ハランド編 完結 帰郷①
僕たちはラピッド領に帰ってきた。
一面の金色に輝く麦畑。
レンガ作りの家々が立ち並ぶ。
人口は多くないが、それなりに活気のある大通り。
僕らはそこを抜けて家路を急ぐ。
≫
「父さん、母さん、ただいま」
「キョウ!心配してたんだぞ」
この領主の父、ルカ=ラピッドが声を張る。
「父さん、いつも貴方のことを心配してそわそわしてたのよ」
母のシリが微笑みながら出迎えてくれる。
「リリスもお帰りなさい。旅路は大変だったでしょう。
ところで、こちらの女性の紹介をしてくれるかしら?」
「彼女はキキラ。旅の途中で仲間になってくれたんだ」
「お初目にかかります。
ヒーラーを務めさせていただいております、キキラと申します。
たとえどんな傷でもキョウさんは私が癒しますので、ご安心を」
キキラが白髪をなびかせながら優雅に挨拶をする。
さすが大人である。
「おじさん、おばさん、ただいま!
キョウがふがいないからわたしがいつも助けてやってるわ!」
リリスの言葉には一切の配慮がない。
「キキラさん、リリス、キョウを守ってくれてありがとう。
父としてお礼を申し上げたい」
深々と頭を下げる。
「それにしてもどうして急に帰省してきたのかしら?」
「ダンジョンで手に入れた薬をアキに試したいんだ」
懐から白く輝く液体の入った瓶を見せる。
母が驚く。
「私はポーションに精通しているつもりだけど、こんな薬は見たことがないわ」
「これはダンジョンの隠し層でドロップしたんだ。僕とリリスの願いをかなえてくれるものであれば、アキの薬に違いないと思う」
≫
アキの身体は点滴につながれている。
身体の状態を示す魔道具のモニターが、ピッピッと音を立ててアキの鼓動をおしえてくれている。
「あれからアキの様子は?」
「あなたが旅立つ前と同じ。寝たきりで目も開いていないわ」
母が悲しそうに言う。
僕は主治医に頼み込んで例の白く発光する液体を点滴に混ぜてもらう。
本当にアキの精神汚染を治す薬なのだろうか。
一抹の不安がよぎる。
ベッドのかたわらの椅子に腰かけ、アキの手を握る。
≫
いつの間にか寝てしまっていたようだ。
もうすっかり日が暮れている。
突然握っていたアキの手がぴくっと動いた。
アキがゆっくりと瞳を開ける。
「アキ!キョウだよ!わかる?」
返事はないが視線は僕を向いている。
「みんな!アキが目を覚ましたよ!」
居間で談笑していたみんなが走ってくる。
「アキ!」
それぞれが思いのまま声をかける。
アキはそれぞれに視線を向ける。
「ああ、アキが目を覚ましてくれた...」
母が泣き崩れ、父がそれを支える。
「アキ、わたしリリスよ。わかる?」
アキとリリスの視線が交錯する。
リリスの目に涙が宿る。
キキラは神に祈りを捧げてくれている。
あの日救えないと思ったアキが目を覚ましたのだ。
それぞれの反応を見ながら事実を再確認する。
≫
アキを呼び覚ましてくれた液体。
僕はそれを精霊水と名付けた。
点滴を続け数日が経った。
目的なく何かを追いかけるようにふらふらと振るだけではあるが、今ではアキは手を動かせるようになっている。
相変わらず口は開き視線は定かではないが、回復している。
僕らは喜び合った。




