宿命②
――魔族
魔族とは、一度相対したことがある。
だが、こいつらの翼の大きさは桁違いだ。
身体をすっぽり隠せるほど伸びた羽根の先が、鋭利な光を放っている。
リリスの最速の一撃を、子供の遊びのように止めた男といい、こいつらはやばい。
「一旦逃げよう! スモークグレネード!」
敵の足元で煙がふりまかれ、一体が灰色に包まれる。
しかし、一瞬でその景色は元に戻った。
魔族の1人が翼をはためかせたのが、煙越しに見えた。
ただでは逃がしてくれないか。
「わざわざここまで来たんだ。もう少し付き合ってよ」
大剣を持った男が、ゆっくりと歩いてくる。
僕はアサルトライフルを取り出し、男に向けて発砲する。
男はカーテンをくぐるかの如く、銃弾をかわしていく。
「さすがに、それが当たったら痛いかな。でも、かわすのも面倒だし......
よろしく」
その一声で、魔族の1人が動く。
腰に帯びた双剣を引き抜くと、軽々と銃弾を弾いていく。
それだけじゃない。
一歩ずつ近づいてくる。
何度も魔物を屠ってきた武器が、こんなにも頼りなく感じるとは。
あっという間に弾切れになる。
キキラとリリスが双剣の男に飛び掛かる。
その瞬間、男の姿がぶれた。
次に見えた時には、2人の背中から鮮血が噴き出していた。
何をされたのか、僕には分からない。
斬撃すら見えなかった。
「ターゲット以外は殺さなくていいよ。
どうせなら、仲間を救えなかった後悔を抱えて生きてもらおうか」
男が軽快に言う。
「スキル・氷結!」
ラーナが魔族たちに向けて強烈な冷気を放つ。
しかし、敵に届く前に風にかき消された。
後ろを見れば、魔族の一人が杖を構えている。
「魔法使いか。わしの氷結をやすやすと吹き飛ばすとは......」
珍しく、ラーナの顔に余裕の色がない。
「スキル・雷轟!」
魔法使いを雷鳴が襲う。
直撃したはずだ。
なのに、何事もなかったかのように立っている。
「薄皮一枚のバリアを張ったのか。
まさか、わしの雷轟がこうもあっさりと防がれるとは......。
前世でも、ここまで高度な魔法を扱う者はおらんかったというのに」
魔法使いが短い詠唱をした。
ラーナの身体が上空へ弾き飛ばされる。
ラーナが何かを詠唱しようとした瞬間、見えない力に身体を引き戻された。
詠唱は間に合わず、彼女は人形のように地面へ叩きつけられた。
叩きつけられた身体が地面で跳ね、口から血液が絞り出される。
残ったのは僕一人。
考えろ。
考えろ。
何か、策を。
みんなを逃がすための策を。
気が付くと、男が目の前に立っていた。
「父さんからのお願いでね。恨まないでくれるとうれしいな」
するりと大剣が胸に吸い込まれる。
不思議と痛みは感じない。
大剣が引き抜かれると、僕は重力に引かれるまま地面に倒れこむ。
「そうだ。最後になって申し訳ないけど、名乗っておくね。
僕はドラゴ。
それじゃあ、おやすみ。キョウ君」
男は、魔族に抱えられて飛び去って行った。
≫
何が起きたんだ。
胸に手をやる。
血だ。
血の海だ。
仲間を見やる。
リリス、ラーナは動かない。
唯一、キキラがこちらに這ってくる。
キキラが僕の手をつかむ。
「スキル・ハイヒール!」
いつもなら体の奥が温かくなり傷が癒えていくのに、今は寒さしか感じない。
キキラが僕の身体を抱え込む。
「ハイヒール! ハイヒール !ハイヒール......」
≫
ダメだ。
唱えつづけなければ、また、彼が死んでしまう。
「ハイヒール! ハイヒール......」
私なんかをかばわなくてよかったのに。
あなたが生きていてさえいればよかったのに。
またあの笑顔を見せて......
腕の中で、彼が冷たくなっていく。
ダメ、ダメ......
死んじゃいやだ。
彼の唇が動く。
――キキラ、ありがとう
記憶が逆流してくる。
ギルドの前で彼の面影を追い求めてキョウに出会ったこと。
発狂した私を受け入れてくれたこと。
一緒に旅をして同じ空気を吸ったこと。
そうだ。
私はキキラ。
キョウさんの隣に立ち続けたい。
もう〇〇じゃない。
胸の奥が熱くなる。
キョウの笑った顔。
真剣な顔。
ふと視線が合った時に見せてくれる微笑み。
――生きて......
キキラはヒールを唱え続けた。




