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ハランド編11 血塗られた首②

リリスは暗闇の中にいた。

目の前には血のべったりついた刀と無数の首。


私は罪を犯したのだ。

無実のものを惨殺し続けた。

リリスの精神がより深く沈んでいく。


暗闇の中に一筋の光が差す。

遠くの方から微かに声が聞こえる。


―リリス―


聴きなじみのある言葉。


―リリス―


父さんと母さんが現世でつけてくれた名前。

好きな花からとった大切な名前。


そうだ、わたしはリリス。

もう首切り役人の〇〇ではない。


ラピッド村で過ごした記憶が蘇る。

優しい父、母。

野山を駆け回った親友たち。


リリスは光に手を伸ばした。



≫

リリスのスキルポイントが回復していく。

マイナスからプラスへ、そして満タンに。

リリスが目を開いた。

生気が宿っている。


「キョウ?」


「そうだよ、戻ってきてくれたんだね!

リリス!リリス!」


わたしはリリス。

親友のアキを助けるために旅をしている。

人を殺すためではない。

人を助けるためだ。


「わたしを前世からすくいとってくれてありがとう。

あなたとの現世の記憶が呼び起こしてくれた」


キキラがヒールをかける。

まだ少しよろついているが、リリスの瞳には依然と違う輝きが宿っている。


「まずは目の前のでかぶつをなんとかしましょ」


「僕に作戦があるんだ。キキラ、君には迷惑をかけてしまうと思う」


「大丈夫です。大切な仲間ですから」



≫

3人で駆け出していく。

それぞれが1本ずつ首を担当し、さばいていく。


僕とキキラの攻撃では首は斬り落とせないが、注意は分散できる。

リリスが跳躍する。


「スキル・剣舞 弐式!」


3本の剣筋が同時に襲う。

首を1本切り落とした。


最初に比べてヒュドラの再生スピードは明らかに落ちている。

その隙を狙う。


「二人とも、お願い!」


残り2本の首の対処を任せ、僕は胴体へと向かう。

途中かみつかれそうになるが、間合いを把握した僕は紙一重で回避する。


僕はヒュドラの胸部に盾を押し付けた。

衝撃に備えて十分な姿勢をとり、盾についているスイッチを押す。


――爆発


盾に取り付けられた対人地雷が起動し、爆風とともに無数の鉄球が飛び出す。

ヒュドラの胸部は跡形もなく吹き飛んでいる。

紫色の核が露出する。


その代わり、僕も吹き飛んだ。

強烈な痛み。

腕をみるとあちらこちらに折れ曲がっている。


「二人とも、今だ!」


キキラの槍が核を砕いた。

ヒュドラは短い悲鳴をあげ、どすんと地面に倒れこんだ。


勝ったのだ。


「やったね!僕らはヒュドラを倒したんだ」


腕の激痛に耐えながら勝利の余韻にひたる。


「スキル・ハイヒール。

まったく、キョウさんはいつも無茶をしすぎです。

前もって聞いていたからよかったものの、危うくまた発狂するところでしたよ」


キキラにたしなめられる。


「あなた、ここ1か月でほんと変ったわよね。

村にいたころは慎重な性格だったのに、今はもうめちゃくちゃ」


リリスがため息をつく。


「キョウ、本当にありがとう。

さっき全部思い出したんだ。

私、前世で罪のない人を大勢斬っていた。

罪の意識に飲まれこんで暗闇にしずんでいたの。

キョウ、あなたの光が私を救い出してくれた」


「リリス......。君は僕にとって大切な存在だ。

何ものにも代えがたい。

戻ってきてくれて本当によかった」


キョウが涙を流す。

つられてリリスも泣いた。



≫

「お礼は言ったし、さっきの話の続きよ。キョウは無茶しすぎ」


「無茶は無茶なんだけどさ...一応僕なりに最善の手を考えて行動しているつもりだよ」


「これのどこが最善よ!」


リリスが腕をちょんとつつく。

激痛。


「はい......まったくもってごめんなさい」


「反省してるならよろしい」


リリスとキキラは笑った。


リリスのスキルポイントを回復させたあの緑色の光はなんだったんだろう。

集中してみるが今は力の奔流を感じない。

得体のしれないものが体内にあるかもしれないという感覚は少し怖いが、

よい方向に働いたのだから今は気にしないでおこう。



≫

腕を動かせるようになったところでヒュドラのいた場所に目を向ける。

そこには金色に輝く宝箱があった。

ごくりとつばを飲み込んでから慎重に開ける。

中には白く光る液体の入った瓶があった。

不思議な光だ。


「これはポーションのようですが、通常のものとは違いますね。

白色で、しかも輝いているものなんて聞いたことがありません」


長年冒険者をしているキキラが言うのだ。

きっと特別なものなのだろう。


ダンジョンの宝箱はその人の一番強い願いを具現化する。

このポーションがアキを治すものがどうかは今はわからない。

それでも確信する。

僕とリリスの願いはアキを救うこと。

迷宮が願いに報酬を与えるのであれば、これはアキに対しての薬に違いない。


僕たちは一度アキの待つラピッド領に帰郷することにした。



≫

ハランドのダンジョンから遠く離れた地。

フードを目深にかぶった人物が湖のほとりに立っている。


「ほほう、エクストラステージをクリアしたものが現れたか。

人よりも強い願い......強敵を倒す実力。

出会うのが楽しみじゃ」


湖畔が少し揺れて波紋ができた。


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