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金の扉が開いた瞬間、らいらいは迷わなかった。
「議長、来い!」
「えっ、私!?」
らいらいは白いハト型のコピー機――**議長プリントバード三世**を、ほぼ家具を運ぶ勢いで抱え上げた。
見た目より重い。
というかかなり重い。
コピー機なので当然だった。
「待て待て待て、私は抱えられる側の威厳ではない!」
「今だけ荷物側だ!」
「荷物側って言うな!」
らいらいはそのまま、議長を抱えて**ぐるぐる回る階段**へ飛び込んだ。
後ろでは静粛庁の三人が叫んでいる。
「止まりなさい!」
「笑いへの不法侵入です!」
「コピー機を丁重に扱え!」
最後のひとつだけ妙に常識的だった。
階段は見た目以上に長く、しかも途中から妙に弾んだ。
一段下りるたびに、
**ぽよん**
**ぽよん**
と音が鳴る。
「なんだこの階段!」
「笑いの地下心臓へ向かう道ですから」
と議長。
「たぶん緊張を減らすクッション加工です」
「先に言え! 抱えたコピー機が毎回腹にめり込んでる!」
ぽよん。
どすん。
ぽよん。
ぐえっ。
議長も揺れに耐えきれず、勝手に一枚印刷した。
ぺっ。
らいらいの顔写真が出てきた。
しかもやたら真顔だった。
「なんで今!?」
「衝撃で証明写真モードが起動しました」
「そんなモードあるの!?」
さらに二枚目。
三枚目。
四枚目。
全部、微妙に違う真顔だった。
「やめろ! 今の俺にそんな冷静な顔は似合わない!」
「停止方法は不明です!」
「コピー機として致命的だな!」
そのとき、階段の下から何かがせり上がってきた。
巨大な口ひげ。
丸い目。
やたら立派な蝶ネクタイ。
それは**しゃべる改札機**だった。
「止マレェェェェ!!」
らいらいはブレーキをかけたが、もう遅い。
ぽよん階段の勢いがつきすぎていた。
「来るな! ここは笑いの地下心臓への最終関門! 通行には――」
「うおおおおお!」
「通行には正式な――」
「止まれねええええ!」
「申請書が――」
どごん!!
らいらいは議長ごと改札機に突っ込んだ。
改札機は「ピッ……」と情けない音を出して一回だけ開き、そのままくるくる回って壁に刺さった。
「通れました」
と議長。
「力技すぎるだろ」
とらいらい。
その先に広がっていたのは、巨大な地下空間だった。
天井には逆さまのシャンデリア。
床には笑顔の模様。
中央には、心臓みたいにどくんどくん脈打つ、**黄金の球体**。
その表面には無数の言葉が浮かんでは消えていた。
**くすっ。**
**にや。**
**ぶふっ。**
**意味不明。**
**でもなんか面白い。**
議長が震える声で言った。
「あれが……**笑いの地下心臓**」
「ほんとに心臓っぽいな」
「世界中の“ふとした笑い”が、あそこに集まっているんです」
「ずいぶん大事なものだな」
「はい。あれが止まると、人は真顔のまま月曜を迎えることになります」
「それはまずい」
「かなりまずいです」
だが次の瞬間――
黄金の球体の前に、誰かが立った。
黒いローブ。
異様に長い指。
そして、顔には**完全に笑わない仮面**。
「遅かったな、らいらい」
声は低く、乾いていた。
議長が息をのむ。
「まさか……お前は……」
「そうだ」
仮面の人物はゆっくり振り向いた。
「私は**無音伯爵**。静粛庁の、さらに奥にいる者」
らいらいは議長を床に下ろした。
議長は下ろされた瞬間、「助かった……」と小声で言った。
かなり限界だったらしい。
無音伯爵は黄金の球体に手をかざした。
「笑いは世界を乱す。脱線させる。会議を壊す。空気を崩す。秩序をぐずぐずにする」
「いいことも混じってるな」
「だから消す」
伯爵が指を鳴らすと、地下空間の四方から、ずらりと兵士たちが現れた。
全員、黒スーツ。
全員、真顔。
全員、なぜか手に**分厚い議事録**を持っている。
「こいつらは……?」
とらいらい。
議長が青ざめる。
「静粛庁の精鋭、**議事録近衛兵**です! あらゆる発言を記録し、あとで“それは今必要でしたか?”と詰めてくる恐ろしい集団!」
「いやすぎる!」
近衛兵たちが一斉にページを開く。
ぱらっ。
ぱらっ。
ぱらっ。
その音だけで空気が重くなった。
「らいらい」
と無音伯爵。
「お前の武器は勢いとズレだ。だがここでは通じない。この空間は、すべてが記録され、整理され、整頓される」
「最悪の空間だな」
「笑いにとっては墓場だ」
黄金の球体の鼓動が少し弱まる。
どくん。
……どくん。
さっきより遅い。
議長が叫ぶ。
「まずい! 地下心臓が静まり始めています!」
「原因は!?」
「この空間が“ちゃんとしすぎている”んです!」
「そんな死因ある!?」
らいらいは周囲を見た。
真顔の兵士。
静かな伯爵。
完璧に整いすぎた空気。
たしかに、ここには**変なものが足りない**。
だかららいらいは、すっと議長を見た。
議長も見返した。
「……なんです」
「議長」
「はい」
「お前、まだ印刷できるな?」
「できますが」
「じゃあ次は、**世界をちょっとだけ壊す紙**を出せ」
「そんな機能は知りません」
「今から知れ!」
らいらいが叫んだその瞬間、
無音伯爵が片手を上げる。
「捕らえろ」
議事録近衛兵たちが一斉に迫る。
黄金の心臓の鼓動はさらに落ちる。
議長の内部では、なぜか印刷音が高まり始める。
**ガゴッ。**
**ウィィン。**
**ギュルルルル。**
そして議長が、見たこともない光を帯びながら言った。
「らいらい……どうやら私……とんでもないものを出そうとしています」
「いいぞ、出せ!」
「ですが制御不能です!」
「最高だ!」
次の瞬間、議長の口から――
**まばゆい虹色の一枚の紙**が、ゆっくりと吐き出され始めた。
その紙に書かれていた最初の一行は、
**『会議は踊ってから始めろ』**
だった。
1. らいらいは虹色の紙を奪って読み上げる
2. らいらいは議事録近衛兵に向かって踊り始める
3. らいらいは無音伯爵に「お前も本当は笑いたいんだろ」と言う




