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らいらいは、ふうっと息を吐いて、目の前の箱をそっと閉じた。
パタン。
その音は、小さかったのに、やけに世界じゅうへ響いた気がした。
さっきまで箱の中からは、まぶしい光だの、意味ありげな気配だの、いかにも「開けたら運命が動きます」みたいな空気が漏れていたのに、閉じてしまうと急にただの箱っぽくなる。
ただの箱っぽい。
でも、たぶん、ただの箱ではない。
らいらいは箱の前にしゃがみこんで、あぐらをかいた。
「……未来の自分って、なんなんだろうな」
すると、部屋のすみで見ていた小さな案内役のポポンが、なぜか腕を組んでうなずいた。
「深いですね」
「おまえ、その体で腕組みできるのか」
「雰囲気でやってます」
らいらいは少しだけ笑った。
さっきまで箱を開けるかどうかで頭がいっぱいだったのに、閉じてみると、別のことが気になり始める。
未来の自分。
すごい人になっているのか。
何かを成し遂げているのか。
それとも、今とあまり変わらず、変なことで笑って、ちょっと悩んで、でもなんとかやっているのか。
「未来の俺って、ちゃんとしてるのかな」
その瞬間、閉じたはずの箱が、ぴくっと震えた。
らいらいとポポンは同時に見る。
箱は閉じている。
なのに、内側から声がした。
「その質問、耳が痛い」
らいらいは固まった。
「……今しゃべった?」
「しゃべりましたね」
「箱が?」
「箱か、未来です」
次の瞬間、箱のフタがほんの少しだけ開いて、すき間から一枚の紙が、ぺろっと出てきた。
まるで気まずそうに。
らいらいが拾って読むと、そこにはこう書かれていた。
『未来のらいらいより
たぶんお前が思ってるほど完璧じゃない
でも、思ってるより悪くもない
あと、無理に全部わかろうとするとおなかがすく』
「最後だけ妙に生活感あるな……」
紙の裏を見ると、続きがあった。
『追伸
箱をすぐ開けない判断は、わりと好きだった
お前はたまに、急がないことで正解を引く』
らいらいは、その文を見て、しばらく黙った。
急がないことで正解を引く。
それは、なんだか不思議な言葉だった。
強く進むとか、勢いで勝つとか、そういう感じじゃない。
でも確かに、自分にはそういう瞬間がある気がした。
すぐ答えを出さず、
すぐ飛びつかず、
いったん閉じて、
少し考える。
それは逃げじゃなくて、
未来の自分に会いにいくための、別の道なのかもしれない。
「未来の俺、意外と悪くないかもな」
らいらいがそう言うと、箱の中からまた声がした。
「ただし、朝は弱い」
「急に親近感を出すな」
「あと、たまに調子に乗る」
「それは今もだろ」
「認めるんだ」
「認めるしかないだろ」
ポポンが、うんうんとうなずいた。
「未来のらいらいさん、かなりらいらいさんですね」
「いや他人みたいに言うな」
「でも、安心しましたね」
「……まあな」
不安が消えたわけじゃない。
未来が見えたわけでもない。
けれど、未来の自分が完璧な誰かじゃなく、
ちゃんと今の自分の続きなんだと思うと、
少しだけ肩の力が抜けた。
すると突然、箱がゴトンと大きく揺れた。
今度は紙ではなく、すき間から丸い何かが転がり出てくる。
それは、銀色の小さな時計だった。
針がぐるぐる逆回転していて、中央に小さく文字が刻まれている。
『考えた時間は、消えない』
らいらいがそれを手に取った瞬間、部屋の壁にうっすら光の線が走った。
線はドアの形になり、静かに現れる。
見たことのない扉。
白くて、少し未来っぽくて、でもどこか懐かしい扉。
ポポンがごくりと息をのむ。
「出ましたね……」
「何が」
「未来を急がなかった人だけに現れる扉です」
「そんな都合のいい扉ある!?」
「今、目の前に」
「あるな……」
扉の向こうから、かすかに声が聞こえる。
笑い声。
足音。
そして、どこかで聞いたことのある、自分の声。
未来の自分は、この先にいるのかもしれない。
らいらいは、閉じた箱を一度見た。
箱はもう静かだった。
まるで「次はお前が決めろ」と言っているみたいに。
らいらいは銀の時計を握りしめ、白い扉の前に立つ。
ドアノブに手を伸ばした、そのとき――
扉の下のすき間から、また一枚の紙がするっと出てきた。
『注意
未来の自分は、わりと変なタイミングで現れる
あと、たまに格好つける
笑ってやってくれ』
らいらいは吹き出した。
「未来の俺、めんどくさそうだな」
「でも会いたいでしょう?」
「……うん、ちょっとな」
白い扉が、ひとりでにカチリと音を立てた。
開く準備が、整ったのだ。
1. 白い扉を開けて、未来の自分に会いにいく
2. 箱にもう一度だけ話しかけて、未来の自分へ質問する
3. 銀の時計を使って、少しだけ未来をのぞいてみる




