生き延びた朝
――兄貴、もう朝だぜ
今日は日曜日だろう?
もう少し寝かせてくれよ。
昨日は、お前の気まぐれに付き合って山中駆け回ったんだから。
――そんなことでへばってたら、この先やっていけないぞ
うるさいな。
僕は魔道具さえいじれたらそれでいいんだ。
――兄貴、任せたぜ
任せた?
何を?
その瞬間、記憶が逆流する。
大剣に貫かれた心臓。
身体の芯が冷えていく感覚。
僕は目を覚ました。
≫
身動きができない。
木目の天井と、ふかふかのベッドに寝かされていることはわかる。
手にぬくもりを感じ視線をやる。
キキラだ。
双剣に背中をばっさり切られたはず。
そうか、無事だったのか。
安堵する。
少しだけ頭を起こせたので、周りを見渡す。
リリスはソファーで寝息を立てている。
こちらも無事のようで、再び安堵する。
ラーナの姿が見えない。
あれだけ強く地面に打ち付けられたのだ。
大丈夫だろうか。
そう心配していると、部屋のドアが開いた。
ラーナがパンをかじりながら部屋に入ってくる。
「坊主、ようやく目を覚ましたか」
その一言に、2人も目を覚ます。
「キョウさん! ああ、よかった。
もう目を覚まさないんじゃないかと気が気でなかったです」
「キョウはしぶといから大丈夫だって言ったんだけどね。
キキラは寝ずに看病し続けていたのよ」
そうか、僕は生きているんだな。
「あれからどのくらい眠ってた?」
「1か月じゃ」
そんなに……。
心臓を貫かれたんだ。
不思議と納得する。
みんなは、ずっと僕が目を覚ますのを待っていたのか。
「お身体の痛むところはありませんか?気分はどうですか?」
全身の感覚を確認する。
「身体がだるくて動けないけど、問題はなさそうだよ」
キキラが息を吐いた。
そして抱き着いてくる。
「本当に心配したんですから。生きていてくれて、ありがとうございます」
ほんの少し、力の入る腕で抱きしめる。
今の僕にはこれが限界だ。
≫
さらに2週間。
僕はベッドから身を起こして歩けるようになった。
1か月も寝ていたため、筋力はだいぶ低下しているが、日常生活程度なら問題はない。
「僕が斬られた後、どうなったの?」
「キョウさんは、一度心臓が止まったんです。
そこでロザリオが反応して、命を取り留めたんです。
ロザリオは燃え尽きてしまって、もう手元にありませんが。
リリスさんの傷はそこまで深くありませんでした。
ラーナさんはあばら骨が折れて大変でしたが」
いずれにせよ、2人とも今はピンピンしている。
大事なことを聞くのを忘れていた。
「ここはどこ?」
「あの場所から一番近い村です。
私はキョウさんから目を離せなかったですから、リリスさんが運転してたどり着いたんです」
「運転も慣れれば簡単ね。
段差もジープなら余裕で乗り越えるし」
きっと荒い運転だったのだろう。
2人は青い顔をしている。
「神域のコンパスは、いまだに北をさしている。
この先には聖王国モダニナがある。
おそらくそこが目的地じゃろ」
ラーナがコンパスを見ながら言う。
モダニナ、聖剣の眠る地。
魔族との戦争の拠点。
神域があってもおかしくない。
とりあえず、今は休息をとろう。
万全の状態で進む必要がある。
そして、僕らは力をつけなければいけない。
大剣の男、ドラゴは言っていた。
「君には、死んでもらわなければいけない」
次の襲撃があってもおかしくない。
今回のことで実感した。
僕らは弱い。
ダンジョンを攻略して、それなりの強さを得たつもりだった。
しかし、彼らには、軽いお遊び程度にしかならなかった。
まずは聖王国モダニナを目指す。
そして強くなる。
やつらがいつ来ても、負けないように。
仲間を失わないように。
僕は決意を胸に、手をぎゅっと握りしめた。




