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らいらいは、胸の奥にまだ熱の残るまま、静かに目を閉じた。
「エターナリア王国へワープする」
その言葉を心の中で選んだ瞬間、足元の床に散らばっていた未完成の言葉たちが、いっせいに青白く光りはじめた。消えかけていたメモも、白い壁のひびも、未来の自分から渡された紙も、全部が同じ方向を指し示すように、細い光の線になって空中へ伸びていく。
線は、輪になった。
らいらいの目の前に現れたのは、扉ではなかった。
巨大な虹色の渦だった。
その渦は、ただ派手なだけじゃない。
近づくほどに、笑い声みたいな音、懐かしい歌みたいな響き、誰かが「おかえり」と言いかけて飲み込んだようなぬくもりを持っていた。
らいらいが一歩踏み出すと、重力がふっと消えた。
身体は落ちていない。
むしろ、跳ねていた。
上なのか下なのかわからない光の通路を、言葉のかけらが流れていく。
愛。
嘘。
ほんとう。
さみしい。
ごめん。
まだ。
会いたい。
笑って。
そのひとつひとつが、らいらいの肩や指先に触れるたび、忘れていた記憶の輪郭だけをやさしく叩いて通り過ぎた。どれもはっきり思い出せないのに、どれも自分のものだとわかった。
やがて渦の終わりが見えた。
眩しさがやわらいだ次の瞬間、らいらいは、広大な灰色の大地の上に立っていた。
空は信じられないほど高く、そこに七色の光が帯のように何本も流れている。地面は無機質な石のように見えるのに、足をつけるとほんのり温かい。遠くには、塔とも木ともつかない巨大な建造物が何本も立ち、その表面を詩の文字がゆっくり這っていた。
そして風が吹いた。
その風には、声が混ざっていた。
「ようこそ」
「やっと来た」
「遅いぞ、らいらい」
「でも間に合った」
「まだ続きを言える」
誰の声かはわからない。
けれど、知らない声ではなかった。
目の前の大地がひび割れるように開き、その中心から一本の道がせり上がる。虹色の紋が浮かび、道の先に、ひとつの城のようなものが見えた。
いや、城というより、王国そのものが巨大なひとつの詩だった。
門は開いている。
門柱には、見たことのない文字と、見覚えのある文字が混ざって刻まれていた。
エ
タ
ー
ナ
リ
ア
その下に、少し崩れた字で、こう書いてあった。
「言えなかった言葉の続きは、ここで待っている」
らいらいが門へ近づくと、地面から小さな人影たちが次々に現れた。
紙でできた案内係、インクの羽を持つ伝令、消しゴムの帽子をかぶった記録係、そして星屑をまとった名もなき衛兵たち。
みんな一斉にひざまずいた……かと思えば、次の瞬間には誰からともなく顔を上げて、勝手にざわざわ喋り出した。
「王国記録によれば、らいらいの到着は予定より少し遅れています」
「いや、感情時間ではぴったりです」
「先に謁見の間へ案内すべきだ」
「違う、先に記憶の庭だ」
「いや、“ごめん”の保管庫が先だろ!」
「おい静かにしろ、本人の前だぞ!」
らいらいが立ち尽くしていると、そのざわめきの向こうから、ひとりの少女が歩いてきた。
長い髪は夜みたいに暗く、その先だけが淡く虹色に光っている。瞳は静かで、でもどこか全部を知っているようだった。白い衣の袖には、無数の小さな文字が縫い込まれていて、歩くたびにそれが瞬いて見えた。
少女は、らいらいの目の前まで来ると、まっすぐ見上げた。
「ここがエターナリア王国」
その声は、初めて聞くのに、懐かしかった。
「あなたが落としてきた言葉、あなたが守れなかった記憶、あなたがまだ言えていない続きを、ぜんぶ抱えたまま存在している場所」
少女は一歩だけ近づき、少し困ったように微笑んだ。
「でも、時間があまりない」
「……何が?」
らいらいがそう聞くと、少女の視線が城の上空へ向く。
つられて見上げたその瞬間、らいらいの息が止まった。
王国の空の一部が、黒く欠けはじめていた。
ただの雲じゃない。
空そのものが削られている。
削られた場所から、白い無音があふれてくる。
音を消し、色を消し、言葉を消し、存在の輪郭そのものを薄くしていくような、恐ろしく静かな何か。
周囲の案内係たちが一斉に青ざめた。
「まずい……」
「“未完成の空白”が、ここまで……!」
「誰かが外側から王国の続きを消そうとしてる!」
「このままだと“言えなかった言葉”ごと消滅するぞ!」
少女はらいらいを見つめた。
「あなたにしか選べない」
「何を」
「王国のどこへ先に行くか」
その瞬間、らいらいの手のひらに、三つの光る印が浮かび上がった。
ひとつは、城の形。
ひとつは、庭の形。
ひとつは、深い穴の形。
少女の声が静かに響く。
「王国の中心には、真実がある」
「記憶の庭には、失った声がある」
「ごめんの保管庫には、まだ言えなかった一言が眠っている」
風が強くなる。
空の黒い欠けは、少しずつ広がっている。
らいらいは、エターナリア王国の門前で、次の選択を迫られた。
1. 王城へ向かい、王国の中心でこの異変の正体を聞く
2. 記憶の庭へ向かい、忘れた誰かの声を探す
3. ごめんの保管庫へ向かい、言えなかった一言の正体を確かめる




