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らいらいは、金色のドアノブをぎゅっと握った。
さっきまで「入るな」と三回も書いてあった扉だ。
こういう時に入るのが、らいらいである。
入らないらいらいなんて、ただの少し慎重ならいらいだ。
扉を開けた瞬間、部屋の中から大量の紙吹雪が飛び出した。
「おめでとうございます!!」
「えっ」
「見事、“いちばん怪しい扉を迷わず開けた者”に選ばれました!!」
「そんな賞あるの!?」
部屋の中央には、妙にテンションの高い案内人が立っていた。
シルクハットをかぶり、なぜか胸に「館長代理補佐見習い候補」と書かれたバッジをつけている。肩書きが渋滞していた。
「私は、びっくり館の進行係、ポコスカ・ドンドンです!」
「絶対うるさい名前だ」
「よくぞ来ましたね、らいらい様。あなたには次の試練に挑んでいただきます」
「試練って、もっとこう、神秘的なやつじゃないの」
「今回は違います」
「違うんだ」
「今回は――この館で一番めんどくさい部屋、“会議室”の突破です」
「急に現実が来たな!?」
ポコスカ・ドンドンがパンッと指を鳴らすと、壁が横にずれて、奥に細長い部屋が現れた。
そこには長机が置かれ、十人ほどの謎の住人たちが神妙な顔で座っていた。
机の上には札が並んでいる。
「議題:おやつを先に食べるべきか」
「議題:昼寝は努力か甘えか」
「議題:らいらいを館長にする案について」
「最後の議題おかしいだろ!」
「もう上がってるんです」
「勝手に!?」
会議室の奥で、一人の老人がゆっくり立ち上がった。
長い白ひげ、深いしわ、重々しいローブ。
どう見ても賢者だった。
「待っておったぞ、らいらい」
「出たな、賢者っぽい人」
「わしは会議の賢者、ギロン」
「名前がもう議論なんよ」
「この会議室を抜けたければ、三つの無茶ぶり議題を制し、全員を納得させねばならぬ」
「無理そう」
「なお、納得されない場合――」
「場合?」
「空気がちょっと悪くなる」
「嫌すぎる罰!!」
らいらいは思わず一歩引いた。
モンスターに襲われるより嫌なやつだった。
巨大なドラゴンはまだ戦える。
でも空気の悪い会議は、心に来る。
ポコスカ・ドンドンが小声で言う。
「ちなみにここ、発言の途中で“なるほどですね”を使うと二点減点です」
「ルールが細かい!」
「あと、“一旦持ち帰ります”は禁止ワードです」
「地獄か?」
ギロンが杖を掲げた。
「第一議題! プリンのカラメルは最後まで残すべきか、最初に食うべきか!」
すると会議参加者たちが一斉にざわつき始めた。
「最後派です」
「いや最初だ」
「バランス派もある」
「混ぜる派を忘れるな」
「え、混ぜる!?」
「異端だ!」
「異端言うな!!」
らいらいは頭を抱えた。
世界の命運より、今この会議の方が難しい気がした。
だが、その時だった。
らいらいのポケットの中で、前に拾った小さな鈴がちりんと鳴った。
その音と同時に、らいらいの頭の中に、不思議な言葉がふっと浮かぶ。
――全部うまいなら、争う理由もまた、うまくないか?
「……あ」
らいらいはゆっくり顔を上げた。
「みんな聞いてくれ」
会議室が静まり返る。
「カラメルを最初に食うやつも、最後に食うやつも、途中で攻めるやつも、たぶん全員、プリンを信じてる」
「……!」
「戦ってるようで、実は同じものを好きなだけだ」
「おお……」
「つまりこれは対立じゃない。プリン愛の角度の違いだ」
「深い……!」
「深いのかこれ!?」
会議の住人たちは次々にうなずき始めた。
「確かに……」
「私はあの人を誤解していた」
「混ぜる派にも事情が……」
「あるの!?」
ギロンが立ち上がり、机をどんと叩く。
「見事! 第一議題、突破!!」
「通ったー!?」
ポコスカ・ドンドンがクラッカーを鳴らした。
誰も頼んでいないのに二回鳴らした。
うるさかった。
「続いて第二議題! 昼寝は努力か甘えか!」
「また絶妙に荒れるやつ来たな!」
しかしその瞬間、会議室の天井がメリメリと音を立てて裂けた。
全員が上を見上げる。
そこから、巨大なハンコがゆっくり降りてきた。
赤くて丸くて、異様に重そうな、どう見てもろくでもないハンコだ。
側面にはこう書かれていた。
「却下」
「うわああああ!!」
「館の最悪イベント、“天から却下”だ!!」
「そんなイベントあるの!?」
ギロンが顔面蒼白になる。
「いかん、このままでは会議そのものがなかったことにされる……!」
「便利そうで最悪だな!」
「らいらい様! あれを止められるのは、会議室の中央にある“承認ボタン”だけです!」
「どこだ!」
「机の下です!」
「こういう時に分かりにくいな!!」
らいらいは長机の下にもぐりこんだ。
しかしそこには、ボタンが三つあった。
青いボタン。
黄色いボタン。
そして、見るからに押したら爆発しそうな紫のボタン。
しかも横に小さく札がついている。
「承認」
「仮承認」
「なんかすごいことになる」
「三つ目、説明になってない!!」
上からは巨大な「却下」ハンコが迫ってくる。
会議の住人たちは半泣きだ。
ポコスカ・ドンドンはなぜか拍手している。
ギロンは「落ち着け、落ち着いて慌てるのだ」と意味不明な指示を出していた。
らいらいはごくりとつばを飲み込んだ。
ここで選ぶしかない。
1 青い「承認」ボタンを押す
2 黄色い「仮承認」ボタンを押す
3 あえて紫の「なんかすごいことになる」ボタンを押す




