら私は今頃死んでいたでしょう。
本当に感謝します」
≫
脅威がなくなったので、今度はドランを先頭に洞窟を進んでいく。
「このあたりかな」
ドランがつるはしを振りかぶる。
しばらく掘り進めてドランが歓声を上げた。
「やっぱりあった!」
手には黄色に輝く塊がある。
金だ。
「以前、近くの川で子供と川遊びをしていた時に砂金を見つけたんです。
私には地質の知識がありましたから、周辺を探ってこの山の鉱脈から流れてきたと思っていたんですよ」
それからはみんなで手分けをして金塊を掘り出していく。
持てるだけの金塊を手に僕らは街に戻った。
≫
「今回の一件で私は大金持ちになれますよ!
本当に感謝しています。
今回の報酬ですが、皆さんが今お持ちの金塊をそのまま差し上げます」
「こんな高価なものを!ありがたい話ですが、いいんですか?」
「ええ。あそこにはまだまだ金が眠っています。
これは口止め料も含めています」
さすが商人。
抜け目がない。
「それに今回はキョウさんに命を救ってもらった。
この御恩は忘れません。
何か困った際にはぜひ私に声をかけてください」
このクエストで僕らは思わぬ大金を手に入れた。
これで武器の新調は問題ないだろう。
強くなってデュラハンを倒し、ダンジョンの50階を目指す。
――ふとアキの笑顔がよぎる。
早くあの笑顔を取り戻すんだ。




