アニト編3 賢者
僕の喉元には敵の杖。
死を覚悟する。
......攻撃が来ない。
「レベルの割にはよくできた戦い方じゃが、まだまだじゃな」
魔物がしゃべった?
喉元から杖が引かれる。
緊張感が紐解かれる。
「そこのお嬢は剣筋がよい。
スキルの精度はまだまだじゃが、いづれ向上するじゃろう」
リリスを見て言う。
不思議そうな顔をしている。
「娘っ子。範囲ヒールとは珍しいの。
ヒーラーが前衛とはヒヤヒヤしたが、それなら問題なかろう」
キキラはまだ頭が状況に追いついていないようだ。
「最後に坊主。よい目をしておる。
覚悟のある者の瞳じゃ。
戦い方は危うげではあるが、スキルを使わずあそこまで戦えるのは立派の一言」
僕のことか。
これは褒められているのか?
頭を疑問符が埋め尽くす。
「おっと、わしとしたことが紹介を忘れておったの。
わしはラーナ。
前世は大賢者と呼ばれ、現世では魔法使いをしておる」
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とりあえず敵ではなさそうなので簡単にお茶の準備をする。
【Lv.22 現世: 魔法使い 前世: 賢者 スキルポイント: 250】
ラーナ。
歳の頃は15だろうか。
赤い髪で黄色い瞳。
上半身はだぼだぼのローブを着て、下半身は太ももの見えるショートパンツを履いている。
猫耳と尻尾がある。
「10階の魔物はどこに行ったんですか?」
「わしが倒した。造作もないわ。
そしてお主らを待っておった」
ラーナがお茶をすする。
「ラーナさんはお強いんですね。
それと僕らを待っていたというのは?」
「呼び捨てで構わんよ。堅苦しいのは性に合わん。
言葉の通りじゃ。ハランドの次にはここに来ると踏んでおった。」
確かにハランドの近くで次にダンジョンがある街はアニトだ。
しかしなぜ?
「お主ら、エクストラステージをクリアしたじゃろ」
「エクストラステージ?」
「そう言ってもわからんか。
50階のさらに下の層のことじゃ」
エクストラステージ......51階のことだろうか?
「わしは待っておった。
この世界を解明できるものを。
お主らは世界の真理に一歩近づいたんじゃよ。
そしてそれだけ強い願いの持ち主の証明でもある」
たしかにダンジョンに50階より下層があるなんて聞いたことがなかった。
「茶だけでは味足らんの。どれ」
ラーナの手を振る。
手の周りの空間に裂け目ができた。
中からパウンドケーキが取り出される。
こんな魔法見たことがない。
「収納魔法じゃよ。おかげで手ぶらで歩ける。制限はあるが」
パウンドケーキを食べながら話を続ける。
出来立てのようにふわふわしている。
「わしは近場のダンジョンに探知魔法を張っておった。
そこに引っかかったのがお主らだ。
わしはこの世界の真理を探求しておる。
エクストラステージをクリアしたものなら問題あるまい。
わしを仲間として連れて行け。
実力は先ほど証明した」
たしかに強かった。
あのままでは負けていた。
その魔法使いが仲間になってくれる。
願ってもない話だ。
逡巡しているとラーナは話を続けた。
「わしは前世では大賢者と呼ばれておった。
数百年を生き、魔法と世界の真理を追い求めていた。
だがあるときに弟子に謀殺されてしまっての。
気がついたら若返っていて、尚且つ美少女ときた。
異世界転生万歳じゃ!」
いきなりキキラの豊満な胸に飛び込む。
「これも今なら許される」
キキラが困っているので引き剥がす。
「ちなみにその耳と尻尾は?人間だよね?」
「そうじゃよ。前世が獣人だったが故、これがないと安心できん」
つまりはつけ耳としっぽ。
ただの趣味か。
思わず苦笑する。
≫
「して、仲間にする話はどうじゃ?」
「そうですね......」
その前にまずは僕らの旅の経緯を説明する。
廃人になってしまったアキを助けるために精霊水を求めていること。
各地のダンジョンを攻略したいこと。
「エクストラステージに精霊水か。誠におもしろい!」
ラーナの瞳が輝いている。
僕はリリスとキキラの顔を見る。
「わたしは賛成よ。魔法使いをちょうど探していたし、何より強い。
こうしてダンジョン内でおいしいケーキも食べられるようになるしね」
リリスは3切れ目のケーキに手を伸ばす。
「私も賛成です。この先遠距離攻撃は必要になります。
それに前世が大賢者だなんて、心強いではありませんか」
「うむ、満場一致だの。これからよろしく頼む」
僕はまだ意見してないのだが。
でも確かに賛成だ。
このパーティーに欠けていた魔法使い。
実力は先ほどの戦闘で証明済みだ。
前世が大賢者ならおそらく知識も豊富であろう。
「よろしくラーナ。
改めまして、僕はキョウ。
弟を救うために旅をしている」
「また堅苦しいのう。しかし礼儀として返さねばならぬか。
わしは大賢者ラーナ。
世界の理を探求するものじゃ。よろしく頼む」
こうして旅の仲間が1人増えた。




