アニト編7 秘めた想い
しっかりと睡眠をとり、31階へと進む。
これまでの灼熱の砂漠とは違い、今度は氷河だ。
寒い。
ラーナが防寒具を出してくれ、それに着替える。
それでもまだ寒い。
ごつごつした氷だらけのこの地形ではジープは走れそうにない。
僕らは徒歩で次の階を目指した。
途中、崖沿いの道を歩くことになった。
僕とキキラ、リリス、ラーナの順番で進んでいく。
突如、僕の足元が崩れた。
「危ない!」
とっさに差し出されたキキラが僕の腕をつかむ、が体重を支えきれずともに落下する。
「キョウ、キキラ!」
リリスの声が遠くで聞こえた。
≫
気が付くと、僕らは谷底に倒れていた。
新雪が積もっていて、クッションになったようだ。
キキラを確認する。
特にケガはしていない。
安心する。
「キキラ、起きて」
何度か揺さぶると、キキラは目を覚ました。
「ここは......キョウさん!無事ですか?」
「なんともないよ。この雪がクッションになってくれたみたい」
「よかった。キョウさんに何かあったらと思うと、耐えられません」
キキラが安堵のため息を漏らす。
「とりあえず移動して、野営できる場所を探そう。
このままでは凍え死んでしまう」
≫
ネックレスに話しかけるがリリス、ラーナからの応答はなかった。
圏外のようだ。
2人は31階の扉を目指している。
ゴールで合流できるはずだ。
歩いていると適度に広い洞窟を見つけた。
僕らはここで野営をすることに決めた。
テントを設営し、たき火をする。
手がかじかんで、うまくマッチを擦れない。
キキラが手を握ってきた。
「こうすると、体温が移って暖かくなりますよ」
僕は少し赤面しながら待つ。
やがて指の感覚が戻り、マッチを擦ってたき火を起こした。
≫
キキラと2人きりになるのは初めてだ。
普段は何気なく会話しているのに、どう話してよいのかわからない。
「お2人はご無事でしょうか」
「リリス1人なら心配だけど、ラーナが付いてる。心配ないだろう」
前世であまたの経験をしているラーナなら、雪原での対応も心得ているはずだ。
「2人きりですね」
改めてキキラが言う。
「普段はあの2人もいるからね。新鮮な感じ」
隣に座っているキキラが距離を詰めてきた。
身体が密着する。
思わずドキッとする。
「寒い中では、こうやって身体をくっつけて体温でお互いを温めるそうですよ」
キキラの顔も少し赤い。
静かな時間が流れる。
不思議と心地よい。
「温かい飲み物を準備するね」
2人でお茶をすすって暖を取る。
さすがに冷えてきたので、テントの中に入る。
キキラが意を決したように話を始めた。
「キョウさんは本当の私を見てもそばにいさせてくれた。
感謝しています」
「何を改まって。仲間なんだから当たり前じゃないか」
「仲間......ですか」
キキラの表情が一瞬曇る。
「キキラが抱えているものの大きさは正直まだわからない。
でも、僕は君が前世と決別をして幸せになってくれたらなと思ってる」
キキラの目から涙がこぼれた。
「キョウさん、貴方は本当に優しい方ですね」
再びキキラが身体を寄せてきた。
今度は抱きしめられる。
「貴方は私にとって特別な方。たとえどんな困難からも守り切って見せます」
「僕にとってもキキラは特別な存在だよ。大切な仲間。
命に代えても守り抜く」
「そうではないのです」
キキラの腕に力がこもる。
「もう貴方のいない世界など、想像できません。
これからも貴方の姿をそばで見させてください」
温かい。
僕はキキラのぬくもりに包まれたまま、いつの間にか眠りについた。
≫
キキラは、キョウの顔を見ている。
女性のような長いまつげ。
くっきりした二重。
細身ながらも鍛え上げられた肢体。
抱きしめながら実感する。
私は、キョウが好きなのだと。
キョウの顔を見ていると、胸が高鳴る。
自分の中の衝動を抑えられない。
キキラの顔が、キョウに近づいていく。
キョウの唇に微かな熱がともった。
≫
翌日、吹雪は止んでいた。
「おはよう、キキラ」
「キョウさん、おはようございます」
気のせいか、キキラの顔が赤い。
熱でもあるんだろうか。
キキラのおでこを触る。
特に問題なさそうだ。
急に触られたキキラは当惑しているが、いとおしそうにその手を撫でる。
「朝食を食べたら出発しようか。早く2人と合流しないと」
≫
「ほんっと、ラーナがいてくれてよかったわ。
おかげでストーブにあたりながらぬくぬくできた」
「日頃の備えが足らん。
特にこのダンジョンでは、環境も気候も異なる階層ばかりじゃ。
ボスに会う前に力尽きるものも多い」
「ラーナ様、一生ついていきます!」
リリスがラーナに抱き着く。
うっとおしそうにリリスを引きはがす。
「さて、そろそろ出発しようかの。2人の安否が心配じゃ」
―私はキョウさんに惹かれております―
リリスの中でキキラの声が思い出される。
まあ、変なことにはなっていないか。
2人は荷物をまとめて歩き出した。
≫
31階の出口の扉が見える。
そこに2つの人影。
リリスとラーナだ。
僕たちは駆け寄る。
「息災で何より。問題なかったかの?」
「ええ。暖房の備えがなかったので、2人でくっついて暖をとっていました」
「くっついて?」
リリスが素っ頓狂な声をあげる。
「人肌って温かいんだね。とても気持ちよかったよ」
「ほほう。あとでゆっくり聞かせてもらおうかの」
ラーナがにやついている。
何かあったのか?
リリスは勘繰る。
2人の距離が心なしか縮まっている気がする。




