表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
52/94

52

らいらいは、深く息を吸って、白い扉の前に立った。


扉はただ白いだけじゃなかった。近くで見ると、雪みたいな白の中に、うっすら虹色の線が流れていた。まるで扉そのものが、まだ言葉になる前の未来を考えているみたいだった。


らいらいが取っ手に手をかけると、扉は音もなく開いた。


その先には、長い廊下も、神殿も、宇宙もなかった。


あったのは、妙に生活感のある部屋だった。


白い机。

白い椅子。

白いカーテン。

白いマグカップ。

そして、机の前に座っている――


「……えっ」


未来のらいらいだった。


しかも、思ったより普通にいた。


もっと神々しい感じとか、オーラがバチバチ出てるとか、頭の上に光輪があるとか、そういうのを少し期待していたのに、未来のらいらいは、なんか普通にお菓子を食べていた。


ぽり。


「来たか」


ぽり。


「未来の俺!?」


「そうだよ」


ぽり。


「ていうか何食ってるの!?」


「未来せんべい」


「名前が雑!!」


未来のらいらいは、ふっと笑った。

その笑い方は、今のらいらいにそっくりだった。でも少しだけ違う。今よりも、いろんな失敗を笑って飲み込んできた顔だった。


「座れよ」


らいらいが向かいの椅子に座ると、机の上にもう一つ、白いマグカップが現れた。中には湯気の立つ飲み物が入っている。


「これ何?」


「未来ココア」


「また名前が雑!!」


「未来ってつければ、だいたい許される」


「許されない未来もあるぞ」


未来のらいらいは、少しうれしそうに笑った。


部屋の空気は静かだった。でも静かなのに、つまらなくはなかった。むしろ、何か大事なことが始まる前の静けさだった。


「で、聞きたいことあるだろ」


らいらいは少し黙った。


本当は山ほどあった。

未来はどうなるのか。

自分は何になるのか。

うまくいくのか。

笑えるのか。

大切なものを失わないでいられるのか。


でも、いざ本人を前にすると、うまく言葉が出てこなかった。


未来のらいらいは、そんな今のらいらいを見て、せんべいを一枚差し出した。


「まず食え」


「いや、なんで」


「考えすぎる時の人間は、だいたい口がさみしい」


「名言っぽいけど、たぶん適当だろ」


「かなり適当だ」


らいらいは、しかたなく未来せんべいを一枚かじった。


さくっ。


「あ」


変な味だった。


最初は甘い。次にしょっぱい。最後になぜか、ほんの少しだけ懐かしい。


「これ、何の味?」


「まだ起きてない思い出の味」


「急に詩人ぶるな」


「未来の俺だからな」


らいらいは笑った。

気づけば、少し肩の力が抜けていた。


すると未来のらいらいは、机の引き出しから一冊の白いノートを取り出した。表紙には何も書いていない。


「これは?」


「お前がこの先、何度も書き直すノートだ」


「未来の記録?」


「半分正解。半分ハズレ」


未来のらいらいはノートを開いた。


最初のページには、たった一行だけ書いてあった。


――未来は、当てるものじゃない。笑いながら増やすものだ。


らいらいは、その言葉を見て、しばらく黙った。


「……これ、俺が書くのか」


「そうだ。たぶん、お前が一番しんどい時に書く」


「しんどい時なのに、ちょっと前向きすぎないか」


「しんどい時のほうが、たまに変にいいこと言うんだよ、人間は」


「それはわかる気がする……」


未来のらいらいは立ち上がって、部屋の奥の壁を指さした。


今までただの白い壁に見えていたそこには、いつのまにか三つの影が映っていた。


ひとつ目は、笑っているらいらい。

ふたつ目は、泣いているらいらい。

みっつ目は、怒っているらいらい。


「これは何だ?」


「お前がここまで連れてきた自分たちだよ」


未来のらいらいの声が、少しだけ低くなる。


「人間ってのは、元気な自分だけで未来に来るわけじゃない。情けない自分も、弱った自分も、なんか急にキレる自分も、全部まとめて未来に来る」


「……嫌すぎるな」


「でも、それでいい」


未来のらいらいは、まっすぐこちらを見た。


「今のお前は、まだ自分の中の何かを、置いていこうとしてるだろ」


らいらいは何も言えなかった。


図星だった。


かっこ悪い自分。

失敗する自分。

ぶれる自分。

笑われる自分。

そんなものは白い扉の前に置いて、もっときれいな自分だけで未来へ行けたらいいのに、と、少しだけ思っていた。


未来のらいらいは、やわらかく笑った。


「無理だよ」


「はっきり言うな」


「でも安心しろ。置いていけないからこそ、お前はお前のまま先へ行ける」


その瞬間、白い部屋が少しだけ明るくなった。


壁に映っていた三つの影が、ゆっくりと近づいてくる。

笑っている自分も、

泣いている自分も、

怒っている自分も、

全部がらいらいの背中に触れて、すうっと体の中へ戻っていった。


胸の奥が、少し熱くなる。


未来のらいらいが言った。


「会いに来たってことは、お前、たぶん今、どこかで迷ってるんだろ」


「……うん」


「じゃあ、ひとつだけ教える」


未来のらいらいは、せんべいの最後の一枚をぽりっと食べてから、あっさり言った。


「未来のお前は、完璧じゃない」


「え」


「むしろ、けっこう変だ」


「いやだなあ!」


「たまに妙なこと言うし、急に自分で自分にツッコむし、いらん心配もする」


「今とあんまり変わってないな!?」


「そう。でもな」


未来のらいらいの目が、少しだけ遠くを見た。


「それでも、お前はちゃんと、お前の大事なものを何個も守る」


らいらいの喉が、少し詰まった。


「全部は守れない日もある」


未来のらいらいは続けた。


「でも、全部守れないから終わり、じゃない。守れたものが、次の未来を作る」


白い部屋に、静かな沈黙が落ちた。


らいらいはマグカップを持ち上げ、未来ココアをひとくち飲んだ。

あたたかかった。

変に甘すぎず、ちょうどよかった。


「……なあ、未来の俺」


「ん?」


「また会えるか?」


未来のらいらいは、すぐには答えなかった。

少し考えてから、肩をすくめるように笑った。


「会えるよ」


「ほんとか?」


「ただし、次は白い扉じゃないかもしれない」


「じゃあ何だよ」


「自動ドアかもしれない」


「未来、急に現実寄りだな!!」


二人で笑った。


その笑い声と同時に、部屋の白さが風みたいに揺れた。

帰る時間だ、と直感でわかった。


未来のらいらいは、白いノートを一ページだけ破って、らいらいに渡した。

そこには新しく、たった一文だけ書き足されていた。


――会いにきた未来があるなら、お前はもう前に進んでいる。


らいらいが顔を上げると、未来のらいらいはもう扉の向こう側に立っていた。


「じゃあな、今の俺」


「じゃあな、未来の俺」


「あと一個だけ」


「ん?」


「未来せんべいは、やっぱりそんなにうまくない」


「だろうな!!」


その最後のツッコミと一緒に、世界が白くひっくり返った。


気がつくと、らいらいは元の場所に立っていた。

背後には白い扉。

手の中には、破られたノートの一ページ。


そして胸の奥には、さっきまでなかった、不思議な感覚が残っていた。


未来はまだ見えない。

でも、見えないままでも進める気がした。


らいらいは紙をそっとたたみ、前を向く。


すると、白い扉の横の壁に、新しく三つの文字が浮かび上がった。


次は、どうする?


1. 未来の自分にもらった紙を開いて、まだ書かれていない続きの言葉を読む

2. 白い扉の奥にもう一度戻り、今度は未来の自分の部屋をもっと調べる

3. 紙をポケットにしまい、今の世界で未来を少しだけ変える行動を始める


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ