表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
31/94

31

らいらいは、金色のくしゃみ神が残していった「はなのカギ」を両手で持ち、しばらく黙っていた。


カギは小さいのに、やたらと存在感があった。

鼻の形をしている。

しかも、よく見ると左右で微妙に表情が違う。

右のふくらみはキリッとしていて、左のふくらみはなぜかちょっと眠そうだった。


「絶対まともなカギじゃないだろ……」


らいらいがそう言った瞬間、カギがぷるっと震えた。


「失礼な」

と、カギがしゃべった。


らいらいは三歩下がった。

「しゃべった!?」


「私ははなのカギ。正式名称は“超高性能・全自動・時々センチメンタル鼻孔開閉式カギ”です」


「名前が長い!」


「略してハナギ」


「雑!」


すると足元の草むらがガサガサと揺れた。

そこから現れたのは、昨日も会った変な鳥――くちばしに小さなメガネをかけた、やけに知的なハトだった。


「来たか、らいらい」

ハトは低い声で言った。

「わたしは再び現れた」


「またお前か」


「またお前とは何だ。私はハト界の賢者、ハトムネ十三世である」


「前回と言ってること違わない?」


「賢者には設定変更がつきものだ」


ハトムネ十三世は、ふっと遠くを見る目をした。

でも次の瞬間、地面に落ちていた豆を見つけて普通についばんだ。


全然賢者っぽくなかった。


「いいか、らいらい。選ばれし者だけが、そのハナギで“びっくり館の奥の扉”を開けられる」


「びっくり館?」


「この先にある。入った者の九割が、“あっ”とか“えっ”とか“うそっ”とか言いながら出てくる館だ」


「感想が全部浅いな」


「だが残る一割は――」

ハトムネ十三世は声をひそめた。

「笑いすぎて立てなくなる」


らいらいの目が少しだけ光った。

「それはちょっと気になるな」


そのとき、ハナギがまた震えた。


「注意してください、らいらい様。この先のびっくり館には、“鼻の間”を抜けた者しか入れない特別区域があります」


「鼻の間ってまだあったのかよ」


「あります。世界は思ったより鼻でできています」


「そんな世界いやだな」


風が吹いた。

森の木々がざわめき、そのざわめきの中に、たしかに館らしき影が見えた。


白い壁。

赤い屋根。

窓の形が全部ちがう。

そして入口の上には、金色の文字でこう書かれていた。


**びっくり館

本日のびっくり残量:87%**


「びっくり残量って何」


「昨日は92%でした」

とハナギが言う。

「誰かが五%ぶん消費したようです」


「びっくりって消耗品なの!?」


館の扉の前に立つと、左右に奇妙な石像があった。

片方は真顔のネコ。

もう片方は、ものすごく笑いをこらえているタヌキ。


そして中央には、鍵穴――いや、鼻の穴が二つついていた。


「絶対ふざけてるだろ、この館」

らいらいが言うと、館の中から重々しい声が響いた。


「ふざけているのではない……本気なのだ……」


扉がひとりでにギギギと開き、冷たい空気が流れ出る。

中は薄暗く、廊下の奥に青い光が見えた。


らいらいが一歩踏み出した、その瞬間。


天井から何かが落ちてきた。


ぺちょ。


らいらいの頭の上に、やわらかいものが乗った。


「……なんだこれ」


手で触る。


ぷにっ。


白い。


丸い。


しかもほんのり甘い匂いがする。


ハトムネ十三世が厳かに告げた。


「ようこそ。びっくり館へ。最初の試練は“頭上のもち”だ」


「試練がしょうもなすぎる!」


すると館の奥から、ぱちぱちと拍手が聞こえた。

青い光の中から現れたのは、長いマントを羽織った妙に気品のある男だった。


だが問題がひとつある。


顔の真ん中に、立派すぎる鼻があった。


ただ大きいだけじゃない。

堂々としていた。

もはや鼻が主役で、顔がその付属品みたいになっていた。


男は静かに礼をした。


「お待ちしておりました、らいらい殿。私はこのびっくり館の主――ノーズベルク伯爵」


「名前がもう鼻寄りなんだよ」


「あなたには二番目の扉へ進む資格がある」


「え、いきなり?」


「ですが、その前に確かめねばなりません」

伯爵はらいらいをじっと見た。

「あなたが本当に、“笑いに耐えられる者”かどうかを」


すると床がごごごと揺れ、廊下の左右の壁が開いた。

中からぞろぞろと現れたのは――


全部、らいらいそっくりの顔をした執事たちだった。


しかも全員、微妙に違う。


ひとりはヒゲがある。

ひとりはやたらキラキラしている。

ひとりは妙に眠そう。

ひとりは小声でずっと「わたしが本物です」と言っている。


「何なんだこれ!?」


ノーズベルク伯爵は言った。


「彼らは“らいらい候補者たち”です」


「候補者って何!?」


「この中に一人だけ、“いちばん今のあなたっぽいらいらい”がいます。それを当てられれば、二番目の扉は開く」


「むずかしすぎるだろ!」


すると執事たちが一斉に礼をした。


「おかえりなさいませ、らいらい様」

「いや私がらいらいです」

「本日のらいらい指数は良好です」

「お茶をいれました」

「私は昨日のらいらい寄りです」

「将来のらいらいです」

「らいらいという概念です」


「最後のやつ怖いな!?」


らいらいは頭の上のもちを取り、深呼吸した。

びっくり館。

ノーズベルク伯爵。

らいらい候補者たち。

意味はわからない。


でも、こういう時ほど大事なのはひとつだった。


勢いだ。


らいらいは一歩前に出て、執事たちを見渡した。


その時、一番すみっこにいた小さならいらい執事が、こっそりポケットから焼き芋を出して食べているのが見えた。


らいらいは目を細めた。


「あいつだ」


ノーズベルク伯爵の鼻がぴくりと動いた。


「ほう……なぜそう思うのです?」


らいらいはニヤッと笑った。


「なんとなくだ。でも、そういう“なんとなく”が、一番当たる時がある」


館の空気が変わった。

執事たちが一斉に顔を上げる。

青い光が強くなる。

そして、焼き芋を食べていた小さならいらい執事が、もぐもぐしながら言った。


「……ばれたか」


次の瞬間、その執事の体がぱあっと光り、二番目の扉がゆっくり開きはじめた。


扉の向こうから聞こえてきたのは、波の音。

それから、誰かの笑い声。

そして、どこか懐かしい、跳ねるようなリズムだった。


ノーズベルク伯爵は静かに言った。


「その先にあるのは、“笑いの海”です。落ちれば最後、しばらく真面目な顔ができなくなるでしょう」


らいらいは、にやりとした。


「いいじゃん。行こうぜ」


すると、焼き芋執事がぽんっと本来の姿に戻った。

それは執事ではなく、小さな光る案内人だった。

丸くて、ふわふわしていて、目だけやたら真剣な生き物。


「ぼくはモチモチ案内妖精の、いもすけです」


「情報量が多いな」


「二番目の扉の先では、“笑いを忘れた王冠”が待っています。気をつけてください」


「笑いを忘れた王冠?」


「はい。昔はよく笑っていたんですが、ある日“ちゃんとしなきゃ病”にかかってしまって」


「嫌すぎる病名だな……」


らいらいは扉の前に立った。

波の音が強くなる。

向こうには、新しいへんてこが待っている。


そして、らいらいは振り向かずに言った。


「次は、王冠を笑わせる番だな」


二番目の扉は、ゆっくりと全開になった。


その先には、月明かりに照らされた巨大な青い海と、海のど真ん中にぽつんと浮かぶ、逆さまの城があった。


1 笑いの海へ飛び込み、逆さまの城に向かう

2 いもすけに、笑いを忘れた王冠の過去を聞く

3 ノーズベルク伯爵に、まだ隠していることを吐かせる


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ