運命
真っ白い空間。
何もない。
あるのは、黒曜石のように黒い太陽。
僕は、どうしてここにいるんだ?
みんなはどこにいった?
しばらく、呆然と立ち尽くしていた。
何もすることがないから、歩き出した。
一歩、また一歩と歩くうちに、途切れていた記憶が戻ってきた。
謎の4人組。
リリスとキキラが切り裂かれたこと。
ラーナが叩きつけられたこと。
そして、僕は心臓を貫かれたこと。
そうか、僕は死んだのか。
ここは死後の世界なのか。
アキ、救えなくてごめん。
僕には、結局何もできなかった。
やっぱり、何もなかったんだ。
涙があふれて、僕は膝から崩れ落ちた。
≫
どのくらい泣き続けたのかわからない。
この世界では、前世がなかった。
次は僕も転生できるのかな?
そしたら、次の人生では何を得られるんだろう。
逡巡したのち、再び太陽を見上げる。
この空間には、昼も夜もないらしい。
あるのは黒い太陽。
いや、あれは太陽なのか?
初めて見た時より大きくなっている。
そう気づいてからは早かった。
太陽が急速に接近してくる。
違う、僕が吸い寄せられているんだ。
ブラックホール。
本で読んだことがある。
宇宙にある、あらゆるものを吸い込む穴。
穴が近づいてくるにつれ、僕の身体が黒ずんでいく。
直感する。
これは転生なんかじゃない。
魂が崩れ落ちているんだ。
無。
虚無。
何も残らない。
怖いはずだった。
けれど、もう何も考える気力が残っていない。
僕は流れに身を任せた。
≫
どのくらい時間が経ったんだろう。
身体はもう真っ黒だ。
指先は形を保てず、触れれば崩れてしまいそうだった。
消え去るなら、いっそひと思いに消してほしい。
そう思っていると、首元に熱を感じた。
木彫りのロザリオが淡く光り始めている。
キキラにもらったロザリオ。
僕を大切にしてくれ、いつも隣で笑ってくれた人。
――キキラ
つぶやいたつもりが、声にならない。
やっぱりもう終わりなんだ。
そう思った時、手に柔らかな感触が伝わってきた。
中指に指輪をした、白くてきれいな手。
その手が、ぎゅっと僕の手を握った。
握られた手から、白い光があふれだした。
あまりに強い光に僕の目はくらみ、意識を失った。
≫
キキラは絶望していた。
ヒールとて、致命傷に効くほど万能ではない。
ましてや、人体の要である心臓が貫かれているのだ。
キョウの身体は、硬直し始めている。
肌は陶器のように白く変色し始めていた。
それでもヒールを唱え続ける。
愛しい人。
本当の私を受け入れてくれた人。
彼の笑顔に何度救われたかわからない。
また笑顔を見せて。
スキルポイントが0になる。
絶望。
私が廃人になることを、彼は望まないだろう。
これ以上は無理なのだと、心の片隅で思ってしまう。
それでも、ここで諦めたら後悔しか残らないと本能が言う。
再びヒールを唱えようとした。
その時、キョウの首元のロザリオが光りだした。
ふわりと浮かんだそれは光をなおも増し、周囲は昼間のように明るくなった。
そして燃え出した。
熱い。
でも温かい。
ロザリオが燃え尽きる。
その光が、キョウの胸へ吸い込まれていった。
冷たかった肌に、ほんのわずかな熱が戻る。
慌ててポーションを口に含み、口づけをして流し込む。
何度、繰り返しただろうか。
キョウの目が開いた。
息が止まった。
もう一度、その瞳が私を見る。
「キョウさん! わかりますか? キキラです!」
キョウの瞳が一瞬私の瞳をとらえ、再び閉じた。
心臓に耳を当てる。
かすかだが、鼓動を感じる。
持てる限りの知識を動員して、手当てを続ける。
ああ、神よ。
もう一度、彼と生きる時間を与えてくれてありがとう。
私の頬を、涙が伝っていった。




