アニト編14 帰郷②
「おはよう、父さん、母さん」
何気ない挨拶。
旅立ってからそこまで時は経っていないはずなのに、懐かしく感じる。
「おはよう、キョウ。朝ごはんができてますよ」
今日の朝ごはんは、母さんの得意料理のパンケーキだ。
ふわふわとしっとりが両立していて、店で出してもおかしくないクオリティだ。
キキラとラーナもおいしそうに食べている。
「父さん、今日は見てもらいたい物があるんだ」
≫
人が行きかう町を抜ける。
香ばしいパンの匂い。
ご婦人方の世間話。
何気ないラピッドの日常に安堵する。
僕らは麦畑の間にある川にやって来た。
リリスが空中歩行で対岸に渡り、僕と2人で川の両岸からロープをかける
ロープは鉄で編まれ、そこには魔石が無数にぶら下がっている。
「これで何をするんだ?」
父さんはいぶかしんでいる。
「まあ見ていてよ」
≫
魚釣りをし、それを調理して昼食をとり、2時間ほどが経った。
「そろそろいいかな」
僕はロープから1つの魔石を取り外した。
それを地面に置く。
「みんな、離れていて」
僕は、魔石に取り付けられた小さなボタンを押す。
魔石はしばらく震えたのち、大量の水が放出された。
川の流れのように滞りなく、雪崩のように出続ける。
5分ほど経って、魔石は光をうしなった。
あたりには、水たまりというにはあまりにも大きい水面が広がっている。
「これは......水を蓄える魔石か?」
父さんは、光を失った魔石を手に取り詳細に確認する。
「そうだよ。これ1つで、普通の家なら1か月分くらいの水を貯蓄できる。
普段から川の水を汲みに行かなくてもよくなる。
それに、もし干ばつが来てもある程度は耐えられるようになるよ」
「それほどか!すごい発明だな。これで領地の生活はかなり変わるぞ!」
父さんは満面の笑みを浮かべながら、僕の頭をがしがし撫でる。
もうそんな歳じゃないと思いながら、それでも嬉しさに顔が緩む。
「キョウはすごいんだから!」
リリスが自分の手柄のように胸を張っている。
魔石の半分はリリスが獲ったようなものだから、的外れでもないか。
僕らは残りの魔石とロープを設置した。
≫
おみやげを披露した僕たちは、大通りの見えるカフェで次の計画を練る。
「ハランド、アニト。次に近い街でダンジョンがあるのは、ネオポリスか」
機械の街。
ネオポリスはそう呼ばれている。
「ここからですと、ヤンク湿原を抜けて向かうしかありませんね。
湿原を進むのは容易ではありません。沼地も多く存在します。
何か移動手段を確保したほうがよいでしょう」
旅慣れたキキラが説明してくれる。
ジープでは、重すぎて沈んでしまう。
かといって徒歩だと時間がかかるし、安心して野営できる地点を探すのも一苦労だろう。
地図をたどっていくと、目的地を結ぶ直線から少し外れた所にアニトの街がある。
よし、ジゼットに相談しよう。
彼女ならよいアイデアを出してくれるはずだ。
僕らは一度アニトの街に戻ることにした。




