ネオポリス編8 魂のありか
「アキから、魂が離れておる」
一瞬、言葉の意味が解らなかった。
アキから、魂が?
そもそも、魂ってどういうことだ?
「突然そんなことを言われても、理解できんじゃろうな。
順を追って説明しよう」
ラーナは杖を机の傍らに置いて、ほおづえをつく。
「この世界は異常じゃ。すべての住人が異世界転生を経験しておる。
つまり、魂が他の世界から集められておるのだ」
今まで考えたこともなかった。
たしかに、転生しているのなら元の世界があるはずだ。
「わしは、前世で世界の理を探求しておった。
数百年を費やしてもなお、魂については何一つわからなかった。
概念はあったが、存在はまったく確認できなかった」
ラーナが遠い目をしている。
「じゃが、この世界では魂の存在を疑う余地がない。
なんせ、住人全てが前世を持っておるんじゃからの。
前世の記憶を引き継ぎ、別の世界から生まれ変わってくる。
それが、この世界では当たり前に起きておる。
魂の仕組みはわからずとも、その存在を考えずにはおれんじゃろう」
ラーナの言う通りだ。
魂という言葉はある。
しかし、それはあくまで言葉だ。
誰も魂を目にしたことはない。
しかし、ラーナの説明を聞くと魂が存在していると確信できる。
「魂の話はわかったよ。
ラーナの説明は理屈が通っている。
それと、アキにどんな関係があるの?」
ラーナはため息をつき、話を続けた。
「アキの様子を見るに、身体の機能は完全に回復しておる。
脳の働きも問題ない。
それでも、精神が戻らない。
可能性の1つとして、魂の離脱が考えられる」
アキの魂。
「以前、お主からアキが倒れた際の話を聴いたな。
オーバースキル。
おそらく、前世の神の力も絡んでおる」
「それは、アキが勇者だったことと関係がある?」
「まさにそこじゃ。
わしの世界では、勇者とは神から与えられた力を行使して天命を果たしておった。
つまり、その魂は神の干渉を大いに受けていることになる。
アキも勇者だったのであろう?
魂卸も行っておらず、なおかつ己の全てをかけたスキルの発動。
おそらく、魂も対価にしたのじゃろう」
オーバースキル・天葬斬。
あれは、スキルなんてレベルの攻撃じゃなかった。
天変地異のレベルだ。
「力を使い果たしたアキの魂。
ここからはより仮説じみておるが......。
前世の神の力に引っ張られ、体内から魂がぬけてしまったのじゃろう。
世界は神々のつくりし物。
神々がどのような意図で干渉するのかはわからんが、なんらかの影響を与えてもおかしくない。
この世界はいびつじゃからな」
当たり前だと思っていた、この世界。
今思い返せば、2回目の異世界転生をした人物など聞いたことはない。
前世があるので、そういうものだととらえていた。
しかし、魂の存在を想定すれば理屈は通る。
実際、僕は魂らしきものを何度か目にしている。
「ラーナの説が正しいかもしれない。
僕は魂を見たことがある、と思う」
「そうじゃろうと思っておったよ。普通の人間は目にすることはできまい。
お主は特別じゃからな」
たしかに前世がないなんて、僕以外に聞いたことはない。
話をアキのことに戻したい。
「ラーナの仮説が合っていたとして、アキの魂はどうしたら元に戻ると思う?」
ラーナが胸元から球体を取り出す。
それは透明で、中には光を放つ針が浮いている。
「これは、神域のコンパスじゃ。これで神域を探す」
神域。
本で読んだことがある。
神々の住まう土地。
世界の根源。
魂の集う場所。
まるでおとぎ話だ。
だが、おとぎ話ならもう見た。
ドラゴンだ。
「神域を見つけ出せれば、アキの魂を取り戻す可能性があるんだね?」
「断言はできんがの。しかし、魂に一番近い場所は神域じゃ」
アキの身体は完全に回復している。
もう精霊水は必要ない。
しかし、からっぽの器。
魂を取り戻して初めて、アキは元に戻る。
仮説だらけで、本当に進んでよいのかわからない。
しかし、これ以上の手掛かりがないのも事実。
魂の存在が前提となっているこの世界だからこそ、起こりえる事象。
「神域を目指そう」
―第1部 完―
【あとがき 2026/10/22】
ここまでお付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございます。
初作品のため、お目汚しも多かったと思います。
第2章では、キョウたちは文字通り世界に飛び出します。
冒険のスケールもアップします。
これまで1日1話を定期更新しておりましたが、1週間ほど充電期間をいただき、
その後、2章を投稿したいと考えております。
今しばらくお時間をいただくことをお許しくださいませ。




