宿命①
神域のコンパスに導かれて、僕らはジープで疾走している。
地図を開く。
このまま進めば、いずれ聖王国モダニナに到着する。
聖王国モダニナは、グラン教の聖都だ。
この世界を創造したとされる、グランレピア神を信仰するグラン教。
異世界転生者が集まるこの世界では、前世の神々を信仰の対象とする人が多い。
その中で、グラン教は最も教徒が多い。
一方、魔族に対して最も強硬な国でもある。
魔族との戦争は、起源をさかのぼることが難しいほど昔から続いている。
人間と魔族の外見はうりふたつ。
ただ、漆黒の羽根があるかどうか。
その違いが、両者に決定的な隔たりを作っている。
最前線はより遠くの国にあるが、兵士の大半はモダニナから派兵されている。
モダニナには、勇者の逸話も存在する。
かつての勇者が、魔王にとどめを刺したとされる聖剣があるとか。
勇者......。
その言葉はアキを想起させる。
―オーバースキル・天葬剣―
前世を勇者として生きたアキの放った、魂の一撃。
この世界の勇者も、アキと同じく過酷な運命を背負っているのだろうか。
≫
途中立ち寄った村で、食料と水を補充する。
のどかな村だが、雰囲気が少し妙だ。
あたりを見回して気づく。
男が少ないのだ。
畑仕事をしているのは女性か子供。
おそらく、戦争に駆り出されているのであろう。
戦地からかなり遠いこの村でさえ、影響を受けている。
主戦場はどれほど過酷なのだろう。
相変わらず、コンパスは北を指し示している。
やはりモダニナの方角だ。
聖都とされるくらいだし、そこに神域があるのだろうか。
僕らは夕方まで走り続け、早めに野営の用意をした。
≫
「こんばんは」
食事を終え、談話をしていた時だった。
背後から声がした。
気配は、まったく感じなかった。
振り返ると、黒いローブを着た4人組が数メートル先に立っている。
いつからそこにいた?
僕らは誰一人、接近に気づかなかった。
「こんばんは。こんな時間にどうされましたか? 道に迷いました?」
なるべく、トラブルは起こしたくない。
僕は警戒を解かず、相手の出方をうかがった。
「道には迷ってるんだけどね」
なんだ、ただの迷子か。
「でも目標は見つけたよ」
その言葉とともに、僕の喉元に大剣の剣先が迫る。
間一髪、リリスの反応が間に合った。
「あれ、仕留めたと思ったんだけどな。お姉さん、速いね」
「......キョウ、本気でいかなきゃやばいわ。
こいつら、尋常じゃなく強い」
たしかに、今までのどの敵よりも強烈なプレッシャーを感じる。
キキラとラーナはすでに戦闘態勢だ。
「スキル・刺突!」
リリスが大剣に斬りかかる。
しかし、あっさりとかわされる。
「お姉さん、まさかそれが本気じゃないよね? 遅すぎて眠くなってきたよ」
リリスの刺突をあんなに簡単にかわすなんて。
それでも、リリスにはまだ一つ上の技がある。
「言ってくれるわね。後悔しても知らないわよ」
空中歩行で距離を一気に詰める。
縮めた両足を解き放ち、全身の力を乗せた一撃を放つ。
「スキル・刺突 改!」
リリス最速の一撃。
今度こそ、当たった。
そう思った瞬間、僕は目を疑った。
大剣は刀身を指二本で挟み、寸前で止めていた。
「うーん、最初は速いと思ったんだけど、偶然だったみたいだね」
リリスはすかさず妖刀を抜き、追撃を放つ。
大剣は両手がふさがっている。
妖刀は顔面を確実にとらえたかに見えたが、そこにもう大剣はいなかった。
「危ない危ない。機転が利く子だね。うまいうまい」
男のローブが、肩から切り裂かれている。
そのままはらりとローブが地面に落ちる。
黒髪に黒い瞳。
女性かと見紛うほどの長髪。
しかし、その肉体は極限まで鍛え上げてあることがわかる。
「せっかく顔を隠してたのに。
僕だけ顔がばれるのは癪だから、みんなもローブ取っちゃいなよ」
後ろの3人が姿を現す。
その背中には大きな漆黒の翼。
――魔族だ。




