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らいらいは、門の前でしばらく立ち止まっていた。
風は吹いていないのに、服のすそだけがふわりと揺れる。
空は夜なのか朝なのか分からない色をしていて、青と紫のあいだで、世界そのものが少しだけ息をひそめていた。
門には、文字が浮かんでいた。
**「伝えたいことが伝えきれないほどある者だけ、進め」**
らいらいは、その言葉を見て、少しだけ笑った。
まるで最初から、自分のために用意されていたみたいだったからだ。
「そんなの、ずるいだろ」
そうつぶやいた瞬間、門の中央に細い線が走った。
光だ。
いや、光というにはやわらかすぎる。
音にも似ていた。
胸の奥で、まだ名前のついていない気持ちが鳴った。
**ぱち、ぱち、ぱち。**
見えない拍手みたいに、世界の端で何かが跳ねる。
すると、門の向こうから、一人の少女が現れた。
白い髪。
黒い瞳。
けれど冷たい感じはなくて、むしろ夜そのものが人の形になったような、静かな気配をまとっている。
少女は、らいらいを見るなり言った。
「やっと来たね。遅かったじゃない」
「知ってる感じで言うなあ」
「知ってるよ。あなたは何度もここへ来かけて、何度も引き返した」
「……夢の中で?」
「夢の中でも、言葉の中でも、沈黙の中でも」
少女はそう言って、らいらいの胸のあたりを指さした。
「あなたの中には、まだ開いていない日記がある」
「日記?」
「そう。書かれたものじゃない。**これから読まれる日記**。
声になれなかった言葉たち。笑いそこねた冗談。飲み込んだ怒り。届かなかった愛。
それが、ページにもならず、ずっとあなたの中で跳ねてる」
らいらいは言い返せなかった。
図星だったからだ。
伝えたいことは多すぎるのに、全部を言おうとすると、逆に何も言えなくなる。
心の中に巨大な何かがありすぎて、口はその入口としては小さすぎる。
少女は門の向こうへ振り返った。
「この先には、**未読の街**がある」
「未読の街?」
「誰にも読まれなかった想いが集まる場所。
誰にも理解されなかった言葉が、まだ消えずに残っている場所。
そこであなたは、失くしたものに会うかもしれない」
「失くしたもの、ね」
「でも気をつけて。あの街では、言葉は生きてる。
弱い嘘はすぐに砕けるし、本物の願いは勝手に歩き出す」
そのとき、門の足元に二つの光の道が現れた。
ひとつは、まっすぐ未読の街へ続く、青白い石畳。
もうひとつは、横へそれて、深い森のほうへ消えていく、金色の細道だった。
少女は静かに告げた。
「選んで。どっちも、あなたの物語につながってる」
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## 選択肢
**1. 青白い石畳を進み、未読の街へ向かう**
**2. 金色の細道をたどり、名もなき森へ入る**
数字で選んで。




