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らいらいは、金色の扉の前で立ち止まった。
扉には、指でなぞったような文字が浮かんでいる。
**「3を選びし者よ、笑いを失うな」**
「いや、急に説教してくる扉かよ」
思わずつっこむと、扉の向こうから**ぷふっ**と誰かの吹き出す声がした。
扉そのものが笑ったみたいに、表面がぷるぷる揺れる。
らいらいがそっと手を伸ばすと、扉はひとりでに開いた。
その先に広がっていたのは、夜でも昼でもない、不思議に明るい回廊だった。
床は透明なガラスのようで、その下には無数の星が流れている。
天井には巨大なシャンデリア……と思いきや、よく見ると全部**逆さまのティーポット**だった。
「なんでだよ」
その瞬間、回廊の奥から、コツ、コツ、と靴音が響く。
現れたのは、長い銀髪をひるがえした女だった。
黒と紫のドレス、片目を隠すヴェール、そして口元には、何か全部見抜いているような微笑。
「ようこそ、らいらい。ここは**笑いと秘密の回廊**。私は案内人、**アルカ・ラミエル**」
らいらいは目を細めた。
「……なんかすごく強そうだね」
「ええ。強いですよ」
「敵?」
「場合によります」
「一番困るやつだ」
アルカはくすっと笑うと、指を鳴らした。
すると回廊の左右に、三つの扉が現れる。
ひとつめの扉には、**「過去」**。
ふたつめの扉には、**「未来」**。
そして、みっつめの扉には、なぜか大きく、
**「炊きたて」**
と書かれていた。
「待て」
「はい」
「なんで三つ目だけご飯っぽいんだ」
「この世界ではよくあることです」
「ないよ」
アルカは真顔で説明を続けた。
「過去の扉を開けば、あなたが忘れた記憶に近づけるでしょう。
未来の扉を開けば、まだ見ぬエターナリアの姿を知ることができる。
そして炊きたての扉を開けば――」
「開けば?」
「たぶん、すごくいい匂いがします」
「雑すぎるだろ!」
そのときだった。
回廊全体が、ぶるん、と震えた。
星の床の下から、巨大な影がゆっくりと浮かび上がってくる。
丸い。
異様に丸い。
そして次の瞬間、それは床を突き破って現れた。
巨大な白い生き物。
つやつやしている。
ほんのり湯気が立っている。
「……おにぎり?」
「はい」
「はいじゃないよ」
それは山のように巨大な**おにぎりの魔獣**だった。
海苔の目、梅干しみたいな赤い口、そしてやけに勇ましい眉毛までついている。
魔獣は低くうなった。
**「具は……なんだと思う……?」**
「しゃべった!」
アルカは一歩下がり、涼しい顔で言う。
「この回廊の門番、**オニギラス**です」
「名前が直球すぎる」
「気をつけて。彼は、質問にまともに答えない者を、もちもちの圧で包み込みます」
「地味に嫌だな!」
オニギラスはじりじりと近づいてくる。
床が揺れ、星が散る。
その圧はまるで、世界の主食そのものだった。
**「答えよ……我が具は……鮭か……梅か……それとも……」**
そこでオニギラスは、なぜかもったいぶって口を閉じた。
数秒沈黙。
やたら長い沈黙。
らいらいは眉をひそめた。
「いや、早く言えよ」
**「……秘密だ」**
「自分で聞いといて!?」
アルカは肩をすくめる。
「つまり、これは知識の試練ではありません」
「じゃあ何」
「ノリの試練です」
「最悪だなこの世界!」
オニギラスが跳躍した。
でかい。速い。重い。しかも妙に香ばしい。
らいらいは転がるようにかわし、回廊を走る。
後ろから巨大なおにぎりが追ってくる。
どういう夢だよ、と心の中で叫びながらも、らいらいの足は止まらない。
すると、足元のガラス床に文字が浮かび上がった。
**「笑って跳ねろ」**
その文字を見た瞬間、らいらいの中で何かがカチリとかみ合った。
理屈じゃない。
説明もできない。
けれど、今この場で必要なのは、たぶんそれだった。
らいらいは振り向いた。
迫るオニギラスを前にして、なぜか笑った。
「わかったよ。そういうことか」
そして床を強く蹴った。
一歩。
二歩。
三歩――
らいらいの体はふわりと浮かび、信じられない高さまで跳ね上がる。
まるで言葉そのものが跳躍したみたいに。
「うおおおお!? 高っ!」
宙に浮かぶらいらいの足元に、光る文字が連なっていく。
**らい
らい
らい
らい**
跳ねるたびに、文字が音になり、音が風になり、風が笑いになって回廊を満たす。
オニギラスは一瞬だけ動きを止めた。
**「な……なに……そのリズム……」**
らいらいは空中で身をひねり、びしっと指をさした。
「お前の具が何かなんて、どうでもいい!
大事なのは――うまそうかどうかだ!」
沈黙。
次の瞬間、オニギラスの海苔の目から、つーっと涙が流れた。
**「その通りだ……」**
「泣いた!?」
巨体がずしんとひざまずき、オニギラスはしみじみ言った。
**「私は長年……具にこだわりすぎていた……」**
アルカもなぜかうなずいている。
「深いですね」
「いや深いかなこれ」
オニギラスは静かに口を開いた。
**「らいらいよ。お前は試練を超えた。
礼として、三つの扉のうち一つだけ、真実の扉に変えてやろう」**
ごごごご、と音を立てて、三つの扉の文字が揺れる。
「過去」「未来」「炊きたて」
そのうち「炊きたて」がまばゆく発光しはじめた。
「結局それなの!?」
「ええ」とアルカは言った。
「だって一番気になりますから」
「この世界、勢いだけで動いてない?」
やがて光がおさまると、炊きたての扉には新しい文字が浮かんでいた。
**「王の食卓」**
空気が変わる。
遊びみたいだった回廊に、急に荘厳な気配が差し込む。
扉の向こうから、懐かしいような、まだ知らないような、不思議な匂いが漂ってきた。
温かいごはんの匂い。
スープの匂い。
それから、誰かが帰りを待ってくれている場所の匂い。
アルカが静かに言う。
「この先には、あなたがまだ思い出していないものがあります」
「記憶?」
「たぶん、それだけじゃない」
「……そう」
らいらいは、光る扉を見つめた。
笑いの試練の先にあったのは、ふざけた世界の奥に隠れていた、少しだけ本物の匂いだった。
胸の奥が、かすかに熱くなる。
オニギラスは小さな声で言った。
**「行け……らいらい……そして……もしよければ帰りに食べてくれ……」**
「お前、いいやつだな……」
らいらいは扉に手をかける。
その瞬間、向こう側から、誰かの声がした。
**「遅かったじゃない」**
それは優しい声だった。
でも、どこかで聞いたことがある気もする。
誰なのか、思い出せそうで思い出せない。
扉が、ゆっくり開いていく――。
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**選択肢**
**1.** 扉の向こうへ進み、「王の食卓」に入る
**2.** アルカに「あの声の正体」を先に聞く
**3.** オニギラスの具を最後にもう一度だけ問い詰める




