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舞踊劇酔夢譚 (バレエすいむたん)、僕は白鳥のバレリーナ  作者: 優鶴
チュチュへの挑戦、レッスン風景
11/22

チュチュのお披露目

第11話-1:更衣室からスタジオへ


「あなたも、そろそろチュチュに慣れて一度踊ってみましょう」

学校も夏休みになったころ、先生が僕に言った。

確かにパンケーキのようなチュチュのスカートを思えば、その感覚や距離感に慣れることは必要だろう。

これからは、位置取りやフォーメーションも大切になる。

とうとう今日、教室から渡されていたチュチュを着て、初めて練習することになった。


今まで家で、チュチュを着て慣らしてきた。

今日の為に母親と姉が新しいボディファンデーションを買ってきて、当て布で補正してくれた。二人は僕を女の子にすることに意欲満々なのだ。

着るのは慣れたが、チュチュ姿を教室とはいえ人に見せるのは、とても恥ずかしい。



「チュチュに更衣室で着かえていらっしゃい。着かえたらスタジオに出る前に私を呼んでください。一応チェックします。」

と言って更衣室に行かされた。

気持ちがものすごく高ぶっているのがわかる。家で着て慣らしてきたのに・・。

落ち着けと自分に言い聞かせる。

サポーターを普段よりきつく締め、薄ショーツを穿く。ボディファンデーションを着ると、胸とお尻が少し膨らむ。薄タイツを穿き、高ぶる気持ち抑えながら最後にチュチュを着る。チュチュにも骨盤とお尻には当て布がしてある。下腹部は滑らかになっている。

着替えが終わり、鏡でひとりチュチュ姿を見た時、とうとう女の子にされて此処まできてしまいもう戻ることは出来なくなったと、急に心細くなり少し涙ぐんでしまったが、頑張れと自分を励ました。


「先生。着替えました」と先生を呼ぶと、

更衣室に入ってきた先生は、僕の目が少し赤くなっているのに気づいた様子で、

「頑張ったね。だいじょうぶよ」

と言って僕の肩に軽く手をのせ、励ましてくれた。

なんだかまた目が少し潤んだ。

僕の気持ちが落ち着いたところで、先生はスカートの中の下腹部とお尻も軽く見て、

「ツン (チュチュのパンツ部分)も上手に整えているわね。着慣れてきているわね。ちょっとその丸椅子に腰かけて」と言った。

でも、スカートで足元の視野が遮断されて、丸椅子の位置が分からない。

そのためスカートを捲り上げて、突き出したお尻で丸椅子の位置を探りながら、こわごわ腰掛けた。鏡に映った、パンツを露出してお尻を突き出したこの格好が、自分が女の子になった事を更に強く感じさせた。

腰掛けると、先生は僕にリップクリームをつけ、そしてウィッグの髪型を整え、

「とてもきれいで、女の子より可愛い女の子よ」と自信を持てるように励ました。


先生は僕に

「いい。照れが有ったらだめよ。向こうの天井の隅あたりをぼんやりと眺めて、王子様でもいい、憧れている学校の教師でもいい、景色でもいいから思い浮かべて。心の中でこう呟くの『私は可愛い可憐な女の子。これから私のバレエをお見せします』。やってみて」

僕は先生に言われたように、ぼんやりと向こうを眺め、先生の言葉に合わせて心の中で呟いた。

「だめ。全然ダメ。少しでも照れがあるとコスプレになってしまうのよ」

先生は何度も何度も、僕に繰り返させた。

繰り返しているうちに、だんだん照れが薄らいでいく。本当にそんな気持ちになってくる。


バレエシューズを履くと、先生に促されて更衣室を出てスタジオに向かった。

先生は出る時に繰り返した。

「いい。照れが有ったらダメよ。心で呟くのよ。『私は可愛い可憐な女の子』。照れが入ったらコスプレの喜劇よ」

僕は先生に手を取られてスタジオまで歩く間も心で呟いた。

澄ました表情になり、歩き方も変わってくる。



スタジオに入ると歓声があがった。

先生に言われていたように、片足を引き左右の手でスカートの両裾を持ち、膝を深く折り丁寧に挨拶をすると、ふっと唇を横に広げて笑顔を作った。

そして胸を張り、顔を上げ気取った歩き方で数歩歩き、脚を前後に置き少し交差させるようにして立った。

首を僅かにかしげた。

そして、遠くを眺めながら心で呟き続けた。『私は可愛い可憐な女の子』


「わぁ。超可愛い!」、「わぁ。きれい」

「プロポーションも女の子よ」、「首筋も肩もなめらかよ」

「括れてる」、「前も滑らかだし、お尻も丸くて女の子だわ」

「やさしい顔してる。どう見ても女の子よ!」

と言う声が聞こたかと思うと、

「こんな可愛い子、男の子がほおっておかないわ」

「守ってあげないと、オオカミに食べられちゃうわ」

「逆よ。女の子が放っておかないわ」

「私がしっかり守ってあげるわ」

等々、メチャクチャな事を言って楽しんでいる。

まるで店先の客寄せの縫いぐるみに、女の子が集まったような状態になる。

僕は姿勢を保ち、視線を合わせないようにし、問い掛けにも微笑をして首を軽く振るかうなずく程度で対応した。照れが現れるといけないからだ。


先生が写真を撮ってくれた。

僕は憧れているアティテュードやアラベスクの脚を上げたポーズや、レヴェランスの挨拶などを撮ってもらった。照れはなかった。

何か気持ちが吹っ切れてきた。



第11話―2:チュチュでの初レッスン


僕が初めてチュチュを着たこの日の全体練習には、ボン (レオタードの上に付けるスカート)かチュチュで参加するように指示をされていた。

コールドバレエの見どころの一つは、舞台全体を使い統一されたフォーメーションにあるだろう。

もちろん、個々人の踊りのレベルの高さが基本であるが。

チュチュやボンで練習するのは、間隔や位置取りに慣れる為でもある。


今日の先生は、フォーメーションの位置取りについても細かく指導する。

「列を前の人に揃えて。歩幅を覚えて」

「歪まないように。前の人に続いて。速くなったり遅くなったりしない」

「間隔も意識して。由紀ちゃん、急がない。あいだ空けて」

由紀菜が僕に詰って、互いのスカートが強く触れたのだ。自分もスカートを穿いているという事に、あらためて気づかされる。

「横を意識して。頭を動かさない。横目で確認して」

「後ろにさがる時も頭を動かさない」

互いに相手を周る時、また他の子とスカートが擦れた。

パンケーキ型クラシックチュチュは、自分が思っている以上に横に広範囲のパーソナルスペースを要求する。それに、スカートが踊りの動作と時間差をもって揺れ続けるので踊りにくく、またスカートの意外な重さをも感じさせる。

「自分のスカートの幅を身体で感じて。スカートの後ろの奥行きも感じて」

位置取りに注意していると、

「足のポジションをしっかり」

「脚をもっと高く上げて。骨盤を意識して」と声が響く。 脚を上げる時にスカートも一緒に動くので、変な感じがする。足を上げた時、スカートの角度で腰の入り具合や脚の上がり具合の個人差も良く分かる。

「姿勢を良く。胸を張って」

「大きく踊りなさい。大きく! 小さくならないように」

「上げた腕がだんだん落ちて開いていて形か変よ。形を保って。指先にも注意して」

「視線にも気をつけて。視線が一人違うだけでもバラバラに見えるのよ」

などの指摘も受ける。

まだ個々人のレベルの差が大きく、動きも形も間隔もバラバラだ。



練習が終わった時、確かに疲れたが、心地よい疲労感だった。そして、新鮮でとても楽しかった。

チュチュのスカートは慣れない僕には、踊る時にすごく邪魔だった。

しかしチュチュを着ての練習の間は、スカート裾には気はとられたが、意外にも練習に集中できた。スカートで下腹部が視界から消え、意識しなくなるためだろう。それに、もう開き直っているのかもしれない。

上級生から、

「どう? チュチュで踊った感想は? 恥ずかしい?」と聞かれた時は、

「いいえ。初めだけ恥ずかしかったけど、レッスンではそれどころでなくなり、すぐに何ともなくなりました」と答えた。

「ツンは?」

「忘れていました。衣装の一部で当たり前になって忘れていました。踊りが今までになく楽しく、この衣装で皆と踊れたことの方が嬉しかったです」

と、意識して肯定的に周りが喜ぶような答えをした。僕がどう言うかを周りの女の子たちが聞いていると感じていたので、そう答えたのだ。

確かに、僕の答えに周りの女の子たちは笑顔になった。



先生は僕に、今後はレオタードでもグループ練習や全体練習の時には、上にボンを穿くようにと指示した。スカートの感覚に慣れて、間隔と距離感を身体で感じるためとの理由だった。そして僕にボンを渡した。

読んでくださり、ありがとうございます。

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