ネオポリス編7 帰郷
僕らは、今日ネオポリスを発つ。
サイが見送りに来てくれた。
「ダンジョンでは、命を救ってくれてありがとう。
......アームのことは、正直まだうまく整理できていない。
それでも、彼女の最後の言葉は、いつまでも忘れない」
―ご主人様、愛しておりました―
あの言葉は、きっとアームの魂の紡ぎだしたものだった。
僕はそう信じている、いや信じたい。
「新しいアームのこと、よろしく頼むね。
この子に広い世界を見せてあげてくれ」
「わかりました。この子が自分の目で世界を見てどう理解するか。
またお会いするときにお話できたらと思います」
右肩に装着されたアームが、サイに握手を求める。
サイはそれに応じ、次いでアームがサイを引き寄せて抱きしめる。
その感触に懐かしいものを感じたのか、サイの目元が緩んでいる。
「それでは、また会う日まで!」
≫
ヤンク湿原をホバーボートで抜け、平原をジープで走る。
数日後には僕の故郷、ラピッド領にたどり着いた。
この時期の風は小麦の香りを含みつつ、少し肌寒さを感じる。
アキとよくたき火をしたことを思い出す。
≫
見慣れた我が家。
変わったところといえば、早めの冬支度が始まっているところか。
15年触り続けたドアノブをひねって扉をくぐる。
「ただいま!父さん、母さん」
真っ先にアキの様子を見に行く。
侍女に付き添われて車いすに座り、暖炉の火にあたっている。
いまだに目に精気は宿っていないが、血色は前よりもよくなっている。
健在な様子に胸をなでおろす。
ネオポリスで手に入れた精霊水を使えば、アキはもっと回復するはずだ。
もしかしたら完全に回復するかもしれない。
そんな期待を持ちながら医師に薬を渡す。
点滴を通してアキの身体に光る液体が注がれていく。
≫
秋の深まった空。
イワシ雲が広がり、少し肌寒い風が通る。
「兄貴、遅いよ。もっと早く走れ!」
短い茶髪に同い年と比べて少し小柄な身体。
アキが先を走っている。
「待てよ! こっちだって全力で走ってるんだ!」
しばらく追いかけっこをした後、魔竜山脈の山頂にたどり着いた。
適当に乾いた木を拾ってきて、松ぼっくりを火口にしてたき火をする。
「暖かいな」
「この時期はやっぱりたき火でしょ! 実は芋も持ってきてるんだ」
2人で焼き芋を食べる。
ほくほくしていてとてもおいしい。
「兄貴、渡しておくものがあるんだ」
そう言いながら、アキは1本の棒切れを取り出した。
それを黙って受け取る。
途端、強烈な光が僕を包み込む。
――兄貴、頼んだぜ――
≫
ハッと僕は目を覚ました。
そうか、アキを見守りながら寝てしまったのか。
目をこすりながらベッドを見る。
アキがいない。
慌てて周囲を見回すと、朝日の差し込む窓際にたたずむ人影が見えた。
「......アキ?」
アキがこちらに顔を向ける。
―おはよう、兄貴!―
その言葉は聞けなかった。
目には精気が宿っていない。
しかし、こちらに向かってくる歩みには力強さを感じる。
アキがすとんと隣に座ると、僕に身体を預けて眠り始めた。
頭を撫でながらそのぬくもりに身を任せた。
≫
医師の診断によると、身体の機能は完全に回復しているとのことだ。
問題は精神。
アキの人格が戻ってこない。
どうしてだ?身体は回復したんだろう?
まだ精霊水が足りないのか?
思慮をめぐらせているとラーナがアキの目の前に立った。
身体の感触を確かめ、瞳を覗き込んでいる。
「坊主以外はこの部屋から外してくれ。大切な話がある」
父母、リリスとキキラは気にかけつつも、部屋を出ていった。
「坊主。お前の弟が元に戻らない原因だが、わしにもはっきりしたことは言えない。
だが、一つ思い当たることがある」
ごくりと唾を飲み込んで続きを待つ。
「アキから、魂が離れておる」




