迷い
第3話―1:由紀菜の心づかい
僕は気楽そうにふるまっているが、本当はそうではない。
女の子のなかで男の子一人で好きなバレエを続けて生き抜くために、演技しているのだ。
バレエ教室では女の子達に可愛がってもらうためにだ。
また学校では、
『女と一緒にバレエなんかやっているのか』
『お前は女が晒すパンツを眺められていいよな』
などとからかわれても受け流せるように、気楽そうに振舞っているのだ。
でも昨日、どうして女の子として出る事に同意したのだろうか、と後悔している。
SNSで相談しようと思い文面を作ったが、怖くて発信できなくている。
どうせ面白半分の回答がくるのだろう。
今日はどうしてもレッスンに行く気になれなくて休んだ。
夜、由紀菜が心配してメールを送ってきた。
由紀菜とは学校も違い、今まで事務連絡以外にメールを受けたことはない。
しかも携帯に電話までが掛かってきた。初めてだ。
「みんな心配しているよ。やめたりしないか、心配しているよ」
「やめたりはしないよ。ただ・・・」
自分の気持ちを、親しくもない相手に言う気がしなかった。
「ところで君も先生たちに、僕をチュチュで踊らせて欲しいと言ったの?」
と問うと、
「えっ・・・。はい。・・・でも私は、私達よりもしなやかで上手に踊るあなたが発表会やおさらい会ではひとり外れて、寂しそうに見えたの。それに先生の『この子にチュチュを着せて躍らせたら、どんなに奇麗で映えるだろう』という独り言を聞いた時、私もそう思ったし・・・。あなたの気持ちを考えずに、ごめんなさい」
と必死に言い訳をした。そして、
「今日、みんな、あなたの事が気になってレッスンが何か暗い雰囲気だったわ。私どう言っていいか分からないけど、あなたの力になれないかしら」
心配してくれている。その気持が嬉しい。
「どんなふうに?」
「実は私、お母さんに話したの。お母さんはあなたを知っていて、心配しているの。相談にのってくれると思うわ」
そもそも由紀菜とは親しいわけではない。比較的地味な女の子だが、顔も素直で言動も品があり育ちの良さを感じている。
由紀菜は彼女のお母さんに話したようだ。お母さんも僕を心配してくれているようだ。
由紀菜から何となく優しそうなお母さんが想像される。
誰かに相談したい!
由紀菜のお母さんに相談してみようか。
SNSで相談しようと作成した相談文を、由紀菜に恥ずかしかったがメールで送った。
程なくして由紀菜が、彼女のお母さんの励ましのコメントを送ってきた。
第3話―2:相談文
僕はバレエを5歳から習っている中学2年生です。
今度の発表会で、女の子として出て欲しいと言われました。『白鳥の湖』の白鳥のバレリーナの一人としてです。
教室の女の子達の要望と先生の意向に僕の家族が同意して、既定路線になっていて、気がついたら女の子として出る事に僕も同意していました。
家で着て慣れてから教室で着てみましょうと言われ、今僕の部屋には渡された白いクラシックチュチュが掛けられ、ボディファンデーションと女子レオタードまであります・・・。
教室の同世代の男子は僕一人で、小学3年生くらいまでは何の疑問もなく男女同じようなレオタードでレッスンを受けていました。
小学校に入る頃の子供おさらい会でも、女の子と同じ衣装で一緒に踊っている写真もあります。その時は、何も考えず着て踊っていました。
その後もレオタードやチュチュをいつも見ているので、隣にいても意識はしなかったのですが、今回また自分が着るのは別で、強い抵抗感があって・・・。
チュチュなんか着たら恥ずかしくて、どうかなってしまう気がします。
今のこんな気持ちでは、レッスンにもとても出られません。でも、
がんばって着て慣れれば、発表会に出られるかもとも思います。
僕はバレエを踊ることが大好きです。
僕の気持ちは揺れ動いています。
出ないことにすると、組んだ子達に迷惑が掛かりますし、それにみんなと踊れなくて寂しい気持ちにもなります。
母親と姉は、発表会には出なさいと言っています。
第3話―3:励ましコメント
程なく、由紀菜が彼女のお母さんの励ましのコメントを送ってきた。
あなたは本当にバレエを踊ることが好きなんですね。
娘からあなたが悩んでいることを聞いています。
娘から教室の同世代の男子は1人だけれども、とても上手な子だと聞いています。
教室の女の子はみんなあなたのバレエを認め、好感をもっていると娘は言っています。
教室の女の子たちや先生は、あなたの踊りには『女の子にもない女性らしい奥深い魅力がある』、と感じているのだと思います。
今回、自分の可能性を広げる為に頑張ってみてはどうですか。
自分を試してみてはどうですか。
バレエで、男・女両方こなせる素質を持っているなんてすばらしいと思います。
今回やり遂げた後には、バレエの新しい発見があるかもしれません。
あなたの新たな才能が発見できるかもしれません。
頑張って挑戦してみてはどうですか。
励ましに対して、お礼のコメントをラインで由紀菜に送った。
読んでくださり、ありがとうございます。




