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らいらいは、依頼書を三回見た。


一回目は、ふつうに読んだ。

二回目は、裏から透かして読んだ。

三回目は、なんとなく鼻の高さで掲げて読んだ。


「で、どうするの?」と仲間が聞いた。


らいらいは静かに言った。


「……選択肢は3だ」


その場の空気が、ぴたりと止まった。


「3って、つまり?」

「依頼をそのまま受けない」

「えっ」

「でも放っておくわけでもない」

「えっえっ」

「こっちから先回りして、依頼の中心にある謎だけ奪いにいく」


仲間たちは一斉に顔を見合わせた。


「出た」

「らいらい特有の、説明すると余計わからなくなるやつだ」

「でもたぶん、本人の中では筋が通ってる」


らいらいはうなずいた。


「依頼人の言う通りに動いたら、向こうの物語になる。

 でも俺たちが先に真実へ触れたら、こっちの物語になる」


その言葉に、一瞬だけ全員が「なんかかっこいい」と思った。

だが次の瞬間、らいらいが依頼書をうっかり逆さまに持っていたことが判明し、その感動は半分くらい消えた。


「逆だよ」

「知ってる」

「今知った顔してる」

「真実には上下がない」

「ごまかした!」


ともかく一行は、依頼の目的地より一足先に、地図にも載っていない脇道へ入ることにした。

そこは村人たちが「近づくと声が二倍になる」と噂する、ふしぎな坂道だった。


実際に入ってみると、ほんとうに変だった。


「おーい」と叫ぶと、

「おーい、おーい」と返ってくる。


「やまびこ?」

「ちがうな」とらいらいは言った。

「なんか、ちょっと返事が早い」

「やまびこにスピード感を求めるな」


さらに進むと、道のまんなかに看板が立っていた。


**この先、秘密が少し多いです**


「“少し多い”ってなんだよ」

「雑な注意書きだな」

「でも正直で好感は持てる」


看板の横には、古びた小屋があった。

扉には小さく札がかかっている。


**留守のときは勝手に入ってください**


「不用心の極みだ」

「でも、こういう場所って入るしかないんだよな」


らいらいが扉を開けると、中には机がひとつ、椅子がみっつ、そして部屋の中央にぴかぴか光る箱が置かれていた。

箱には大きく、妙に達筆でこう書かれている。


**依頼の核**


「うわ、わかりやすい!」

「こんなストレートある?」

「もはや罠であることを隠す気がない」


らいらいは箱の前にしゃがみこんだ。


「なるほどな」

「何が?」

「依頼人は、この箱を開けてほしかったんじゃない」

「じゃあ何?」

「誰が開けるかを見てた」


仲間たちが息をのむ。


そのときだった。


部屋の奥の壁が、ぐにゃりと波打った。

木の壁だと思っていたそこから、ぬるっと一人の老人が現れた。まるで壁が「まあ入っていいよ」と許可したみたいな出方だった。


老人は白いひげをさすりながら言った。


「ほっほっほ。まさか本当に依頼を受けずにここへ来る者がおるとは」

「やっぱり依頼人側の人か」

「そうじゃ。わしは依頼人の代理の代理の仮代理」

「遠いな立場が!」


老人はちょっとだけ気まずそうな顔をした。


「予算の都合でのう」

「生々しい!」


老人は箱を指した。


「その箱の中には、金銀財宝も、世界を変える力も入っておらん」

「じゃあ何が入ってるんだ」

「もっと厄介なものじゃ」

「嫌な予感しかしない」


老人はごくりと息をのんで、言った。


「**まだ誰にも読まれていない手紙**じゃ」


一同は静まり返った。


世界を滅ぼす剣でもなく、封印された魔王でもなく、未読の手紙。

しかし、らいらいだけは真顔だった。


「それは……たしかに厄介だ」

「わかるのかよ」

「内容によっては剣より重い」


老人はうなずいた。


「依頼人は、その手紙を読む勇気が出んかった。だから誰かに託そうとした。だが、ただ受け取るだけの者では足りん。命令に従う者ではなく、自分で道を選ぶ者にしか、あの手紙は開けられぬ」


らいらいは箱に手を置いた。


すると箱の表面に文字が浮かぶ。


**読むなら、ひとつ失う**


「うわ、出た」

「そういう大事なことは先に言ってほしい」

「説明書って知ってるか?」


老人は目をそらした。


「箱が勝手に……」

「管理者失格!」


だが、らいらいは笑った。


「なるほど。だから依頼だったのか。

 読むだけじゃない。読む覚悟を選ぶ話だったんだな」


仲間の一人が、そっと言う。


「やめとくか?」

「今ならまだ戻れるぞ」

「失うって、何を失うかわからないし」


らいらいは少しだけ考えて、それから肩をすくめた。


「たしかに怖い。でも、ここまで来て“やっぱ未読のままで”って帰ったら、あとで一生気になる」

「それはそう」

「未読って、人生に残るもんな」

「通知より重い未読だ」


らいらいが箱に力を込めようとした、その瞬間。


ばんっ!


小屋の扉が勢いよく開いた。

風といっしょに、マントを翻した女が飛び込んでくる。


「待ちなさい! その手紙を読む権利があるのは、わたしよ!」


全員が振り向いた。


女は息を切らしながら、しかし妙に決まったポーズで立っていた。

たぶん登場の練習をしてきたタイプだ。


「誰だ!」

「依頼人本人の娘!」

「本人大事な情報を隠しすぎでは?」

「しかも道に迷って遅れた!」

「締まらねえ!」


娘はらいらいをにらんだ。


「その箱は、うちの家族の秘密。

 でも……父には開けられない。

 わたしにも開けられない。

 だから、外の誰かが必要だった」


「ずいぶん回りくどいな」

「うち、だいたいそういう家系なの」


らいらいは箱から手を離した。


「じゃあ、これは俺が読むものじゃない」

「え?」

「選択肢3は、依頼を拒否して真実を奪うことじゃない。

 命令から外れて、本当に読むべき人をここまで連れてくることだったのかもしれない」


仲間たちが静かになる。


老人も、娘も、目を見開いた。


数秒の沈黙のあと、仲間の一人がぼそっと言った。


「珍しく、めちゃくちゃいいこと言ったな」

「“珍しく”はいらない」

「でも逆さに依頼書読んでたし」

「そこを蒸し返すな」


すると箱の文字が、すうっと変わった。


**条件変更

ふたりで読め**


「増えた!」

「箱が話に参加してきた!」

「しかも勝手にルールを更新した!」


娘はらいらいを見る。

らいらいも娘を見る。


「……どうする?」

「どうするも何も」

「読めってことだな」

「うわー、いちばん面倒で、いちばん気になるやつだ」


小屋の外では風が鳴っていた。

まだ見ぬ手紙。

まだ言葉になっていない秘密。

そして、読めば何かを失うという奇妙な条件。


らいらいは、にやっと笑った。


「いいよ。

 未読のまま終わる話より、読んで変わる話のほうが、たぶん面白い」


箱のふたに、らいらいと娘の手が同時に触れる。

かちり、と小さな音がした。


その瞬間、箱の内側から光ではなく、**笑い声**が漏れた。


全員が固まる。


「……手紙、笑った?」

「嫌すぎる」


箱はゆっくり開いた。

中に入っていたのは、古い便箋が一枚。

だが、そこに書かれていた最初の一文を見た瞬間、らいらいは目を見開いた。


なぜなら、その筆跡は――


**まるで未来の自分が書いた字**だったからだ。


1 その場で手紙の本文を最後まで読む

2 いったん箱を閉じて、未来の自分について考える

3 娘に先に最初の一文を声に出して読んでもらう


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