レッジ村②
魔族の襲撃は、僕らが村に到着してから3日後の夜間だった。
「敵襲!」
村の鐘が、けたたましく鳴らされる。
「戦いに参加できない者は、村の奥に避難を!
戦える人たちは僕らについてきてください」
僕らは、魔族の集まっている正門前に集合した。
「初の魔族退治ね。父さんから嫌というほど手ほどきも受けたし、腕が鳴るわ」
「みなさんの回復はお任せを。絶対に、死者は出しません」
「こちらの世界の魔族がどれほどの力を持っているのか、楽しみじゃ」
3人とも、決意は固まっているようだ。
僕らは、村の兵士とともに正門から出て魔族に相対する。
カイとそのほかの村人は、高台から弓を構えて待機している。
「この村を襲う理由はなんだ!」
僕は声を張り上げて問う。
群衆をかき分けて、ひと際大きな翼をもつ魔族が前に出た。
「人間を狩るのに理由なんているか。ただ、邪魔な羽虫を払うだけよ」
よし、あいつがリーダーか。
あいつを落とせば統率が乱れ、戦局は混乱するだろう。
僕らは作戦通りに戦闘態勢をとる。
まずは弓矢隊の攻撃。
1人でも数を減らしたい。
魔族の装備はしっかりしているが、それでも5人ほどは倒せた。
次の弓をつがえる間に、僕とリリスで斬りかかる。
「カイ!」
僕が叫ぶと、カイは作戦通りに動き始めた。
「スキル・錬成!」
僕らとリーダーを囲むように、壁ができる。
これで一騎打ちの構図に持ち込めた。
残りはラーナの魔法と村の兵士、弓隊に狩ってもらう。
キキラがいるから、ラーナに被害は及ばないだろう。
エリアヒールもこの局面には相性がよい。
≫
「こざかしい手を使うな。人間」
「あいにく、僕は自分の弱さには自信があるからね。
力比べなんてごめんだよ」
「わたしは上等だけどね」
そう言って、リリスが斬りかかる。
魔族も、大剣を取り出し応戦する。
お互い譲らない攻防が続いたが、徐々にリリスが相手を押し始めた。
ゴウに習った先読みが、効果を発揮しているのだろう。
敵の剣筋をかわすタイミングが、段々早くなってきている。
攻撃の当たらない魔族からは、いら立ちが感じられる。
「人間風情に使うのは癪だが。魔強化!」
魔族の身体が紫色に光り、筋肉が盛り上がる。
身体強化の類か。
「行くぞ!」
リリスが防御するが、そのまま押し切られていく。
単純な力比べでは分が悪いようだ。
剣筋の速度も上がっていて、先読みが通じなくなってきている。
フェイントからの一発をかわし損ねたリリスは、足に一本もらい、鮮血が噴出している。
「威勢がいいのは最初だけか。所詮、人間ごときが高貴な魔族に勝てるはずもなかろう」
魔族がリリスを見下ろしている。
機動力を失ったリリスを、取るに足らない敵と判断したのだろう。
「......キョウ、そろそろいいわね?」
僕は外の音に耳を傾ける。
カイの叫ぶ声が聞こえる。
どうやら、魔族が防壁を乗り越えて高台に到着したようだ。
これ以上、戦闘を長引かせるのはまずい
「ああ。敵の実力は測れたし、戦況的にもタイミングは問題ない」
「ここからは、私も全力解禁よ!」
リリスが空中歩行で飛び回りながら、魔族の背後に回り込む。
「何だ、この動きは!」
魔族は動揺を隠せない。
「スキル・剣舞 伍式!」
6閃が魔族を襲う。
背中から鮮血が舞う。
「ぐがあ!この小娘が!」
魔族が力任せに大剣を振るう。
しかし、空中歩行を解禁したリリスには全く届かない。
今度は前面に回り込んだリリスが、一呼吸の間に2撃を与える。
魔族は膝をついた。
「こんな小娘に高貴なオレが膝をつかされるなど、あってはならない」
「失礼ね。小娘じゃなくて、レディーよ」
リリスは軽口を叩きながらも、しっかりと注意深く構えを解かない。
突然、魔族が翼をはためかせた。
飛んで逃げるつもりだ。
僕はアサルトライフルを乱射する。
翼を打ち抜かれた魔族が、派手に落下する。
顔には屈辱の色がにじんでいる。
再びリリスと相対する。
魔族は再び身体強化の魔法をかけ、リリスに瞬足の突きを繰り出す。
リリスは先読みを頼りに、敵の突きを紙一重でかわす。
いや、完全には避けなかった。
刃が皮膚をかすめるのも構わず、敵の懐へ踏み込む。
そして、すれ違いざまに胴体を深々と切り裂いた。
魔族は血反吐を吐きながら、膝から崩れ落ちた。
≫
「......殺せ」
「その前に、村を襲った理由をおしえろ」
「......魔人様の言いつけだ。お前たちの通る村を襲撃しろとな。
それ以上は言わん」
魔人?
なぜ魔族の上位存在が、僕らのことなんかを?
リリスは、居合い斬りで魔族の首をはねた。
「カイ! 終わったよ!」
上から見ていたカイが土壁を解除する。
キキラ、ラーナ、そして村の兵士によって、残敵は30人程度に減っている。
僕は魔族の首を持ち上げて言う。
「お前たちの大将は討ち取った! ここからは殲滅戦だ」
魔族の間に動揺が走る。
その隙を見逃さずにラーナが魔法を放つ。
「スキル・氷結」
魔族の足が凍り付き、地面に縫い付けられる。
それを弓が貫く。
動けるようになった敵は、破れかぶれに突進してくるが、リリスとキキラに斬り刻まれる。
僕は、アサルトライフルで残った敵を正確に射抜いていく。
初めての魔族との戦いは、完勝に終わった。
リーダーを引きはがして統率を崩す、という作戦が見事にはまった。
こちらの被害は想定より軽かった。
軽傷は多数。
重傷を負った者もいるが、キキラがヒールをしている。
死人は出ていないようで、安堵のため息をもらす。
≫
一夜明け、村の後片付けがひと段落したところで、僕たちは次の目的地に旅立つことにした。
「この度は誠にありがとうございました。これで、平穏な暮らしを取り戻すことができます」
「君らの力はすごかった。作戦が功を奏したとしても、その強さがなければ達成できなかっただろう」
「僕らもいい経験になりました。
ところで、カイさん、錬金術とはどのような構造なのですか?」
僕とカイは論議をかわし始める。
「あーあ。また新しいおもちゃ見つけちゃった」
「キョウさんは本当におもしろい方ですね。昨日の戦闘時とはまるで別人のようです」
「村長、茶菓子を持ってこい」




