結束
「魂......ですか」
僕とラーナは、アキの魂に何が起きているのか、リリスとキキラに説明していた。
急に魂と言われても、反応に困るだろう。
しかし、僕とラーナの議論の上では、十分可能性のある話だ。
「前世があるなら、魂があってもおかしくないわね。
わたしにも、サムライだった時の記憶は確かにあるし」
「私も、戦場で散った記憶がはっきりと残っています。
それが2度目の生を受けているのであれば、魂が同じである可能性はありますね」
魂の存在は示唆されている。
けれど、誰もその正体を確かめたわけではない。
手掛かりの少ない議論は、途切れ途切れに続いた。
「確実なことは言えない。
でも、僕は魂のような光を何度か見たことがある。
あれを、単なる見間違いだとは思えないんだ。
見るたびに、身体の奥底から何かが湧き上がってくるような感覚があった」
リリスとキキラは、互いに顔を見合わせたあと、静かにうなずいた。
その表情を見て、僕は2人が覚悟を決めたのだと感じた。
「いずれにしても、アキを治す可能性として、キョウとラーナは神域が関わっていると考えているわけね。
2人の判断ならわたしは信頼できる」
「私もです。論理は納得がいきますし、お二人の意向を優先します」
2人が納得してくれた。
最初に反応をうかがった時には心配していたが、僕らへの信頼は厚いようだ。
とてもありがたく、胸の奥が熱くなった。
≫
父さん、母さんにも説明をし、準備をしたうえでラピッドから出立することにした。
今度の旅はどれくらいかかるかわからない。
なんせ目的地がはっきりしないのだから。
幸い、アキの容態は安定している。
すぐに命を落とす心配はない。
それでも、意識が戻る見込みがないことに変わりはなかった。
だからこそ、今できる準備をすべて整えてから出発したい。
食料や水、ポーション、ロープなど、使えそうな物をラーナの収納魔法に詰め込んでいく。
ジープでどれだけ走行するかもわからない。
精霊石も持てるだけ持ち込む。
焦る気持ちを抑え、必要な物資を一つずつ吟味する。
目的地も道のりも分からない。
だからこそ、準備に妥協はできなかった。
荷造りは1週間ほどで片付いた。
≫
旅立つ前に、領地に必要なことも済ませておく。
まず、僕は父さんにネオポリスで手に入れた耕作機の図面を手渡す。
「これは、田畑を耕す機械か。お前はいつも新しい物を用意してくるな。
これがうまくいけば大きく効率を上げられる。
お前が領主になればよりラピッドを発展させられるだろう。
そうしたらオレは安心して余生を暮らせる」
「父さんが隠居するのはまだまだ先なんだから、気の早いことを言わないでよ」
これを量産できれば、田畑を耕す作業が飛躍的に効率化される。
核となるパーツは用意してあるから、あとは設計図通りに作ればいい。
魔道具屋のベンおじさんなら、任せて大丈夫だろう。
≫
僕はリリスの父、ゴウの前に立つ。
【Lv.26 現世:剣術士 前世:...... スキルポイント:0】
これが今の僕のステータスだ。
やはりリリスは僕の少し上。
【Lv.28 現世:剣術士 前世:サムライ スキルポイント:280】
戦闘ではメインで戦っているから、その分経験値もたくさん入るのだろう。
キキラはLv.30、ラーナはLv.29になっている。
ネオポリスでの戦闘は、大きな経験になったようだ。
「さて、お前らのステータスは見せてもらった。
だいぶ成長しているようだな。今度は実力を見せてもらおうか」
僕とゴウが木剣を持ち、正対する。
ゴウはリリスの父で、領地の守り手だ。
Lv.40の剣術士だ。
僕の戦闘スタイルはカウンターを主軸とし、銃やグレネードに頼った独自のものだ。
しかし、今回はあえて剣術士としてゴウに挑む。
基本となる剣の腕が、格上相手にどれだけ通用するのか確認したい。
それに試したいこともある。
僕は右手に剣、左手に盾、腰に木剣を装備した。
久しぶりに自分より明らかに強い相手と向き合い、心が震えた。
≫
「それそれ!ガードしてばかりじゃ埒があかないぞ!」
ゴウの猛攻をしのぐ。
一撃が速く、かつ重い。
盾でパリィをしても、こちらの攻撃を差し込む前に態勢を整えられてしまう。
最初こそ僕の攻撃はゴウの服をかすめていたが、見切られてしまった今では届かない。
「お前の剣筋は読みやすい。もっと剣を振る直前まで気配を隠しておくんだ」
言うは易し。
頭では理解するがすぐに実践はできない。
ゴウの眼前に盾を押し出し、剣筋を隠して攻撃をしてみる。
「そうだ。お前は両腕が使えるんだ。最大限に生かしていけ」
一瞬、互角に持ち込めたかに思えた。
しかし、時間が経つにつれて、少しずつゴウに押され始める。
経験の差は大きい。
仕方ない、あれを使うか。
僕はゴウに向かって、正面から突進する。
「捨て身の攻撃か?万策が尽きるには早すぎないか?」
ゴウが余裕を持って迎撃態勢をとる。
僕は剣を思いきり上段から振り下ろす。
当然、ゴウはガードする。
そこで僕の背中が動いた。
ガコン!
ゴウの肩に剣が叩きつけられた。
「なっ」
ゴウが驚きの声を漏らす。
もう1本の木剣の持ち主はアームだった。
「おいおい、そりゃ反則だろう。前回のリリスといい、今回のキョウといい......。
まぁ実戦ベースならお前たちの勝ちだ。
お前はスキルがない中でも、自分の戦い方を常に模索しているんだな」
アームは勝ち誇ったように、剣を振り回している。
よくやったと撫でてやると、より一層動きが激しくなった。
アームは普段、僕の背中に張り付くように格納されている。
一見、背中に腕が隠されているようには全く見えない。
アームは僕の切り札だ。
「今回の勝負はお前の勝ちだ。だが、剣術に関してはまだまだ甘い。
キョウ、お前はまだまだ高みを目指せる伸びしろがある。
ちょうどいい機会だ。あらためて鍛えてやる」
僕とリリスは、ゴウから1週間みっちりと鍛錬を受けた。
領地から旅立つ前とは違い、より実戦を意識した稽古だ。
≫
結局、僕らは1か月ほどラピッドに滞在した。
またいつ戻るかわからない旅の前に、故郷の空気をしっかりと堪能できた。
「キョウ、決して無理はするなよ」
「父さんと母さんはいつでも帰りを待っているからね」
2人と抱擁を交わす。
傍らにいるアキの頭を撫でる。
「アキ、どんなことがあっても必ずお前を取り戻すからな」
神域のコンパスが示すのは北の方角。
新たな旅立ち。
定かではない目的地へと進む道のりは、簡単ではないだろう。
本当にこの道でいいのか、突然不安になる。
しかし、僕はすでに決めている。
――アキを取り戻す。
≫
遠くの地。
ドラゴンのまがまがしい瞳が虚空をとらえ、静かに目を閉じた。
お待たせしました。
第2章開幕です!
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