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らいらいは、きのこ型の郵便受けに手を突っ込んだ。


すると中から出てきたのは、手紙ではなく、妙にあったかい**白いまんじゅう**だった。


「なんでだよ」


らいらいが思わずつぶやくと、郵便受けがボフッとふくらみ、眠そうな声で言った。


「それは手紙まんじゅうです。読むと食べられ、食べると読めます」


「説明が一周してるよ」


けれど、まんじゅうの表面にはたしかに文字が浮かんでいた。


**『びっくり館の地下に、笑いを忘れた鏡がある。早く来てください。館長代理・半分だけ透明な犬より』**


「館長代理が犬なのも気になるし、半分だけ透明って何」


らいらいが顔を上げると、目の前の道が、さっきまでなかった方向へ**ぬるっと一本だけ増えていた。**


道ばたの草はザワザワ揺れ、

石ころは小声で

「行け」「行け」「たぶん大丈夫」「九割は」

と無責任な応援をしてくる。


らいらいはため息をついた。


「その一割が嫌なんだよなあ」


それでも歩き出すと、空が少しずつ低くなり、雲が建物みたいな形に固まりはじめた。やがて道の先に現れたのは、見上げるほど大きな屋敷――


**びっくり館**だった。


屋根はなぜか何枚も重なっていて、

窓は全部ちがう方向を向き、

玄関のドアには大きくこう書いてある。


**『ようこそ。たぶん入口です』**


「不安しかない」


らいらいがドアノブに触れた瞬間、ドアは自分からパカッと開いた。


中には、赤いじゅうたん。

左右にはずらりと並ぶ肖像画。

そして正面には、ぴしっと蝶ネクタイを締めた**半分だけ透明な犬**が立っていた。


下半身だけが透明だった。


「そこなんだ」


犬はぺこりと頭を下げた。


「お待ちしておりました、らいらい様。私はびっくり館の館長代理、ワンペラと申します」


「ワンペラ」


「はい。由緒ある名前です。祖父はワンダフル、父はワンパク、母はペロリンチョです」


「最後だけ方向性が違うな」


ワンペラは真顔でうなずいた。


「緊急事態なのです」


「笑いを忘れた鏡のこと?」


「そうです。地下の**爆笑の間**に置かれていた“ゲラゲラの鏡”が、三日前から一度も笑っていません」


「鏡が笑う世界なんだ……」


「本来あの鏡は、前に立った人の一番おもしろい可能性を映し出します。変な歩き方、妙な言い間違い、人生で一度もやっていない謎のドヤ顔――そういうものを見せて館全体に活気を与えていたのですが」


「だいぶ迷惑な鏡だな」


「ですが今は、誰が立っても無表情です。それどころか時々、低い声で『……別に』と言います」


「急に反抗期だな」


ワンペラが耳をしょんぼりさせる。


「このままでは館のびっくり力が落ちてしまいます。すでに二階の“くしゃみの廊下”はただの廊下になり、三階の“うっかり転ばない階段”は本当に安全になってしまいました」


「いいことじゃない?」


「びっくり館としては致命的です」


それはまあ、そうかもしれない。


らいらいは少し考えてから言った。


「つまり、その鏡を元に戻せばいいんだな」


「はい。ただし地下へ行くには、館の三つの試練を越えなければなりません」


「やっぱりそうなるか」


ワンペラが前足でパチンと鳴らすと、壁の肖像画たちが一斉に目を開けた。


そのうちの一枚――鼻だけ妙に立派な紳士の絵が、もったいぶった声で告げる。


「第一の試練は、**笑わない執事たちの間**」


次の絵――口だけ大きい貴婦人が続ける。


「第二の試練は、**逆さことばの食堂**」


最後に、なぜか大根の絵が重々しく言った。


「第三の試練は、**ほんのり怒っているピアノの間**」


「最後だけ情報量が多いな」


ワンペラは小さくうなずいた。


「特にピアノは、最近ずっと機嫌が悪いです。理由は“誰も自分の長所をほめてくれないから”とのことです」


「繊細だなあ」


そのとき、館の奥から

ボォン……

と低い音が響いた。


床がわずかに揺れ、

天井のシャンデリアがカタカタ鳴る。


ワンペラの顔色が変わった。


「いけません。鏡の無表情化が進んでいます。地下の気配が、どんどん重く……」


すると、玄関ホールの大鏡が突然黒くにじみ、

その表面に文字が浮かんだ。


**『おもしろいって、なんだっけ』**


館の空気がしんと冷える。


さっきまでひそひそ喋っていた肖像画たちも黙り込み、

遠くで誰かが小さくしゃっくりした。


らいらいはその文字を見つめた。


ふざけた館なのに、

その言葉だけは、妙にさびしそうだった。


「……そうか」


らいらいは一歩前に出る。


「ただ笑わせればいいって話じゃないのかもしれないな」


ワンペラが目を丸くする。


「らいらい様……?」


「その鏡、たぶん疲れてるんだよ。ずっと誰かを笑わせる役ばっかりで、自分が何で楽しかったのか、わからなくなったんじゃないか」


しばらく沈黙が落ちたあと、

大根の絵がぼそっと言った。


「深いな」


「大根が深いこと言うな」


すると館のどこかで、かすかに

**くすっ**

と笑うような音がした。


ワンペラが顔を上げる。


「今の音……!」


らいらいはにやっとした。


「よし。行こう。まずは第一の試練だ」


ワンペラが前足を高く上げる。


「はい! 笑わない執事たちの間へ!」


赤いじゅうたんの先、

重たい扉がひとりでにギギギと開く。


その向こうには、

ずらりと並んだ黒服の執事たち。


全員、背筋を伸ばし、無表情。

そして中央の執事が静かに告げた。


「ようこそ。ここを通りたければ――**私たちの誰か一人でも笑わせてください**」


らいらいは執事たちを見回した。


すると一番左の執事だけ、

鼻の下に**うっすらクリーム**がついていた。


しかも本人は、まったく気づいていない。


らいらいは思った。


(……勝てるかもしれない)


**選択肢**

**1.** クリームのことを真正面から指摘する

**2.** あえて何も言わず、もっと変な空気を作る


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