アニト編2 アニトのダンジョン①
――ここは海に近いアニト街。
アニトは魔法の街としても有名だ。
僕らは門をくぐった。
ハランドと違い土壁の家々が目に付く。
潮風に乗って海の香りが漂ってくる。
「キョウ、見てこれ。魚の串焼きが売ってる!」
さっそくリリスは物色を始めたようだ。
冒険者ギルドに向かうまでに屋台であれやこれやを買って食べている。
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「アニトの冒険者ギルドによく来たね」
ベテランそうな女性が告げる。
「アニトのダンジョンの推奨ランクはD以上だよ。
あんたたちのランクならとりあえずは問題ないね。
ただ、下層に行くときには十分気を付けるんだよ。
あたしが見た冒険者がアニトで最後を迎えるなんて嫌だからね」
なんだかんだで面倒見がよさそうだ。
ダンジョンについて情報をもらう。
このダンジョンの特色はステージの変化だそうだ。
階層ごとに平地や森、砂漠や山脈が存在する。
石壁だらけだったハランドとは大違いだ。
「あんたたちはハランドから来たんだったね。
ハランドは短い階層が多いから、その日のうちに帰ってこられることが多い。
でもここでは2~3日かかることもざらさ。
野営の準備をしっかりして挑むことだね」
持っていくと役に立つ魔道具や日持ちする食料について教えてもらった。
≫
僕たちはとりあえずアニトを観光することにした。
港があるせいか異国情緒にあふれている。
「あれ、着物だ」
リリスが指をさす。
赤い大きな一枚の布を帯びでまとめ、しゃなりと上品な歩みをした女性が目に入る。
「前世ではわたしも着物を着ることがあったのよ。
今度見せてあげる」
「普段は洋服ですから、とても楽しみですわ」
似合っている、と言わないと怒られるんだろうなと想像する。
僕らは海を目指して歩いた。
僕とリリスが育ったラピッド村、そしてハランドは大陸の中よりにある。
そのため海は初体験だ。
「すごい!ほんとに水がいっぱいだ!地平線まで全部水!」
リリスが興奮している。
さっそく海に飛び込む。
「うえ、しょっぱい」
「海の水には塩が溶け込んでいて塩辛いんですよ」
キキラは海に来た経験があるようだ。
リリスが海から上がってくる。
「なんか体がべとべとする」
「海水が付いて乾くとそうなるんです。
早めに宿をとってお風呂に入りましょう」
僕らは手ごろな宿を探して宿泊した。
≫
――魔法の街アニト。
多くの魔法使いが集まる。
歩いていると魔法を使った大道芸が目に入る。
炎の玉を複数操り、最後は花火のように上空で弾け飛ぶ。
観衆が拍手を送っている。
この街には闘技場もある。
魔法使い同士が名誉と地位をかけて争うものだ。
僕らは観戦に赴いた。
闘技場の中央では大柄で大きな杖を持った男が相手をにらみつけている。
一方、対戦相手は小柄でフードを目深にかぶっている。
男女の区別がつかない。
開始のゴングが鳴る。
動いたのは男。
「スキル・ファイアボール!」
ワイトキングを彷彿とさせる火の玉が相手に向かって飛んでいく。
フードの選手はそれをひらりとかわした。
「スキル・ファイアウォール!」
フードの逃げ道を塞ごうという作戦か。
「スキル・ファイアランス!」
炎の槍が形成される。
大きい。
炎の壁に阻まれながらこれをかわすのは無理だろう。
男が槍を放つ。
フードの選手に直撃する。
勝負はついたかに見えた。
煙が晴れると槍が凍りついている。
あの燃え盛る炎を?
すごい魔法だ。
冷気はそのまま細かな矢となり男に降り注ぐ。
男の身体から力が抜け、倒れ込む。
決着のゴング。
「魔法の試合なんて初めてみたけれど、やっぱりすごく強力ね」
「うん。僕らのパーティーにはいま遠距離攻撃できる味方がいない。
それに魔法使いならバフの効果も期待できる」
「バフ?」
「味方にかける上昇効果のことですよ。
例えば身体強化をして力を上げるとか」
「それがあったらわたしの剣がより強くなるわけね」
≫
僕らは闘技場を後にした。
この街には魔法使いがあふれている。
僕らのパーティーに加わってくれる人がいるといいな。
翌日、僕らは魔道具屋に向かった。
アニトは魔法とともに魔道具も有名な街だ。
ギルドの受付の女性におしえてもらった魔道具屋を探す。
魔道具屋に入って店内を物色する。
水筒を見つけた。
この水筒の底には魔石が仕込んであり、事前に給水させると3日分程度の水が蓄積される。
水は大切だ。
次は火の準備。
階層によっては砂漠もあるようなので、焚き木に頼れない場面もあるだろう。
粉の入った袋を手にする。
この粉は魔石に振りかけると長時間燃焼するそうだ。
軽くて荷物の負担にならないのはありがたい。
「あんちゃん、ダンジョンに潜るならこれもおすすめだよ」
店主が話しかけてくる。
数本の棒状の魔道具が目に入る。
「これは簡易的な結界を張るものだ。
テントの周りに立てておくと、レベルの低いモンスターからはテントが見えなくなる。
安心して休めるってわけだ」
こんな便利な物もあるのか。
それら一式をまとめ買いする。
旅の資金について心配する必要がないのは助かる。
以前のクエストで命を救ったドランが定期的にお金を銀行に振り込んでくれている。
口止め料、という名目ではあるが、よっぽど恩義に厚い人物のようだ。
「キョウ、わたしお腹がすいたわ」
「もうお昼の時間ですね。どこかおいしいお店を探しましょう。
あそこなんていかがです?」
キキラが指さす先には大きな看板の店があった。
【アニトといえばこの店! 前世は腕利きの漁師】
前世が漁師の店なら魚の質はお墨付きだろう。
テーブルにつく。
リリスが多めに注文した料理が運ばれてくる。
魚の塩焼き、煮込み、生できれいに切りそろえてあるもの。
どれも新鮮でおいしい。
特に刺身と呼ばれる生の切り魚はおいしかった。
この黒いソースは醤油と呼ばれるもので、店主の前世の世界では主流な調味料だったらしい。
これもダンジョンに持ち込もう。
僕らは宿に戻った。
まずは魔法使い探しだ。
明日はギルドでメンバーを募集してみよう。
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翌日ギルドに向かう。
杖を持った人があふれている。
「僕らのパーティーの仲間になってくれる魔法使いの方はいらっしゃいませんか?」
声を張り上げる。
数人が声をかけてくれた。
だが僕のスキルパネルを見ると遠ざかっていく。
やはりスキルがないメンバーのいるパーティーに入りたい者はいないか。
「キョウさんは悪くありません。
魔法使いはこれからゆっくり探していきましょう。
アニトの滞在期間は長くなるでしょうし。」
キキラが励ましてくれる。
「ありがとう。
みんなを守るためにも、なんとか魔法使いにパーティーに入って欲しいな」
「わたしの剣があれば大抵の魔物なら問題ないわよ!」
リリスが鼓舞してくれた。
明日からはダンジョン攻略の再開だ。
アニトのダンジョンはどんなものだろう。
胸が躍る。
最下層を攻略すれば、僕とリリスの願いが聞き届けられたらまた精霊水がドロップするはずだ。
一刻も早くダンジョンに潜りたい衝動を抑え、眠りについた。




