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らいらいは、きのう手に入れた「会議室のカギっぽいけど、よく見るとただの光るたくあん」に導かれて、エターナリア地下七番通路を歩いていた。
通路はやけに静かだった。
静かすぎて、らいらいのくつの音が、
コッ
コッ
コッ
ではなく、
「えらいっ」
「えらいっ」
「えらいっ」
と聞こえる気がした。
「床まで褒めてくるのかよ」
らいらいがそうつぶやいた瞬間、壁がぶるぶる震え、前方に巨大な扉が現れた。
扉には金文字でこう書かれている。
「第一・超・緊急・でもたぶんそこまで緊急じゃない会議室」
「入るしかない名前してるな……」
らいらいが扉を押すと、中には長いテーブルがあり、そのまわりに妙な連中がずらりと並んでいた。
一人目は、ずっと咳払いだけして一言もしゃべらない老人、セキバライ翁。
二人目は、資料を配るたびに自分の分を忘れる秘書、ワスレーヌ。
三人目は、発言のたびに机の下からおにぎりを出してくる議長、オニギリアス三世。
そして奥の玉座には、まるで世界の秘密を握っているような顔で座る小さな白い生き物――
「ハムスター?」
その生き物は立ち上がり、ビシッとらいらいを指さした。
「失礼だな。私はハムスターではない。議会暫定代理補佐見習い臨時本部長、モフ・ザ・グレートである」
「肩書きの量でごまかすな」
会議室がざわついた。
セキバライ翁が「ゴホン」とだけ言い、
ワスレーヌがらいらいに真っ白な紙を渡し、
オニギリアス三世がなぜか鮭おにぎりを差し出した。
モフ・ザ・グレートは厳かに言った。
「らいらいよ。たいへんなことが起きた」
「なんだ」
「エターナリアの中央笑力炉が止まりかけている」
「中央……しょうりょくろ?」
「笑いの力で回る炉だ」
「ずいぶん平和なインフラだな」
「このままでは国中のボケが弱まり、ツッコミの切れも鈍る」
「それは一大事かもしれない」
「さらに深刻なのは」
「まだあるの?」
「自動販売機のあったか〜い表示が、ぬるいに変わる」
「それは本当に許せん」
会議室全体が重苦しい空気に包まれた。
オニギリアス三世はショックのあまり、おにぎりを二個食べた。
モフは机の上に地図を広げた。
そこには赤い丸で三つの地点が記されている。
「笑力炉を救うには、“三種のゆかいな源”が必要だ」
「名前のわりに雑だな」
「第一の源は、“びっくり坂”にある『転ばないのに転んだみたいな声』」
「なんだそれ」
「第二の源は、“しーんの森”にある『誰もいないのに起こる拍手』」
「こわい寄りだな」
「そして第三の源は――」
モフは声を落とした。
「“冷蔵庫の裏の谷”に眠る『最後のプリンを勝手に食べた犯人の真実』」
「急に家庭内事件だな」
そのとき、会議室の照明がパッと消えた。
暗闇。
どこかでセキバライ翁の「ゴホン」だけが響く。
次の瞬間、天井からスポットライトが一本落ち、部屋の中央に黒マントの影が現れた。
「フフフ……遅かったな、らいらい」
低い声。
いやに芝居がかっている。
しかも登場のタイミングにえらく満足している感じがある。
「誰だ!」
影はマントをばさっと翻した。
だが翻し方に失敗し、マントが顔にかかった。
「ちょ、待て、今のなし」
「締まらねえな!」
「ごほん。やり直す」
もう一度マントを整え、影は決め顔で名乗った。
「我が名は、クックック伯爵! 笑力炉を止め、世界を中途半端に気まずい空気で満たす者!」
会議室が凍った。
ワスレーヌが小声で言う。
「誰でしたっけ、この人」
「たぶん初登場だよ!」とらいらい。
「初登場で伯爵名乗るなよ!」とオニギリアス三世。
クックック伯爵は指を鳴らした。
すると背後の壁が開き、ぞろぞろと部下たちが現れた。
全員、微妙に気まずい顔をしている。
「見よ! 我が精鋭、“半笑い騎士団”だ!」
「全然強そうじゃないな」
「彼らは渾身のギャグを聞いても、口角が二ミリしか上がらない!」
「最悪の客だ!」
半笑い騎士団は一斉に言った。
「まあ……嫌いではないです」
「反応が一番困るやつ!」
らいらいは思わず机を叩いた。
その拍子にワスレーヌから渡された真っ白な紙がひらりと裏返る。
そこには小さく文字が書いてあった。
「議長のイスの下を見ろ」
らいらいはすぐにオニギリアス三世のイスの下をのぞいた。
するとそこには、古びたレバーが一本。
「なんだこれ」
「知らん!」と議長。
「議長なのに!?」
「座ったら最初からあった!」
クックック伯爵が顔色を変えた。
「まさか! それに触れるな! それは会議室最終防衛機構――」
「言うの遅い!」
らいらいは反射的にレバーを引いた。
ガコン!!!
会議室の床が左右に割れ、中央から金ぴかの巨大な機械がせり上がってくる。
正面にはでかでかと書かれていた。
「緊急用 超巨大ツッコミ装置」
「そんなもんあるのかよ!」
モフ・ザ・グレートがふるえながら叫んだ。
「伝説は本当だった……エターナリアに危機が訪れし時、真のツッコミ使いが装置を起動すると……」
「待て、なんで俺がそんな役なんだ」
「さっきから全部ちゃんとツッコんでるからだ!」
装置には一本のマイクがついていた。
らいらいがそれを握ると、機械全体がまぶしく発光する。
クックック伯爵が叫ぶ。
「やめろ! そのツッコミが完成すれば、私の“中途半端に気まずい世界計画”は――」
らいらいは深く息を吸った。
半笑い騎士団がじりじり迫る。
モフは祈るように目を閉じた。
オニギリアス三世はなぜか三個目のおにぎりを取り出した。
セキバライ翁は今こそという顔で「ゴホン」と言った。
そして、らいらいはマイクに向かって叫んだ。
「初登場で空気支配しようとすんな!!!」
その瞬間、超巨大ツッコミ装置から目に見えるレベルのツッコミ衝撃波が放たれた。
「なんでやねん」
「知らんがな」
「今それやる?」
という無数の言霊が渦となってクックック伯爵たちに直撃する。
半笑い騎士団は耐えきれず、ついに声を上げて笑い出した。
「ふ、ふふっ……」
「くっ……だめだ……」
「初登場で空気支配はたしかに無理がある……!」
クックック伯爵もひざをつく。
「ばかな……我が計画が……ツッコミの正論によって……!」
すると天井から、どこからともなく鈴のような音が鳴った。
会議室の奥の壁に、新しい扉が現れる。
扉にはこう書かれていた。
「びっくり坂 直通」
モフ・ザ・グレートがらいらいを見る。
「第一の源が、お前を待っている」
「つまり次はそこか」
「うむ。ただし気をつけろ」
「何に?」
「びっくり坂には、“驚くほど普通の人たち”が住んでいる」
「逆に手強そうだな……」
らいらいはうなずき、光るたくあんを腰に差し、びっくり坂への扉に手をかけた。
その背後で、倒れたクックック伯爵がうっすら笑っていた。
「ククク……私は四天王の中でも一番、会話の間を悪くするだけの小物……本当の敵は、この先にいる……」
「四天王の中で立ち位置弱すぎるだろ」
らいらいのツッコミがもう一度会議室に響き、扉はゆっくり開いた。
その向こうには、ありえないほど長い坂道と、なぜか全員が同じ顔で「へえ」と言ってくる町が広がっていた。
らいらいは一歩、前に出る。
次の瞬間、どこかから声がした。
「ようこそ、びっくり坂へ。なお、ここでは驚いても税金がかかります」
「最悪の観光地かよ!!」
らいらいの新たな冒険が、また変な方向へ始まった。
1. びっくり坂に入り、驚き税の正体を探る
2. いったんクックック伯爵を問い詰め、四天王の情報を聞き出す
3. 会議室に戻って、光るたくあんの使い道を真面目に調べる




