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らいらいは、金色のノブがついた小さな扉を、ためらいなく開けた。
すると次の瞬間、目の前に広がったのは――
巨大な鼻だった。
「でかっ」
思わず一歩下がるらいらい。
その鼻は山のように高く、つやつやしていて、しかも中央でぴくぴく動いていた。
左右には霧のような白い息が、ぶしゅう、ぶしゅう、と一定のリズムで噴き出している。
床には看板が立っていた。
**ようこそ 鼻の間へ
ここでは においが 真実を語る**
「なんだその怖い説明は……」
らいらいがつぶやいた瞬間、鼻の穴の奥から、ぴょこん、と小さな生き物が飛び出してきた。
丸い。
白い。
そしてヒゲが立派。
「私はハナモグラ執事、ハーナ・スンです」
「名前がギリギリだな」
「ここでは、言葉よりもにおいが重要です」
ハーナ・スンは胸を張った。
だが胸を張ったせいで、なぜか自分のヒゲが鼻に入り、
「へっ……へっ……へぶしっ!!」
と、ものすごいくしゃみをした。
その瞬間。
巨大な鼻全体が反応した。
ぶるるるるるるるる――ッ!!
「え」
「まずいです!」
「何が!?」
「この部屋の主が起きます!」
鼻の山がゆっくり持ち上がり、その向こうから、信じられないものが姿を現した。
それは、王冠をかぶった巨大な顔だった。
いや、顔というより、**鼻を中心に組み立てられた王**だった。
目は細い。
口は小さい。
だが鼻だけが圧倒的存在感を放っている。
「……誰だ、わしの昼寝を邪魔したのは」
低く響く声。
部屋中の空気が震える。
ハーナ・スンは土下座した。
らいらいも、なんとなくつられて半分だけしゃがんだ。
「お、お初にお目にかかります、鼻王ノーズ三世!」
「半端なしゃがみ方をするな」
「すみません」
鼻王ノーズ三世は、すうううう……と大きく息を吸った。
そして、らいらいの周囲の空気を一気に嗅ぎ取った。
「ほう……おぬし、ただ者ではないな」
「においで分かるんですか」
「分かる。おぬしのにおいには、旅、笑い、ちょっとした寝不足、そして……焼きそばパンを迷った末に買わなかった者の後悔が混じっておる」
「なんでそんな細かいんだよ!」
「鼻をなめるでない」
鼻王はずいっと顔を近づけた。
もう、鼻しか見えない。
「らいらいよ。おぬしは今、二つの道のどちらかを選ばねばならぬ」
玉座の横から、二つの箱が運ばれてきた。
ひとつは銀色で、表面にきらきらした模様がある。
もうひとつは木箱で、なぜか小さく「さわるな」と書いてあるのに、すでに誰かがベタベタ触った跡があった。
「銀の箱には、**真実の香り**が入っておる」
「木の箱には、**世界でいちばん危険なくしゃみ**が封じられておる」
「後者の説明が嫌すぎる」
「どちらかを開けよ」
ハーナ・スンが小声で言った。
「ちなみに前任者は、木の箱を開けて三日三晩くしゃみし続けました」
「前任者って何」
「挑戦者です」
「そんな軽い感じで言うな」
らいらいは二つの箱を見比べた。
銀の箱は美しいが、妙に怪しい。
木の箱は危険そうだが、なぜか気になる。
そして、その時だった。
木の箱が、勝手に少しだけ開いた。
すき間から、ひゅるるる……と、きらめく粉が漏れ出す。
「まずいです!!」
「それ、まずいやつ!?」
「超まずいやつです!!」
らいらいがとっさに箱を押さえようとした瞬間、
中から飛び出した一粒の粉が、鼻王ノーズ三世の鼻先に、ぴとっと付着した。
部屋が静まり返る。
鼻王の目が見開かれる。
「……来る」
「え?」
「大くしゃみが――」
次の瞬間、鼻王ノーズ三世は天を仰ぎ、
「ハ――――――……」
城全体が震えた。
壁の絵が傾く。
シャンデリアが揺れる。
ハーナ・スンは「終わった……」とつぶやいて机の下に潜る。
らいらいは必死に柱につかまった。
「ハ――――――――――――」
そして。
「ハナダイナミックシュンペレラァァァァァァくしょおおおおおおん!!!」
爆風が起きた。
らいらいはそのまま宙に舞い、
銀の箱、木の箱、ハーナ・スン、なぜか壁に飾ってあった巨大ティッシュの額縁まで一緒に吹き飛ばされ、
部屋の奥の隠し通路へと吸い込まれていった。
ぐるぐる回る視界の中で、
らいらいは最後に見た。
通路の先に、青白く光る文字が浮かんでいるのを。
**次に辿り着くのは
笑いの間か
涙の間か**
らいらいは転がりながら叫んだ。
「なんで鼻の次がそんな情緒ある部屋なんだよおおおおお!!」
そして、どさりと落ちた先で、
二枚の扉がゆっくり開き始めた――。
1 笑いの間へ入る
2 涙の間へ入る




