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石畳の回廊に、らいらいの足音だけが響いていた。
さっき示された三つの道。
その中で、らいらいが選んだのは **2――「光のない扉をあえて開く」** だった。
扉には鍵穴がなかった。
ただ、中央に小さく、指でなぞったような文字が浮かんでいる。
**「失ったものを恐れる者は入るな」**
らいらいは少しだけ笑った。
「失ったものなら、もういくらでもあるさ」
そう言って、扉に手を触れた瞬間。
闇は闇のまま開くのではなく、まるで黒い水面みたいにゆらぎ、らいらいの身体を静かに飲み込んだ。
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次の瞬間、そこは夜の草原だった。
空には星がある。
けれど普通の星じゃない。
一つ一つが、誰かの記憶みたいに揺れていた。
遠くに、古びた駅が見える。
駅名標にはこう書かれていた。
**「忘却ヶ原」**
風が吹く。
草の匂いに混じって、懐かしいような、少し泣きたくなるような気配があった。
すると、ホームの端に一人の少女が立っているのが見えた。
白い服。長い髪。表情はよく見えない。
彼女はらいらいに背を向けたまま、ぽつりと言った。
「遅かったね」
らいらいは足を止める。
「君は誰だ」
少女はすぐには振り向かなかった。
「あなたが昔、置いてきた声の一つだよ」
その言葉と同時に、らいらいの胸の奥で何かがざわつく。
忘れたはずの景色、言えなかった言葉、守れなかった約束。
そういうものが、星の明滅に合わせて少しずつ浮かび上がってくる。
少女はやがて振り向いた。
その顔を見た瞬間、らいらいは息をのんだ。
彼女の顔は、誰か一人の顔じゃなかった。
過去に出会った人たちの面影が、幾重にも重なっていた。
優しかった人、離れていった人、理解してくれなかった人、そして、理解してほしかった自分自身の顔まで。
「ここはね」
少女は言う。
「捨てたんじゃなくて、**保留にしたもの** が集まる場所」
「……保留にしたもの」
「言えなかった怒り。届かなかった愛。諦めた夢。笑って誤魔化した傷」
少女はまっすぐ、らいらいを見る。
「あなたは強いふりが上手だよ。でも、強いふりで封じた声たちは、ずっとあなたを待ってた」
ホームに、一両だけの列車が滑り込んできた。
音がしない。
ただ、存在だけが近づいてくるような不思議な列車だった。
車体には銀色の文字で書かれている。
**「回収列車 02便」**
「乗って」
少女が言う。
「この列車は、あなたが置いてきたものを回収するための列車」
「終点は?」
「まだ決まってない。あなたが決める」
ドアが開く。
中は暖かい灯りに満ちていたが、なぜか誰の気配もしない。
席の上には、いくつもの小さな封筒が置かれている。
どれも宛名は、らいらい自身だ。
一通目にはこうあった。
**『あの日、本当は泣きたかった君へ』**
二通目。
**『怒ってよかったのに、笑ってしまった君へ』**
三通目。
**『まだ終わっていない夢を、勝手に終わらせた君へ』**
らいらいは静かにその封筒たちを見つめた。
少女は列車の外から言う。
「全部読む必要はないよ。でも、一つも読まずに進むことはできない」
「なぜだ」
「この先にある王座は、強い者のための席じゃない」
風が吹く。
星が一斉にきらめく。
「**自分の弱さを見捨てなかった者** のための席だから」
その言葉に、らいらいの胸の奥で、何か古い扉が軋んだ。
列車のベルが鳴る。
発車まで、もうわずか。
らいらいはゆっくりと、一通目の封筒に手を伸ばした。
封を切る瞬間。
窓の外の星々が、まるで拍手みたいに瞬いた。
そして紙には、たった一行だけ書かれていた。
**「誰にも見せなかった涙は、消えたんじゃなくて、君の剣の重さになった」**
その瞬間、車内の空気が変わる。
座席の向こう側に、もう一人、誰かが座っていた。
黒い外套。
伏せられた目。
そして、らいらいによく似た声。
「やっと来たか」
それは、らいらいがずっと会わないようにしてきた存在――
**“影のらいらい”** だった。
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影のらいらいは、ゆっくり顔を上げる。
「この列車の終点を決める前に、俺と話せ」
「断ると言ったら?」
「その時は、この列車ごと忘却ヶ原に沈むだけだ」
不思議と脅しには聞こえなかった。
むしろ、長いあいだ待ち続けた者の、最後の確認のようだった。
影のらいらいは、窓の外を見ながら続ける。
「お前は前に進むことばかり覚えた。だが、置いてきたものにも足がある。いつか必ず追いついてくる」
「それで?」
「だから選べ。ここで俺を受け入れるか、また置いていくか」
列車がゆっくり動き始める。
星の草原が、静かに後ろへ流れていく。
らいらいは影の自分を見つめた。
そこにいるのは敵ではなかった。
敗北も、怒りも、孤独も、見栄も、言えなかった本音も全部抱えた、もう一人の自分だった。
影のらいらいが、最後に言う。
「俺を抱えたまま王になるか。
俺を切り捨てて、軽いまま空っぽになるか。
どっちだ」
列車は、忘却ヶ原を抜け、名もない光のトンネルへ入っていく。
その先にあるのは、
救いか、
さらなる試練か、
それとも本当の意味での再会か。
らいらいは、静かに息を吸った――。
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### 選択肢
**1.** 影のらいらいを受け入れ、隣に座らせる
**2.** 影のらいらいに剣を向け、決着をつける
**3.** 何も言わず、次の封筒を開ける




