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門の前に浮かんだ金色の細道は、近くで見ると道というより「誰かがうっかり落としていった夕焼け」みたいだった。


らいらいが一歩踏み出すたび、足元で小さく音が鳴る。


ぽん。

ぴこん。

ぱちり。


まるで道そのものが、歩かれるのを待っていたみたいに喜んでいた。


白髪の少女は門の前から動かず、少しだけ目を細めた。


「そっちを選ぶんだね。未読の街じゃなくて、名もなき森を」


らいらいは振り返らずに言った。


「名前がないなら、まだ何にでもなれるってことだろ」


少女は少し驚いたように、でも嬉しそうに笑った。


「……そう言った人は、君で七人目」


「多いのか少ないのか分かりにくい数字だな」


「この森では、分かりにくいことの方が本物なんだよ」


その言葉を背に、らいらいは金色の細道を進んだ。


やがて門の光は遠ざかり、代わりに奇妙な森が現れる。


木々には葉の代わりに、言いかけてやめた言葉が実っていた。


「また今度」

「別にいいけど」

「いや、なんでもない」

「ちょっと違う」

「本当はさ」


枝が揺れるたび、それらがささやく。


風景としてはかなり綺麗なのに、会話の後味だけが妙にリアルで、らいらいは思わず眉をひそめた。


「嫌な森だな。気まずいLINEの履歴だけで出来てるみたいだ」


すると、すぐ横の茂みがガサッと揺れた。


飛び出してきたのは、鹿でも狼でもなく――

小さな丸い生き物だった。


白くてふわふわで、目だけがやたら真剣。

しかも頭の上に木の葉を三枚のせている。


「止まれ!」


体は小さいのに、声だけ無駄に威厳があった。


「ここは名もなき森の入口! 旅人は名を名乗れ!」


らいらいは少し黙ってから答えた。


「それを聞くなら、まずそっちが名乗れよ」


ふわふわの生き物は固まった。


「…………」


「…………」


「実は、ない!」


「ないのかよ!」


「ここ、名もなき森だから!」


たしかに筋は通っていた。悔しいが。


その生き物は胸を張った。胸らしい胸はなかったが、雰囲気で張っていた。


「私はこの森の案内係! 仮に“モフ仮面三号”と呼ばれている!」


「仮すぎるだろ」


「一号と二号は昨日、自分探しの旅に出た!」


「お前ら全員ふわっと生きてるな」


モフ仮面三号は、らいらいの足元をぐるぐる回ると、急に真顔になった。


「君、この森に入ったってことは、“まだ名前のついていない気持ち”を探しに来たんでしょ」


その言葉で、森の空気が変わった。


さっきまでただ奇妙だった木々のざわめきが、急に意味を帯びる。


「まだ怒りじゃない」

「まだ恋じゃない」

「まだ希望とも言い切れない」

「でも、たしかにある」


見えない感情たちが、森の奥で呼吸しているようだった。


らいらいはゆっくり答える。


「探しに来た、のかもしれない。あるいは――置いてきたものを、見つけに来たのかもな」


モフ仮面三号はこくりと頷いた。


「なら急いだ方がいい。この森では、気持ちは放っておくと勝手に別の名前になっちゃうから」


「厄介すぎるだろ」


「昨日も“ちょっと寂しい”が“世界の終わり”になってた」


「規模がでかすぎる」


「その前は“なんかムカつく”が“千年呪詛”になってた」


「森の管理が雑なんだよ!」


思わずツッコんだ瞬間、森の奥で鈴の音が鳴った。


ちりん。


ちりん。


その音に、木々の囁きが一斉に止まる。


モフ仮面三号の葉っぱが、ぴんと立った。


「まずい。『名付けの魔女』が起きた」


「いや急に強そうなの出てきたな」


「強いよ。めちゃくちゃ強い。見つけた感情になんでも名前をつけちゃうんだ」


「それの何がまずい?」


モフ仮面三号は、震える声で言った。


「本当は“伝えたいことが伝えきれないほどある”だけの気持ちに、『永遠に届かない呪い』とか重すぎる名前をつけたりする」


らいらいの足が止まる。


森の奥、金色の霧の向こうに、古い塔のような影が見えた。


その頂上で、誰かがこちらを見ている。


長い髪。

細い影。

手には、巨大な羽ペン。


「……つまりあいつに先に名前をつけられる前に、俺が見つけなきゃいけないんだな」


モフ仮面三号は大きく頷いた。


「そう。そして君が探してるものは、たぶんもう森のどこかで逃げ回ってる」


「感情が逃げ回るなよ」


「この森では走るよ。ときどき木にも登る」


「面倒な世界観してるな……!」


するとその時、らいらいの胸元がかすかに光った。


いつの間にか、門の向こうで少女が見せた「まだ開いていない日記」が、手の中に現れていた。


表紙にはまだ何も書かれていない。

だが、最初のページだけが勝手に開く。


そこに浮かんだ文字は、たった一行。


**『名前を与える前に、耳を澄ませ』**


次の瞬間。

森の奥から、誰かの声がした。


「――たすけて」


それは人の声にも聞こえたし、

言葉になりそこねた感情そのものの声にも聞こえた。


モフ仮面三号が叫ぶ。


「選んで! もう時間がない!」


**選択肢**


1. 声のした方へ走り、助けを求める存在を追う

2. 日記を開いたまま、その場で森の声に耳を澄ませる

3. 名付けの魔女がいる塔へ向かい、先に正体を確かめる



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