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らいらいは、光る石畳の上を、ぴょん、ぴょん、と軽く跳ねながら進んでいた。
さっき選んだ**1番の扉**は、やっぱり正解だったらしい。
扉の向こうには、ふつうの部屋なんてなかった。
そこは――
**「くしゃみの谷」**だった。
谷じゅうに、ふわふわした白い綿みたいなものが漂っている。
雪にも見える。花粉にも見える。
でも、よく見ると全部ちいさな顔がついていて、
「はっ……」
「はっ……」
「はっくしょん準備中……」
と、もぞもぞしていた。
らいらいは思わず立ち止まる。
「なんだここ……嫌な予感しかしないぞ」
その瞬間、谷の奥から、妙に立派なヒゲを生やした老人が現れた。
だが身長はひざくらいしかない。
しかも頭には金色のティッシュ箱をかぶっている。
「よく来たのう、旅人らいらいよ」
「誰だよ」
「わしは**ティッシュ仙人**じゃ」
「名前で全部わかるのやめてくれ」
ティッシュ仙人は、こほん、と咳払いしたあと、なぜか鼻を押さえて真剣な顔になった。
「この谷は危険じゃ。いま、封印されていた**超特大くしゃみ神**が目覚めようとしておる」
「全然ありがたくない神だな」
「目覚めれば最後、世界じゅうの者が同時にくしゃみをする」
「それは地味にやばい!」
「スープを飲んでる者も、会議中の者も、寝てる者も、告白しようとしてる者もじゃ」
「最悪のタイミングだらけだ!」
仙人はうなずいた。
「しかも、ただのくしゃみではない。
ひとり一回くしゃみするたび、頭の中にどうでもいい記憶が一つ浮かぶ」
「なんだそれ」
「『小学校のとき一回だけ変な歩き方したこと』とか、
『誰にも見られてないと思って変顔した瞬間』とかじゃ」
「精神的ダメージがでかい!」
そのときだった。
谷の中央にある巨大な鼻の形の岩山が、ずずず……と揺れ始めた。
空気が震え、白い綿たちが一斉に叫ぶ。
「はっ……!」
「はっ……!」
「はっ……!」
「来るぞーーーーっ!!」
らいらいの前髪がぶわっと逆立った。
岩山のてっぺんに、赤く光る二つの穴。
その下に、ゆっくりと開く巨大な口。
**超特大くしゃみ神**が、目を覚ましたのだ。
その姿は、思ったより神々しくなかった。
ものすごく大きいのに、顔が少し眠そうで、鼻の下にうっすら牛乳みたいな線がついている。
「……はっ……」
世界が静まる。
「……はっ……」
空が引っ張られるように歪む。
「……はあああああっ……」
らいらいは叫んだ。
「まずい! あれ、完全にでかいやつだ!」
ティッシュ仙人も叫ぶ。
「くしゃみ神のくしゃみを止める方法はただ一つ!
**本人より先に笑わせること**じゃ!」
「なんで!?」
「くしゃみと笑いは、たまにぶつかる!」
「雑な世界のルールだな!」
だが迷っている暇はない。
くしゃみ神の鼻は、もう限界までふくらんでいる。
らいらいは全力で頭を回した。
変顔か?
ダジャレか?
それとも、あの伝説の「三歩だけ妙に自信満々な歩き方」か?
そのとき、らいらいの足元に、ひとつの白い綿がふわりと落ちてきた。
小さな声で言う。
「……あの神、昔から**鼻を“はなぶえ”って言い間違えると弱い**らしいよ」
らいらいの目が光る。
「それだ」
らいらいは大きく息を吸いこみ、谷じゅうに響く声で叫んだ。
「おーーーい! くしゃみ神ーーーっ!!
おまえの**はなぶえ**、めちゃくちゃふくらんでるぞーーーっ!!」
一瞬の静寂。
超特大くしゃみ神の目が、ぴくりと動いた。
「……はな……ぶえ?」
らいらいはたたみかける。
「そうだ! その立派なはなぶえだ!
しかも左右でちょっと形ちがうぞ!」
綿たちも調子に乗った。
「はなぶえ! はなぶえ!」
「右のはなぶえが元気!」
「左はちょっと寝ぐせ!」
ティッシュ仙人まで参加する。
「わしは三百年前からそう思っとった!」
「お前もかよ!」
その瞬間――
くしゃみ神の顔が、ぶるぶる震えた。
「……く……」
「……くく……」
「……くはっ……!」
そしてついに、
**「ぶはーーーーっはっはっはっは!!」**
と、空を割る大笑いをした。
笑いの衝撃で谷の綿たちはくるくる踊り、岩山の上から虹色のティッシュが何百枚も舞い上がった。
くしゃみは止まった。
世界は救われたのだ。
らいらいはその場にへたりこんだ。
「た、助かった……。
まさか世界を救う鍵が“はなぶえ”とは……」
くしゃみ神は笑いすぎて涙をぬぐいながら、らいらいを見下ろした。
「おぬし……面白いやつだな。礼をしよう」
そう言うと、神は鼻の下……ではなく、胸元から小さな鈴を取り出した。
それは透明で、中にちいさな風が閉じ込められているように見えた。
「これは**風笑いの鈴**。
困ったときに鳴らせば、重い空気を少しだけ軽くする」
らいらいは鈴を受け取る。
手のひらの中で、ちりん、とやさしい音がした。
すると、谷の向こうに新しい道が三本現れた。
ひとつは、空へ向かってのびる**雲の階段**。
ひとつは、地下へ続く**まっくらな穴**。
そしてもうひとつは、屋台のにおいが漂ってくる**にぎやかな横道**。
ティッシュ仙人が言う。
「次の行き先を選ぶのじゃ、らいらい。
ここから先は、もっと変なことになるぞい」
らいらいは嫌な予感と、ちょっとしたワクワクを同時に感じながら、前を向いた。
**選択肢**
**1.雲の階段をのぼり、空の上の町へ向かう**
**2.まっくらな穴に入り、地下のひみつを探る**
**3.にぎやかな横道へ行き、謎の屋台街をのぞく**




