理由
「アヒャヒャヒャヒャ。大正解。
地縛霊は人を鬼と間違えて襲うのです。
最高の演出でしょ!」
私は息をのんだ。
「何のためにそんなことを」
少年は笑いをこらえながら口を開く。
「黒い染みの量産ですよ。
地縛霊に殺された人は黒い染みになって、人を襲うのです」
少年は楽しそうに続ける。
「怖がれば怖がるほど、濃くなる。
逃げれば逃げるほど、増えていく。
怖がって、追いかけて、逃げて!
ね?ちゃんと“遊び”になってるでしょ」
病院や学校はそのために、利用された。
私は拳を強く握った。
「人の命を、何だと思っている!」
「あはは。遊ぶ人が増えた方が楽しいでしょ!?
ちょっとだけ、幻覚を見せてるけどね。ははは」
一瞬だけ、少年の目が冷えた。
「……誰も僕の遊びに付き合ってくれない。
一人は、つまらないんだよ」
礼子の身体がびくりと震えた。
「累さん……っ」
「礼子を離せ」
すると黒い染みが水溜りのようにブランコの下へ溜まっていく。
礼子の足はそこに浸かった。
「約束通り解放してあげますよ。人間という呪縛からね!」
少年が手を振り上げたその瞬間、公園に冷たい風が吹いた。
木の葉が宙に舞い、砂が渦を巻いた。
びゅん。
一瞬の突風。
目にも止まらぬそれは、ブランコに座る礼子をさらっていった。
「いつなったら、解放されるんだ!?」
その嫌味な声が、
今だけはひどく嬉しかった。
先輩は風のように礼子を公園のベンチに寝かせた。
彼女はすでに、意識を失っていた。
「累!鳴らせ!」
先輩は声を張り上げる。
私は革靴を大きく踏み込む。
コツン!
けれど黒い染みには、まったく効果がなかった。
ここには、人の温もりが足らない。
「あははは。
わかっているでしょう。それに何の効果もないことを」
先輩は少年の懐に一気に潜り込む。
「今はそれでいいんだ」
一閃。
ボンっという小気味よい音が鳴り響く。
先輩の鋭い突きが少年の身体を捉えた。
しかし、少年は笑みを絶やさない。
「ははっ!そんな拳に効果があると信じているのですか!?」
その刹那、パンッと少年を囲う黒い染みは弾き飛んだ。
「信じているさ」
先輩は幾重にも突く。
そのたびにボンッという音が鳴る。
「……まさか。なぜそれを」
少年の声がわずかに歪んだ。
少年は逃げるように跳躍し、ブランコを支える鉄の棒に立った。
先輩は拳を前に突き出した。
「外からの音はいくらでも防げる。
でも、身体の内側に響く音は防ぎようがないだろう!」
少年の顔に影が落ちた。
それと同時に、ブランコに溜まった黒い染みは霧散した。
少年は何も言わず、闇の中に消えていった。
私は礼子に目を向ける。
すると、礼子の身体から色が抜けていくように見えた。
私は礼子を抱えて、病院を目指した。
そのときは、何もかも忘れて、走っていた。




