アニト編1 旅路と魔法使い②
アルは25歳。
前世は魔法使いで、現世でも魔法使いをしているそうだ。
得意な魔法は氷系。
聞くところによると、アルの世界では魔法は完全に管理され、魔物も存在しなかった。
魔法は特別な者に与えられる才能であり、それだけで周りからあがめたてられた。
魔法を使う場面は名誉と地位をかけた決闘場のみ。
そこには特殊な結界がかけられており、死人がでることはない。
アルはほどほどの成績を残して引退し、余生は静かに暮らしたらしい。
「だから、この世界に来て初めて魔物を見たときは驚いた。
あんなにも恐ろしい生き物がうようようろついているだなんて......」
アルは少し震えている。
「行きは護衛のついた馬車で来たからよかったんだ。
運よく魔物にも遭遇しなかったし。
だけど今は馬車が通っていなくて、なおかつバジリスクまでいやがる」
「わかりました。戦闘は僕たちメインで行いますね。
できたら支援をお願いします」
「おう。遠距離なら大丈夫だと思う」
こうして僕ら4人はバイ村に向けて歩き出した。
≫
歩き始めて1日半。
平地を抜けて森の中を進む。
まとわりついてくる虫がうっとおしい。
しばらく歩いていると開けた場所に出た。
静寂。
鳥の声が止んでいる。
代わりにスルスルという音が聞こえる。
木々の間からバジリスクが顔を出した。
紫色の大型のヘビ。
直径2mはありそうな太い胴体。
読んだ本の記憶によると毒はないはずだ。
頭の位置は地上から10mほどだろうか。
リリスとキキラの攻撃は届きそうにない。
「アルさんは後ろにいてください。
リリス、キキラ、行くよ!」
3人でバジリスクとの戦闘に入る。
巨体のわりにすばしっこく、僕とキキラの攻撃はかわされてしまう。
俊敏なリリスの刀だけが傷をつけていく。
僕も負けじと銃を放つ。
少しずつ体力を削っていくが、決定打には足りない。
「アルさん、魔法で頭を狙ってください!」
アルはうろたえながら杖をかまえる。
「ス、スキル・アイスランス!」
氷の矢が生成される。
だが、明後日の方向に飛んでいく。
アルの魔法には期待できないようだ。
さすがのリリスでもこの胴体は両断できそうにない。
「悔しいけど一旦撤退しよう」
僕らは逃げだした。
運よくバジリスクはあとを追ってこなかった。
≫
森の中で夜を迎えた。
テントを張り、たき火をする。
用意してきた干し肉と野菜で簡単なスープを作る。
「さっきの戦闘はすまなかった。
あいつを目の前にしてびびっちまった」
アルがすまなさそうな顔をしている。
「初めての戦闘ですから、しょうがないですよ」
フォローを入れる。
アルのアイスランスはしっかりとしていた。
当たればバジリスクを倒せるはずだ。
問題は集中して放てるかどうか。
「お前たちはどうして魔物相手に躊躇なく戦いを挑めるんだ?」
アルが訪ねてくる。
「わたしたちには大事な目的があるの。
そのためなら魔物なんか当たり前に倒すわ」
「私も冒険者を長くしておりますので、魔物との戦いは心得ております」
「......怖くないのか?魔物にやられるかもしれないんだぞ?」
「僕にはゆずれない願いがあります。
そのために命を懸ける必要があるなら迷いはしません」
アキの顔が頭をよぎる。
「オレより若いのに、覚悟が違うんだな」
アルは考え込む。
「人間、いつかは死ぬ。わたしは黙って殺されるのは嫌。
抗って抗って、それでもかなわなければしょうがないことよ」
リリスの目の奥に決意が宿っている。
「あなたのお母さんがバイ村にいるんでしょ?
バジリスクは今は街道にいるけど、村が襲われる日が来るかもしれない。
その時にあなたは守れる力があるのに何もしないの?」
「それは......」
「あなたには魔法という力がある。
それを使ってみんなを守るのが力のある者の責任じゃない?」
「......そうだな。村のみんなが蹂躙されているのに何もできないなんて、
恰好がつかない。
オレも覚悟の決め時か」
その夜、僕らが寝入ったあともアルはたき火を眺め続けていた。
≫
翌日。
手早く後片付けをして昨日バジリスクに出くわした場所へ向かう。
やつはそこに鎮座していた。
「今度こそ奴を倒そう」
昨日と同じように3人で挑む。
同じ轍を踏まないよう、今回は僕がおとりを務め、キキラとリリスが攻撃に専念する。
銃でけん制しつつ、グレネードでダメージを与える。
その合間に二人が胴体を切り刻んでいく。
≫
突如アルの後方の森が揺れた。
バジリスクがもう1体現れた。
獲物を見つけてチロチロと舌を出し入れしている。
アルは凍り付く。
3人は眼前のバジリスクとの戦闘で手いっぱいだ。
今すぐ逃げ出したい。
「あなたのお母さんがバイ村にいるんでしょ?
バジリスクは今は街道にいるけど、村が襲われる日が来るかもしれない。
その時にあなたは守れる力があるのに何もしないの?」
昨日のリリスの言葉を思い出す。
いつまでも逃げてなんかいられない。
震える手を押さえながら、迫るバジリスクに集中する。
「オレはこの世界でも生きていくんだ。
おふくろを、バイ村のみんなを守るために!」
一呼吸したのちに魔法を唱える。
「スキル・アイスランス!」
氷の矢が放たれる。
一直線にバジリスクの頭に当たり、片目を削り取った。
いける。
「くらえ、スキル・アイスストーン!」
バジリスクの頭上に大きな氷の塊ができ、重力に引かれて落ちていく。
着地と同時に氷と血がはじけ飛ぶ。
バジリスクの頭部が完全につぶれた。
「やった!オレが倒したんだ!」
≫
「スキル・刺突!」
最後は弱った胴体をリリスの突撃が貫き戦闘が終わった。
後ろを見るとバジリスクがもう1体倒れている。
「それ、オレが倒したんだぜ!」
アルは誇り顔だ。
「人間、大事なものがあれば覚悟が決まるんだな。
教えてくれてありがとう。
これからはこの力を人を守るために使おうと思う」
もう魔物を目にして震えていたアルはいない。
》
バイ村に到着した。
アルが村の名物のイノシシの丸焼きをご馳走してくれた。
アルが考えた後、言葉を発した。
「なあ、オレを仲間にしてくれないか?」
魔法使いが仲間になってくれたら助かる。
アルの魔法は強力だ。
だが断る。
「アルさんには大事な故郷があります。
お母さんの治療も必要なはずです。
お気持ちはうれしいですが、アルさんはあなたにしかできないことをして欲しい」
「......そうだな。オレはこの村が好きだ。
それにお前たちほどの覚悟があるわけじゃない。
オレはオレにできることをする。
ありがとな」
アルの顔には自信が満ちていた。
バイ村からは次の町まで馬車が出ている。
アルから選別にとイノシシ肉を受け取った。
「お前たちの望みが叶うよう願ってるぜ」
馬車が見えなくなるまで、アルは手を振り続けた。




