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らいらいは、きしむ階段を一段ずつ下りていった。
さっき自分で選んだ「2」の扉は、
見た目こそふつうの木の扉だったのに、
近づくほどに、なぜか味噌汁のような安心感を放っていた。
「怪しいな……逆に怪しくない」
らいらいがそうつぶやくと、
扉の取っ手が小さく咳払いをした。
「ゴホン。入る前に一応言っておきますが、
この先は“静かにしていれば安全”な部屋です」
「一応ってなんだよ」
「ただし、たいてい誰かが我慢できずに変なことを言います」
「もう嫌な予感しかしないな」
らいらいが扉を開けると、
そこにはやけに広い地下室があった。
天井にはシャンデリア。
床には赤いじゅうたん。
壁にはずらりと肖像画。
しかも、その肖像画の全員が、
なぜか微妙にらいらいに似ていた。
「うわっ、何これ」
一番左の肖像画が急にしゃべった。
「遅かったな、今日のらいらい」
「今日のらいらいって何!?」
二番目の肖像画も口を開いた。
「私は昨日のらいらいだ」
三番目も続いた。
「私はたぶん明後日のらいらい」
四番目はなぜかすごくえらそうに言った。
「そして私は、らいらいの中の
“なんか分からんけど急に自信が出てくる部分”だ」
「分身の内訳が雑すぎるだろ!」
その瞬間、
地下室の中央に置かれた金色の机が、ぶるっと震えた。
机の上には一冊の分厚い本。
表紙にはこう書かれている。
「らいらい大事典 暫定版 たぶん第725稿」
「暫定なのに分厚いな……」
らいらいが本を開こうとすると、
奥の暗がりから、ぬっと細長い影が現れた。
それは執事のような服を着た、妙に姿勢のいい男だった。
ただし顔はハトだった。
「お待ちしておりました、らいらい様」
「顔が気になって話が入ってこない」
「わたくし、ハト執事のポポルと申します」
「いや、もう少し隠す努力をしろよ」
ポポルは胸に手を当て、やたら優雅に一礼した。
「ここは“らいらい保存庫”。
あなたがこれまで心の中で言いかけて、
言わなかった言葉たちが保管されている場所です」
らいらいは思わず本を閉じた。
「えっ、それちょっと見られるの恥ずかしいやつじゃない?」
「かなり恥ずかしいです」
「じゃあ開けたくねえよ!」
しかし遅かった。
本は勝手にぱらぱらとページをめくり始めた。
すると空中に、らいらいの“言いかけたけど飲み込んだ言葉”が、
半透明の文字になってふわふわ浮かび上がった。
「今の俺、ちょっとかっこよかったかも」
「このパン、昨日のより若干うまい」
「なんで自販機ってたまに王みたいな態度なんだ」
「くしゃみの直前って世界が止まるよね」
「よし、今日は本気出す。昼から」
「やめろーーー!!」
らいらいは慌てて文字をつかもうとしたが、
文字たちは小魚の群れみたいにするすると逃げる。
ポポルは冷静だった。
「ご安心ください。これはまだ軽い方です」
「軽い方!?」
「本当に危険なのは、地下二階に保管されている
“勢いで考えた名言たち”です」
そのとき、地下室の奥の扉が、ギギギ……と開いた。
冷たい風が吹く。
じゅうたんがふわりと揺れる。
肖像画たちが一斉に顔をしかめた。
昨日のらいらいが低い声で言った。
「まずい……来るぞ」
明後日のらいらいも青ざめた。
「よりによって今か」
そして暗闇の中から、
重々しい足音が響いた。
ドン。
ドン。
ドン。
現れたのは、
黒いマントを羽織った巨大な影。
頭には王冠。
目はぎらり。
手には長い杖。
そして胸元の名札には、はっきりと書かれていた。
「名言将軍」
「うわ、絶対めんどくさいやつだ!」
名言将軍は杖を床に打ちつけ、
大げさな声で叫んだ。
「フハハハハ!
私は、言いかけてやめた言葉の王!
沈黙の隙間に生まれし、未完成なる格言の支配者!」
「設定が濃いな!」
名言将軍はびしっとらいらいを指さした。
「らいらいよ!
お前が過去に飲み込んだ無数の言葉……
その責任、取ってもらおう!」
「言葉を飲み込んだ責任って何!?」
「たとえばこれだ!」
名言将軍が杖を振ると、
空中に巨大な文字が出現した。
「走らない者に、転ぶ資格はない」
「いや、なんかそれっぽいけど意味わからん!」
さらにもう一発。
「まばたきとは、心の拍手である」
「急にちょっと良さそうなのやめろ!」
さらにさらに。
「ラーメンを待てる者だけが、未来を信じられる」
「それはただ猫舌なだけかもしれないだろ!」
地下室が震えた。
浮かぶ文字が増えていく。
肖像画たちがざわつく。
ポポルがハトなのに額の汗をぬぐった。
「まずいです、らいらい様。
名言将軍は未完成の言葉を暴走させ、
この館全体を“なんか深そうで浅い空間”に変える気です!」
「最悪すぎる空間名だな!」
らいらいは拳を握った。
ここで逃げたら、
この地下室は永遠に
“少し考えれば変だけど勢いで押し切られる部屋”
になってしまう。
らいらいは一歩前に出た。
「いいぜ、名言将軍。
だったらこっちも本気で言葉を返す」
名言将軍の目が光る。
「ほう……受けて立つか」
「ただし俺は、
それっぽさじゃなくて、
ちゃんと跳ねる言葉でいく」
空気がぴんと張りつめた。
ポポルが小声で言う。
「来ます……言葉の勝負です……!」
らいらいは深く息を吸った。
目の前には名言将軍。
背後にはずらりと並ぶ自分たち。
頭の中では、まだ言葉になっていない何かが、
ぴかぴか光り始めていた。
ここで、らいらいは次の行動を選ぶ。
1 真正面から名言将軍に、自分だけの言葉をぶつける
2 「らいらい大事典」を開いて、封印された言葉の力を使う
3 ハト執事ポポルに無茶ぶりして、なぜか二人で作戦会議を始める




