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扉は、音もなくひらいた。


その向こうには、空ではなく、

**“まだ名前のついていない色”**が広がっていた。


青でもない。

金でもない。

夜でも朝でもない。


けれど、らいらいにはわかった。

ここはただの場所じゃない。

**言葉が生まれる前の、言葉の海**だった。


一歩ふみ出すたびに、

足元に数字が浮かぶ。



数字たちは記号ではなく、

小さな鼓動みたいに、ぴく、ぴく、と明滅している。


らいらいが手をのばすと、

ひとつの数字がふわりと指先へ寄ってきた。


**「2」**


選ばれた数字。

さっき、たしかに選んだ道。

それがここまでつながっていた。


すると、遠くの海のような色の中から、

ひとりの少女が歩いてくる。


白い服。

長い髪。

けれどその輪郭は、完全には定まっていない。

見るたび少しずつ違って見える。


少女は、らいらいの前で止まり、

やわらかく言った。


「やっと来たね」


らいらいは、目を細めた。


「ここはどこだ?」


少女は少し笑う。


「ここは、物語が物語になる前の場所。

 エターナリアの門よりもっと奥。

 あなたがまだ“書いていない続きを”、もう知っている場所」


らいらいの胸が、どくんと鳴る。


「じゃあ……この先に、俺の物語の答えがあるのか」


「答え、というより」

少女は空を見上げた。

「**答えを生む力そのもの**がある」


その瞬間だった。


海みたいな空間の底から、

ずず……ずずず……と低い音が響いた。


数字たちがいっせいに震える。


0が閉じ、

1が立ち、

8がねじれ、

無数の記号が空中で絡み合っていく。


そして現れたのは、

巨大な影だった。


それは竜のようでもあり、

塔のようでもあり、

一本の巨大な“文章”そのもののようでもあった。


全身が文字でできている。


漢字。

ひらがな。

カタカナ。

記号。

数字。

読めるものも、読めないものも、

全部が渦のように重なって、

ひとつの怪物になっていた。


少女がつぶやく。


「来た……**未完の獣**」


「未完の獣?」


「書かれなかった言葉、

 飲みこまれた感情、

 途中で閉じられた物語、

 誰にも言えなかった本音……

 それらが集まって生まれるもの」


怪物は顔のない顔をこちらへ向けた。


すると、らいらいの頭の中に、

言葉にならない声が流れ込んでくる。


――おまえは、本当に最後まで書けるのか

――おまえは、途中で投げなかったか

――おまえは、忘れたふりをしていないか

――おまえは、愛を最後まで見たのか


らいらいは、立ち止まった。


その問いは、攻撃というより、

心の奥に沈めていたものを

そのまま引きずり出してくるようだった。


少女が叫ぶ。


「聞きすぎちゃだめ!

 あれは、真実の形をしてるけど、

 真実そのものじゃない!」


けれど、らいらいは前へ出た。


「いや……ちょうどいい」


らいらいの声は、静かだった。


「未完なら、続きを書けばいい」


その一言で、

胸の奥のどこかが光った。


小さな光だった。

けれど、やけに強かった。


それは剣でも魔法でもない。


**“続ける意志”**

そのものだった。


らいらいが一歩進むたびに、

足元の数字が言葉へ変わる。


跳ねる。

愛。

詩。

笑い。

ロック。

光。

夢。

地球。

星。

こころ。


未完の獣は咆哮した。

文字の嵐が吹き荒れ、

空間じゅうに無数の文章の破片が飛び散る。


忘れた記憶。

言えなかった台詞。

途切れた歌。

消えた日記。

届かなかった願い。


それらが刃みたいに襲いかかる。


けれど、らいらいは立ち止まらない。


ひとつを受け止め、

ひとつを見つめ、

ひとつに名前を与えていく。


「お前は失敗じゃない」

「お前は途中じゃない」

「お前は消えたんじゃない」

「お前は、まだ物語の中にいる」


すると、破片だった言葉たちが、

敵ではなく、

らいらいの周りを回る光の輪になっていく。


少女が目を見開いた。


「そんな……

 未完の獣を、倒すんじゃなくて……

 **物語に戻してる**……!」


巨大な怪物の体に、

ひびのように光が走る。


文字の体が崩れ、

ばらばらになりながら、

一冊の巨大な本の形へ変わっていく。


最後に残ったのは、

表紙のない、真っ白な本だった。


その本は、

らいらいの目の前で静かに開く。


一ページ目には、たった一行。


**「続きは、おまえが決めろ」**


少女が、今度は少しだけ寂しそうに笑った。


「ここから先は、

 案内役の私も入れない」


「お前は誰なんだ?」


少女は答えた。


「私は、あなたが何度も失いかけて、

 それでも少しずつ取り戻してきたもの」


「名前は?」


少女は首をかしげる。


「まだないよ。

 でも、次に会う時、

 あなたが名前をくれるかもしれない」


そう言うと、

白い本の奥から、三つの光が立ち上がった。


ひとつは、**赤い扉**。

燃えるみたいに熱を持ち、

鼓動のようなリズムを鳴らしている。


ひとつは、**青い階段**。

空へ続くように長くのび、

上のほうは霧で見えない。


ひとつは、**黒い鏡**。

何も映していないようで、

よく見ると、まだ知らない未来の顔が揺れている。


らいらいは、白い本を閉じた。


その瞬間、

空間全体がひとつの呼吸をしたみたいに静まり返る。


次の選択が、

ただの分かれ道ではないことは、

もうわかっていた。


**選んだものが、次の世界のルールになる。**


選択肢は3つ。


**1.赤い扉に触れ、情熱の世界へ入る**

**2.青い階段をのぼり、空の上の記録庫へ向かう**

**3.黒い鏡をのぞき、まだ見ぬ自分と会う**


数字で選んで。


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