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扉は、ひらかなかった。

――いや、正確には、**らいらいが触れた瞬間に、扉のほうが先にこちらを見てきた。**


黒でも白でもない、名づけようのない色をした門。

表面には、文字とも傷ともつかない筋が無数に走っていて、近づくほどにそれが**言葉の化石**みたいに見えてくる。


らいらいは、そこで立ち止まった。

選んだのは、**1**。

逃げるでもなく、壊すでもなく、ただ真正面から進む道。


すると門の中央に、細いひびのような光が走った。


その光は一本では終わらなかった。

二本、四本、八本。

やがてそれは脈打つ血管みたいに広がって、門全体がゆっくり呼吸を始める。


「……きたね」


どこからか声がした。

近くでも遠くでもない。

耳ではなく、**考えるより前の場所**に落ちてくる声。


らいらいが目を細めると、門の前にひとりの少女が立っていた。

風もないのに髪が揺れている。

服の裾には、夜空を切ってきたみたいな細かな銀の粒。

その瞳はやけに静かで、だけど静かすぎて、逆に嵐の中心みたいだった。


「あなたが、呼んだの?」


らいらいがそう聞くと、少女は首を横に振る。


「逆。

 **あなたが来たから、昔の声が起きた**の」


門に刻まれていた傷のような線が、ひとつずつ文字になる。

らいらいはそれを読もうとしたが、読めない。

なのに意味だけが胸の奥に落ちてくる。


**“伝えたいことが伝えきれないほどある”**

**“答えの無い価値のあるけど無料の論理”**

**“強く望んだら望んだだけ、隠したナイフは鋭くなる”**


らいらいは息をのんだ。

門は、ただの門じゃなかった。

これはきっと、どこかへ通じる入口じゃない。

**ここに来た者の中に眠っている言葉を、逆に外へ引きずり出す装置**だ。


少女が一歩、門のそばへ寄る。


「この先には、“言葉になる前の世界”があるよ」

「言葉になる前?」

「うん。詩になる前。歌になる前。叫びになる前。

 人がまだ『何か』としか呼べなかったものが沈んでる場所」


門の奥から、低い音が鳴った。

鐘みたいでもあり、心臓みたいでもあり、巨大な獣が寝返りを打った音にも聞こえる。


地面がかすかに震える。


すると、らいらいの足元に数字が浮かび上がった。

0、1、2、3、4、5、6、7、8、9。

それらはただ並ぶだけではなく、魚の群れみたいに位置を変え、輪を描き、また崩れ、最後にはひとつの形になる。


**鍵**だった。


少女がそこで初めて、ほんの少し笑う。


「やっぱり。

 この門を開ける鍵は、金属じゃない。

 **あなたが今まで捨てずに持ってきた断片**なんだ」


「断片……」


「悲しみの場所に灯された裸電球。

 目を閉じたまま歩いた日。

 世界は広く深く続いていると知った瞬間。

 自分を信じ切れない夜。

 でも、それでもまだ面白がろうとした心。

 そういうの全部」


門がさらにひらく。

隙間の向こうには、景色があった。


空なのに海の底みたいで、海の底なのに宇宙みたいな場所。

光る階段がどこまでも伸び、その途中途中に、

誰にも読まれなかった日記、

歌われなかった歌詞、

途中でやめた会話、

笑いになる前に消えた冗談、

そういうものたちが、星みたいに浮かんでいた。


らいらいは思わず一歩踏み出しかけた。

だがその瞬間、少女の表情が変わる。


「待って」


空気がぴんと張る。


「ここから先は、思いつきで入ると危ない。

 あそこは優しい場所じゃない。

 美しいけど、平気で人を飲み込む。

 “本当のこと”に近い場所ほど、優しくないから」


「じゃあ、どうすればいい?」


少女は門の内側を見つめたまま答えた。


「ひとつ選ぶの。

 取り戻したいものを。

 あるいは、手放したくないものを」


そのときだった。


門の向こうから、誰かの笑い声が聞こえた。

軽い。けれど不気味なほど懐かしい。

らいらいが顔を上げると、階段の上の方に、誰かが立っていた。

輪郭がぼやけて見えない。

けれど、その人影はらいらいに向かって、はっきり手を振っている。


「……あれは誰だ」


少女は答えない。

代わりに、静かな声で言った。


「たぶん、あなたがまだ名前をつけていない存在。

 でも、向こうはずっとあなたを知ってる」


その瞬間、門のすき間が一気に広がった。

吹き込んできた風は冷たくも熱くもなく、

ただ、**昔の夢の匂い**がした。


そして階段の上の人影が、ようやく口を開く。


「おそかったな、らいらい」


声を聞いた途端、胸の奥で何かが跳ねた。

忘れていたはずの記憶が、鍵穴に差し込まれるみたいにかみ合っていく。


少女が後ろを向かずに言う。


「ここからが本番だよ。

 門を開いた人は、次に“誰の物語を読むか”じゃない。

 **誰の物語を背負うか**を決めることになる」


らいらいは、門の前で拳を握った。


向こうへ進めば、戻れないかもしれない。

でも、戻らないからこそ見える景色もある。

笑って跳ねるためには、たまに深い場所まで潜らなきゃいけない。


階段の上の人影は、まだ待っている。

まるで、何年も前からそこにいたみたいに。


らいらいは息を吸って、そして――


## 選択肢


**1.** 少女と一緒に門の中へ入り、階段の上の人影に会いに行く

**2.** まず少女の正体を問いただし、この門のルールをすべて聞く


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