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アニト編13 帰郷①

アニトの街を出発して1週間。

僕らは、懐かしい麦畑のあるラピッド領に入っていた。

ジープでの移動は、速く快適だ。


「ここが坊主とリリスの故郷か。へんぴな場所じゃの」


ラーナが、つまらなさそうに外を見ている。


「人の故郷を、そんなふうに言わないで。

ここの小麦はほんとにおいしいんだから!」


「それでは、パンを食べるのを楽しみにしておこう」



≫

まずは、真っ先に僕の家に向かう。

早くアキに精霊水を飲ませるんだ。


「ただいま、父さん、母さん!」


「おかえり、キョウ!それにリリス、キキラさん。

おや、そちらのお嬢さんは?」


父である、ルカが訪ねる。


「わしはラーナ。前世は大賢者である」


ラーナが、背筋を伸ばして名乗る。


「賢者様でしたか!これはとんだご無礼を」


「よいよい。今はただの魔法使いじゃ。気軽にラーナと呼ぶがよい」


ラーナの紹介が終わった後、すぐにアキの部屋へ向かう。



≫

アキはベッドの上にいた。

以前と同じく、視点は定まらず、持ち上げられた腕はふらふらと宙を舞っている。


「ただいま、アキ。薬を持ってきたからね。待たせてごめん」


アキの身体を抱き起こし、口元に瓶を持っていく。

ゆっくりと瓶が空になっていく。

飲み終わると、アキは目を閉じ眠りについた。


2時間後、アキは目を覚ました。

皆の視線が注がれる中、アキは身じろぎをした後、ゆっくりと上体を起こした。

感嘆の声が漏れる。


「アキ!」


僕は力強くアキを抱きしめた。

弱弱しいながらも、アキが抱き返してくれているのが伝わった。

僕は、人目をはばからずに大声で泣いた。



≫

アキはまだベッドから下りることはできないものの、上半身を動かして、手近にある物に手を伸ばせるようになった。

手渡してあげると、物珍しそうに角度を変えながら見つめている。


以前より視線ははっきりしたが、まだ意思は感じられない。

それでも、回復したことを喜ぶ。

精霊水は、やはりアキの薬なのだ。

ダンジョンを攻略して集めていけば、いずれ以前のアキを取り戻せる。

僕は確かな感触を感じた。


「......」


ラーナは、その様子を物憂げに見ていた。



≫

その夜、僕らは祝賀会を開いた。

その席には、傍らを支えられたアキも参加している。

暖炉の火に照らされたアキの顔は、以前よりも精気を帯びている気がする。


夕食のメインは、アニトの街でとれた1mほどの赤身の魚だ。

ここ、ラピッド領は海から遠く離れているため、あまり魚を食べる習慣がない。

台所でラーナが収納魔法から魚を取り出したとき、母さんは腰を抜かしていた。

捌き方がわからないということで、キキラが調理を担当した。

野菜とともに煮込んだ鍋が運ばれてくる。


父さんが魚を口に運ぶ。


「うまい!ほら、母さんも」


「新鮮な海の魚はこんな味がするのね!お肉よりも繊細な味がして、すごく好みだわ」


二人に喜んでもらえて、僕らは満足した。


それからリリスは自宅に帰り、キキラとラーナは僕の家に泊まった。

久しぶりの自分のベッドだ。

最後にこのベッドで眠ってからこれまでの記憶をたどっている内に、僕は眠りについていた。



≫

翌日。

久しぶりの実家はとてもよい。

見慣れた家具。

壁のシミすら心地よい。

冒険が板についてきたとはいえ、元々僕はこの家で育ったのだ。

心から落ち着く。


「おはようございます」


廊下でキキラとすれ違った。

寝起きとは思えないほど、容姿が整っている。

さすが大人の女性だ。


一方の僕は、寝癖を押さえつけるのに必死だ。

キキラが、ごそごそとブラシと瓶を取り出した。


「これを付けると寝癖がすぐ直りますよ」


キキラが液体を髪に塗り、ブラシでとかしてくれる。

小さい頃に、母さんに髪を整えてもらっていた時のことを思い出す。


「気持ちいい」


思った言葉が口をついて出た。

キキラはいったん僕の顔を覗き込んだ後、微笑んでまた髪をとかしてくれた。


「朝からいちゃついておるの」


気が付くと、ラーナが廊下の隅に立っていた。


「そんなことありません!」


キキラは少し慌てているようだ。


「ただ寝癖を直してもらっていただけだよ」


「ただ...ねえ」


ラーナのまなざしからは、何か含みを感じる。


「さあ、髪も整いましたし、朝ごはんに行きましょう」


キキラがせかしてきた。


「急がなくても、朝ごはんは逃げないよ」


僕は、ゆっくりと食堂に歩いて向かった。


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