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白い駅のホーム。

空には意味ありげな単語が並び、

遠くからは不穏すぎる“空白列車”が、

ゴゴゴゴ……と、完全に嫌な感じで近づいてきていた。


少女は涙目で、ぺたんと座り込んでいる。


「わ、わたし……名前がわからないの……」


ひかりが腕を組んだ。


「まずいね。あの列車に乗せられたら、“設定未記入のまま物語から退場”コースだよ」


「それは雑すぎるだろ!」


らいらいがツッコんだ瞬間、ホームの床に文字が浮かぶ。


**呼ぶ**


どうやらこれが、選択肢1らしい。


「よし、本当の名前を呼べってことだな」


「でも分かるの?」とひかり。


「分からん」


「分からんのかい」


「だが、こういうのは勢いだ」


「一番危ないやつだよそれ」


空白列車がさらに近づいてくる。

よく見ると車体の横には、気味の悪い文字が書かれていた。


**“名もなき者 回収専用”**


「嫌すぎるだろその直球ラベル!」


らいらいは少女の前にしゃがみこんだ。

少女は不安そうに見上げてくる。


「え、えっと……思い出せそう?」


「ぜんぜん……」


「好きな食べ物は?」


「わからない……」


「好きな色は?」


「わからない……」


「じゃあ、納豆にからしを入れる派か?」


「その質問いる!?」


ひかりが即座に突っ込む。


らいらいは真顔でうなずいた。


「名前を失っても、納豆の派閥は魂に残ることがある」


「ないよ」


「たぶんないね……」と少女まで言った。


「くっ、冷静だな君たち」


列車の警笛が鳴る。


**ボオオオオオ―――**


うるさい。

無駄にうるさい。

そのくせ妙に偉そうだ。


車掌らしき影のアナウンスが響いた。


『まもなく空白列車が到着いたします』

『名前のない方、心の準備をして適当に並んでください』


「適当でいいのかよ運営!」


らいらいは立ち上がった。


「こうなったら直感だ!」


「急に不安しかない」とひかり。


らいらいは少女を見つめる。

星空みたいな目。

白いワンピース。

小さく震える手。

その姿を見た瞬間、なぜか脳内に、いくつもの名前が弾け飛んだ。


「ミルフィーユ!」

「違う気がする!」

「ルナ!」

「惜しい感じはあるけど違うかも!」

「ポテサラ!」

「途中から絶対ふざけたよね!?」

「いや、名前っぽいかもしれないだろ!」

「どこの世界の名家だよポテサラ家!」


少女がちょっとだけ笑った。


それを見て、ひかりが目を細める。


「……あ」


「どうした?」


「今、一瞬だけ、この空間のノイズが弱まった」


「え?」


ホームを見れば、床に走っていたヒビのような黒いノイズが、少しだけ薄くなっている。


ひかりは少女を見た。


「もしかして……名前そのものじゃなくてもいいのかも。“その子が自分を失わずにいられる言葉”が必要なんじゃない?」


らいらいは眉を上げた。


「つまり?」


「笑わせろってこと」


「急にこの世界、芸人に厳しくない?」


列車がホームに滑り込んできた。

扉が開く。

中は真っ暗だ。

しかも奥から妙に事務的な声が聞こえる。


『名前のない方はこちらです』

『乗車後、個性は回収されます』

『忘れたくない思い出がある方も安心して忘れられます』


「最悪のサービス!」


少女がぶるっと震えた。


「いや……乗りたくない……」


らいらいは、そこでふっと笑った。

大げさに胸を張る。


「大丈夫だ」


「え?」


「君の名前が分からなくても、今ここで俺が勝手にあだ名をつける!」


「雑!」


「待てひかり、こういうのはスピード感が命だ」


らいらいはビシッと少女を指差した。


「君は今日から――」


一拍。


「**ほしぴょん**だ!」


場が止まった。


ホームの空気も止まった。

列車の音も一瞬、ひるんだ気がした。

ひかりは顔を覆った。


「終わった……センスが軽すぎる……」


だが少女は、ぱちぱちと瞬きしたあと、


「……ほし、ぴょん?」


と、小さくつぶやいた。


「そうだ。星みたいな目で、ぴょんと跳ねて生き残りそうだから、ほしぴょんだ!」


「理由も軽い!」


「軽やかに生きることは大事だろ!」


少女の口元が、ふにゃっとゆるんだ。


「なんか……へん……」


「へんでいいんだよ」とらいらい。

「完璧な名前じゃなくていい。呼ばれて、笑えて、ちょっと前向けるなら、それはもう立派な名前候補だ」


その瞬間だった。


少女の胸元に、小さな光がぽっと灯る。


ホーム全体に、ビリビリと音が走る。

空に並んでいた単語のうち、**“???”**が揺れた。


ひかりが目を見開く。


「きた……! 何か戻りかけてる!」


空白列車の中から車掌の影がぬっと出てきた。

黒い帽子、黒い制服、黒い無表情。

なのに口調だけ妙に丁寧だ。


『困りますねぇ』

『勝手に仮名を与えられると、回収手続きが煩雑になるんですよ』


「知らんがな!」


『この子は名前未定のまま提出された存在です』

『そういうのは、我々がきっちり無に還す決まりでして』


「ブラック企業かここは!」


車掌はスッ……と手帳を開いた。


『では確認します』

『この少女の正式名称を申告してください』


らいらいは固まった。


「正式名称」


ひかりが小声で言う。


「まずい、本番が来た」


少女の光が少し強くなる。

笑ったことで、何かが戻りかけている。

けれど、まだ足りない。


らいらいは少女を見る。

少女もまた、らいらいを見ていた。


「……ほしぴょんじゃ、だめなの?」


その言葉に、らいらいの胸がドクンと鳴った。


空に浮かぶ単語たちがざわめく。

ホームが揺れる。

列車の扉が勝手に閉まりかける。


ひかりが叫ぶ。


「らいらい! たぶん今だ! その子の“本当の名前”は、完全に思い出すものじゃない! **今ここで決めるもの**かもしれない!」


車掌が手を上げる。


『10秒以内に申告がなければ回収します』


「急かすな!」


『9』


「うわほんとに始めた!」


『8』


少女の光がまた揺れる。


『7』


ひかりが言う。


「らいらい、選んで!」


らいらいは息を吸った。

この名前で、この子の運命が決まる。

なら――少し笑えて、でも、ちゃんと前を向ける名前がいい。


---


### つづきの選択肢


**1.** らいらいは少女に「ほしぴょん」という名前を正式に与える

**2.** らいらいは直感で、まったく別の“本当の名前”を叫ぶ

**3.** ひかりがまさかのネーミングセンスを発揮して割り込む

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