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日本の定理・下巻  作者: 泉川復跡
【『算額主義』編】第十九章。海に弾き語り
8/16

19.2. 絲島家の酒呑み、渡邊家の大食い

 富士山麓の険しい森を脱出し河口湖畔の町に一週間泊まった挙句、遂に小田原に帰った。10月16日の月曜日の昼、横澤さん達や『回遊魚』ゲームのプレーヤーである子供達と私達が温かい別れを互いに送ったのち、柏さんに許可して貰った深本さんが手綱を鞭打ち二頭の馬を出発させ、町と富士五湖を後ろに籠坂峠と帶栗(おびくり)峠を再び越え、愛しい小田原を近く近く視線に留めた。到着したのは3時半で、そろそろ一日の最後の授業の時間だ。高橋ちゃん達との約束は守れなかったね。笠人君の体調不良でもう一週間ぐらい休養するしかないと分かってくれるはずだ。田圃の巨大な絨毯を越えた時、『花火團』で誰もが安堵の溜息をした。山地の寒さと違って、平野の涼しさは優しい風の吹きや稲の揺れに共鳴され、色が暗くなり掛ける葉の落ちに秋の日和を強調された。早かれにもう一つの収穫期は終わり、冬が来る前に人を満腹させる準備が出来るよ。

 また病院に入るのではなく、澁薙君と降恆ちゃんが笠人君に自宅で休んで一週間学校に欠席して貰うことにした。澁薙君は純彦君の家、降恆ちゃんは私の家に泊まり、笠人君に処方をあげて具合を調べるのが便利だ。倉崎さんもこの時に私の家を一時の居場所にするし、共になった降恆ちゃんにちなみに頭を面倒したり依存症をいつも通り制御したりして貰える。これから倉崎さんに小田原の一周の旅行を贈る。小田原城、国府津駅、八田蜜、白濱、『花火團』の自宅など、そして小田原の希望の篝である『若原屋』に出来るだけ訪問していく。一ヶ月前と違って、通りに灰と焦げと破片がもう散らなかったし、崩壊された家が公金で再建されたし、あの夜の火の輪に巻き込まれた経営施設も日向町長の資金で復活を保証したし、一番被害を抱えた野良の動物や愛玩の犬、猫、鳥などの遺体も全部発見され扉賀(とが)墓地で合葬墓に埋められた。

 純彦君の家に行った。小田原の一番大きい焼酎製造所を営んで富豪になった小津丈おじさんと小江おばさんがいつも通り家の酒屋の店先で待っていて、私達の登場を見た時に凄く嬉しかった。ただ今回は二人の美人を連れて行ったことでより嬉しいのは小津丈おじさんの方だもんね。「いらっしゃいませ」を言った後、私達が深本さんを厚喜さんの家族の執事と紹介し、お二人がお酒の二勺で歓迎してくれた。お二人が十八個のお猪口を出し、商品紹介や営業開始の際にお客様におつまみと試飲して貰うおもてなしとして、私達八人団を啜らせた。勿論笠人君は駄目なので、残りの四個を飲むのはおじさんとおばさんだ。今回は北海道の玉蜀黍を少量の牛乳と混ぜ込み、伝統的な大豆と熟成し、新品に出来上がったものだ。玉蜀黍の油はやはり酒の濃さをかなり上げた。一緒に「乾杯」と呼び、お猪口を一発で飲み干したと、わさびを醤油と混ぜずに口に入れるのと同じ、頭上に「ポン」って突き上げたような気持ちをした。

「くーはー、やっぱ湘南一だ。頭がもうもやもやしてる」と感嘆した澁薙君。

「ははは、うちの家に一番通って色々な酒を試してるのに、まだ魅力されてんだい。やはりお前らに試して貰ったら儂ら売れる」と喜ばしく言った小津丈おじさん。

「ったく、『花火團』じゃなければ子供達に絶対にこうもてなしてはいけない。大人のみ酒を酌む。普通な子供に酒を飲ませるのを日向おじさんが知ったら経営中止させてしまう」と言った純彦君。

「うわー、こりゃ沢庵漬けを伴うだけで良い。でも燻製した豚肉をおつまみにしたのも絶品です」と私が飲み干して頭が刺激されたまま感想した。一方、倉崎さんがゆっくり啜った、新しい酒の強い風味が口の中にさっぱり及ぶまで。瞼をぎゅっと閉じてこの酒は自分の深刻に病んだ頭にどれぐらい響けるか試そうとしたみたいだ。

「体は暑くなってる。何年ぶりこんな気持ちがあったわ」、それは倉崎さんの感情。

「やはりあんなに哀れなことに遭っちまった挙句、再び掻き立てましたね、姉さん。自然的な気持ちは」と私が言った。

「うん。じじ達に何度も酒を酌んでて、いつの間に酒呑みになって世間を無視するほどだった。頭の病気を癒やし方と認めたよ、前から」

「どうりでナギ君が姉さんの名前を『酒屋』に噛んじまった時、姉さんがげらげら笑ってました。ずっと前にお酒に関わったこと。普通になら誰かが名前を不注意にでも間違えて呼ばれたら、気分が良くないもんです」

「気分が良くないのはお名前をわざと誤るだけだよ、雅實さん。不注意は許せる。大人はそんな小さなことを気にしない。しかも飲酒は大人だけが許される訳だ」と返事した倉崎さん。

「飲酒は成人資格の一種だもんな。何杯飲み干したとしても酔っ払わず体内の魔を起こさずにいるなら本当の成人だ。酒を販売する度、うちの酒がなるべく遠くへ遠くへと届きますようにと常に祈願してるとは言え、買いに来るのはもしかして奥さんとお子さんを酔っ払いで勝手にぶん殴るか、誰かと理由もなしで喧嘩するか、犯罪を企むかも分からん。酒屋の苦悩だという」と小津丈おじさんが述べた。

「苦悩だとでも酒を世代と世代と売る。うちの酒蔵は爆発するところだったが焼酎を作り続ける。ね、純彦?」と小江おばさんが言った。

「おっ、はい。あの夜で爆発してしまえば火球に違いなかったろ。火花が蒸溜所の屋根に落ちて直ぐに火を付けた。75台の発酵桶、十個の蒸留釜、420荷の甕(かめ)に革製毛布を予め掛けなかったら別々に爆弾に変化してしまったよ。全て発売に準備が出来てる、彼奴らは」

「あの時、雅實ちゃんの家で集合する前に、俺達は自分の家をちゃんと防護しといたんじゃないか。 敵はどう攻めるか分かってなかったんで、どうしても自分の家の破壊率をなるべく下げるんだ」と言った笠人君。

「そういうことだったの。それじゃあ姉さん、わざわざスミヒコ君の家に入ったことで、彼の酒の甕を見てみしませんか?」

「うん、焼酎製造道具を純彦さんがさっき誇らしそうに述べたことで見てみたくなった」と倉崎さんが楽しみにしていて応えた。

「さすが。純彦は美人をうちの店を見学しに誘わせたとはな。ったく、長男なのに受け継がず弟と妹に託すと言ったのが早過ぎる・・・」、小津丈おじさんがなんか珍しい金塊に手をすり抜けちまったような未練で声を掛けた。

「うちの経営の利と損を計算するのは父ちゃんのことをあまり助けたでしょう。しかもそんな歳でなら最低でも父ちゃんがもう二十年を過ごせば私達に受け継いで貰えるんだ」と返事した純彦君。

「なんだと?二十年を経ったら儂らの肝臓がお前の言う通りぼろぼろだよ。自分の夢で羽ばたく一方、お前の親を死ぬほど働かせたいのじゃい?小江ちゃんも女だし酒の匂いに耐えられない癖があるとも分かったろ」

「だから父ちゃんの部下に譲ったら?うちの店は財閥じゃないし、社会に必ずしも世襲で営まされるとは限らないし、店に勤める人の限りうちの一家の成員だと認めて良いから、父ちゃん、母ちゃんと私の弟妹もそれ以降助かるんだ」

 そのところ、小江おばさんが丁度よく割烹着、頭巾、手袋とマスクを持って来た。「はいはいはい。二十年後私と小津丈の肝臓がぼろぼろにならないかどうか、まず製作所を観戦しておく。酒に弱いながら頭が振られずに働く為に頭と顔をちゃんと防護する。さっ、着用して下さい」

 深本さんが着用しながら言った。「偶然かもしれませんけど、実は皆さんと初めて出会う前に、絲島家の焼酎のことを知って四本飲みました。丸端君のお父様の知り合いから初めての一本、京橋区のある居酒屋で飲み会の二本、そして若林師匠と二人飲みのもう一本です」

「おー、結構飲んでましたね、うちの酒は。では深本さん、他の酒に対して違いがあるでしょうか?」、小江おばさんが快く知りたがった。

「んー、絲島家といえば甘さと濃さの方が際立つんですね。啜る度に鼻が通されたみたいな感じがして大豆を含めた麹の甘さが余韻となって喉に残ってます。他の酒は飲む人の喉を燃えるほど温める一方、こっちはその不快を随分抑えるもんです」

「んー、抑えるとは西洋人の船乗りのラムかウィスキーかに似てないように大変な段階を仕込んだんです。では、こっちへ参りましょう」、小津丈おじさんがそう応えて皆を絲島家の製作所に案内することにした。

 大通りに向かうこの大きい二階建ての酒屋と醸造所を同時に運営するのは、同じ敷地で家族の母屋と建てられるしかなかった。中に入る順番には酒屋、母屋、そして醸造所・蒸溜所・焼酎蔵の複合施設なのだ。私達が酒屋を出て、紅玉色の瓦を葺いた左の家門を小津丈おじさんに開いて貰い、左の竹の庭と右の酒屋の壁のある入口を歩き、時代的な雰囲気を作った。純彦君の家に何回も参っているが、やはり四世代の醸造家の家族の与えた雰囲気に私がまだ奇抜だ。酒屋の裏から導くと、入口と垂直の支線で繋がった二階建ての母屋だ。下階はおじさんとおばさんの寝室、大事なお客様を待遇する居間など、特に初代蔵元である先祖を供養する祖霊舎や、長男である純彦君の寝室。上階は純彦君の二人の弟と一人の妹の寝室や、数学、将棋、バイオリンなどに関する本を並べる四つの棚のある勉強室。四年前のそろばん大会で優勝した後は勉強室を追加した、賞金と家族の利益を支払って。交流電流で空間を明るくするという『花火團』の標準はさておき、バニラ色で壁と天井を塗った私の勉強室との違いは天井がより高くて両側の梁に槍を投げるみずらの男像が刻まれたのだ。

 もう25メートル歩いたら、醸造施設の前に立ってきた。月曜日なので労働者が皆6時まで仕事を続けている。純彦君のお爺さんとお婆さんに許可して貰わなければ立ち入りが禁ずる。だが、小江おばさんから割烹着を受けたのは祖父母が入らせてくれるも同然だった。駿吾(しゅんご)お爺さんと灘千(なだち)お婆さんが障子を引き内から迎えてきた。その瞬間、酒の匂いが鼻に打ち込んだ、マスクを着けても。然し、迎えた場所は米、大麦、蕎麦、薩摩芋などの穀物を届けるし、匂いが一番優しくされた。

 こうして一日の最後の徳利の制作を見ることになったね。別々の穀物を洗い、咲く花みたいに蒸し、お盆に敷いたら、独特な黴が撒かれ、焼酎の一番大事な材料である麹をそれから二日間作り上げる。黄色、茶色、特に黒の麹は空気に当たって一日を過ぎた玄米とか、生な味噌とか、新鮮な醤油とかに見える。彼奴らを水に混ぜ込み、酵母に加えたら、酵母の中の『生物的触媒』と認める酵素が登場し、穀物の澱粉から分解されたグルコースをもう一歩分解し、酒を酒にするエタノールを生み二酸化炭素の泡を吹く。その化学反応を経過中、『もろみ』という発酵の混合は出来上がり、焼酎の味を形作る役を担う。その味をはっきりとする為、『もろみ』は黴を撒かない米や薩摩芋などに加わってもう一度発酵されている。二週間以上経って発酵の反応が大部緩まったと、『もろみ』は5メートル高い逆様の漏斗型の大釜に注がれ、水の沸点に近い温度で沸かされ、蒸気のエタノールは『冷却管』に流され凝縮し、清純な酒の雫で収集の茶碗に滴るのだ。

 ただ、それから売り出してはまだ早い。蒸溜後の酒は三斗ぐらいの泥色の甕に入れ、醸す過程がますます経過出来るように赤い綱で甕の蓋と周りを固定した。三ヶ月、六ヶ月醸すと、焼酎は粗くて臭い味を優しくて「飲まれる覚悟を決めた」という風にしっかり整え、「わさびみたいな濃い味や喉に残る甘い余韻」という絲島家の特徴をこれから決められる。駿吾お爺さんによると、それらの甕は完全に小田原の地区、具体的には箱根の森、酒匂の川辺と南足柄の森という三つの場所の土から出来たということだ。火山灰が混ざった土や、沖積が沈澱した土を収集し、乾燥し、ある割合で組み合わせる。その割合は沖積の土の五割、火山灰の土の四割、砂の一割。沖積による柔軟性が瀬戸物の魂で甕の姿を作る一方、火山灰によるふかふか性が甕の壁を硬過ぎにせず換気が出来て「呼吸している」ようにするのだ。

 絲島家は酒を収納する為の甕を特殊集団に担当して貰った。その集団は橘(たちばな)家。そう、八田蜜5年2組の『彫刻家』の克義(かつよし)君がいつも誇張して純彦君が「幼馴染じゃなくて良かった」と文句を言ったほどな自分の家族だ。毎年の二期で川と森に分散して土を収集し、下処理し、陶磁に用意する。一期目は春分が終わって土が柔らかくなってやや乾いた時に4月末から5月の初め、二期目は収穫期が終わって土が雨季後に十分に湿った時に11月末から12月の初めで、同じ14日間経過するのさ。彼らの長靴、土掬い、盥の跡は風と水の流れに消されたとしても、絲島家の124年の焼酎経営と並行して小田原の地面に人が見えないほど深く残っているかもしれない。「信楽焼を運んで来ぬとは言え、せめてあの琵琶湖の真珠の前進に追い付き相模湾より我々の真珠を採るとも言える」、というのは橘家が理念として頭に刻んでいる訳だ。

「よし。この六本の甕は五ヶ月醸造しており、中身の酒がもう綺麗になった。試して良いんだ、小津丈」、駿吾お爺さんが健やかな声で伝えた。小津丈おじさんが小江おばさんと三人の部下と甕の酒を36本の新規な徳利にゆっくり注いだ。酒の匂いがいずれよりも強く漏れているが玉蜀黍の軽い香りに緩んでいる。

 徳利の首の八割に酒が届いたら注ぎを止め、蓋をワインの栓のようにぴったり閉め、紫の布を掛け茶色の紐でしっかりと結んだ。こうやって、新品を試しに小江さんが五枚の小皿を出した。純彦君の親と祖父母以外にもう一人が試して良い。日常に酒を試している純彦君と復活中の笠人君を除き、残りの六人がグーパーで一人を決めた。円形に並び、手の裏を出すグーと手の平を出すパーとどちらが多数派か、少数派を敗退させる。これから智埼ちゃんと倉崎さんだけが残ったし、じゃんけんに変更した。四回の引き分け後、智埼ちゃんのチョキで倉崎さんのパーに勝ち、出来立ての酒を味わえた。智埼ちゃんが当たり前に凄く興奮した、というより『花火團』の三女子で一番興奮したよ。彼女が夏祭りに一ヶ月築き上げたトイレと排泄物処理機は絲島家の焼酎醸造の連鎖をもとにしたでしょう。しかも彼女の実験室で保管した40度以上のエタノールは純彦君に自宅から送って貰って大学など遠くの他の所から運ばないケミカルになったからだ。然し、智埼ちゃんが一人で啜るのではなく、味わいもしたい倉崎さんに自分が半分を啜った小皿に渡した。「すみません」と倉崎さんが驚きそうな感じで言って、誰かに負けてもお土産を共有して貰うのが久しいみたいだった。

 観戦後、一本をお持ち帰りにして貰いたいと灘千お婆さんが申し出た。勿論お金を払わない、純彦君の親友や知り合いだから。小田原に初めて行った深本さんは、四代が操作して自分がお気に入った酒を作っている連鎖を先ほど目で見たし、その申し出を断るのが出来なかった。駿吾お爺さんが部下に徳利を入れる箱を持って来て貰った。その箱は足なしでやや小さくて艶々しい褐色の櫃で、最高で六本の徳利を入れられる。ただ、灘千お婆さんが古い新聞紙や藁を敷き五本を入れた。残りの一本は次の販売に貯蔵する。絲島家の酒に縁がある深本さんにとっては大したお土産だ。まっ、やがて絲島家の酒呑みに変わっちまうじゃないか、私達は。

「ただいまー。5時までにここに着いて上手かった」と私が声を掛けた、お父様とお母様の愛しい飲食店『あおゆみ』の引き戸を引いた時。

「お帰り、雅實ちゃん」、お母様が受付の部分で私と皆を迎えた。「あっ、いらっしゃいませ。皆無事に帰って参りましたね」

「はい。3時半に町役場に着きました。その後はまずスミヒコ君の家に。こちらは深本姉さん、厚喜先輩の執事です」

「深本板美と申します。宜しくお願い致します」、純彦君の家に行く時と同じ、深本さんが礼儀した。

「こちらこそ。あたしは雅實ちゃんの母清三茅です。うちの娘の先輩をお世話になっていらっしゃいますね。最近も大変でしたでしょう、厚喜君とうちの子供達と。うちの子から君のことを聞いたそうです。沙也香ちゃんを庇って那月ちゃんの麻酔に倒れてしまったという話」

「はい。沙也香ちゃんはあたしの妹とも同じです。差し迫った事態があったら彼女を庇うしかありません」、深本さんがしっかり答えた、さっきかなり飲んだものの。

「あらっ、皆さんに酒の匂いが。純彦君の家で酒を飲んでまだ口を洗ってませんね。さっ、卓を自由に選んで下さい。しばらく夕食の時が来ますんでいくつかのお客様も入ります。あたし達も皆さんに夜ご飯を準備します」、お母様が慌ただしい声で楽しく言った。「貴方、雅實ちゃん達が帰ってきたよ。外の馬車に駐車場の案内お願いね」

 いきなり誰かが私の右に後ろから迫ってきた。「早く入って来いや。お客様が来たら迷惑なんじゃないか」ったく、お父様の声だ。お父様が私達に紛れ込み、新しい客かのように店に入った。

「お父様、びっくりさせないでよ」と私が反応した。お父様がにっこり笑って降恆ちゃんに代わって笠人君のいざり車を押した。茶色と苔色の混ざった百姓を着て笠を被ったなんて、どうりで誰もが『あおゆみ』の店長だと気付いていなかった。一日の耕しが終わったばかりでここに早飯をしに来る農家にそっくり。

「えーとー、おじさん、あそこの卓に車を押してって」、降恆ちゃんがお父様に笠人君を自分が指した卓に連れて行かせた。あそこの卓は私達の夕食を食べる所で決めた。八人団にとっては八脚の椅子が囲み込む正八角形の卓だ。深本さんと倉崎さんがこんな珍しく作られた卓を初めて見た。勿論、正八角形があったら正六角形、正方形、長方形や円形もあった。辺が多い奴は円卓と地上階と一階目の一部の広間で配分された一方、四角い奴は一階目と二階目の広間で、特に正方形の卓は卓袱台みたいに足を短くされ、控え目で家族の飯の雰囲気を齎す別々の個室の真中で配置された。

 全員が座ったら、団体の二人のお姉さんが『あおゆみ』の広間をちゃんと見回していた。『あおゆみ』は交差点の片隅にあったことで、入口がちょっと狭いが入ったに連れ段々広がってきて発散する放物線みたいだ。受付のセクションを越えてから、松、榎、金木犀、薔薇、撫子などの盆栽をきちんと並べた五段の棚の左側と、数十脚の食卓の列の右側が見える。壁には一つの大きな物語絵が天井まで連続的に描かれたり、電球を入れた十二面体と二十面体の提灯が掛かってプリズムを上に仕込まれ絵を照明したりした。その絵は一つの物語じゃなく色々な物語を組み合わせ関係あると思わせるように次々と描いた。お父様の故郷の静岡からの昔馴染の画家達は、小学校五年生の私と智埼ちゃんの可笑しい連想力を満たして描いてくれたよ。

 左から見ると、源義經殿が一ノ谷の戦いで馬で駆け逆落としをし平軍に攻撃する間、一匹の燕が源軍の上に飛んだのがまず見られた。あの燕は自分の折れた足を直したお爺さんの家に向かって嘴(くちばし)に西瓜の種を持っていた。あのお爺さんの家の裏庭に沢山の木こりが集まり森に進んだり米の俵を持ち帰ったりしていた。木こりの一人は池から上がった女神に金の斧を誠実さに与えて頂いた。あの池の底には潜んだ水道があり、龍宮城へと導きに出口を開けた。龍宮城から山幸彦殿が二個の潮の宝石を抱えて龍姿の豊玉姫に乗って陸地に帰った。あの陸地に先に上陸したのは桃太郎と犬、猿、雉という三つのお供の小舟だ。彼らを迎えに行ったのは残念ながら鬼ヶ島の鬼ではなく真っ白な骸骨のがしゃどくろだ。然し、がしゃどくろは実際にでかい人形で袴姿の語り部に三枚のお札に操られた。

「お待たせー。皆さんの夕食が参りましたよ」、お母様がもう一人の女給さんと皆の注文したお料理を出してきた。皆はご飯、沢庵・胡瓜・茄子の漬物や味噌汁という同じ定食を頼んだ反面、それぞれが個人的に食べてみたいお料理を注文した。私に酸っぱ辛い蟹と椎茸の汁。純彦君に豚肉と半熟卵の角煮。智埼ちゃんに海老のふんわり炒め。笠人君に鮭と砕けた鬼胡桃の照り焼き。澁薙君に溶き卵、挽き牛肉とピーマンの炒め。降恆ちゃんにあん肝と平茸、人参、筍の蒸し。倉崎さんに春雨と菠薐草(ほうれんそう)、白菜、木耳(きくらげ)の炒め。そして深本さんに醤油付け排骨の煮込みだ。

「速い。注文した六分後もう全部出てきました。やっぱりあっためー」と深本さんが『あおゆみ』の料理人の想定外な速度に感嘆した。

「君達は一日の繁忙期前に来ましたし、料理を出すのはより爽やかで早まっております。お客様が混んでしまった時が来たら、最低でも三十分ほど待たせることが多い。『もうちょっとお待ちお願い申し上げます』、『申し訳ございません。ご提供をまもなくお出しになります』とお客様に懇願するのは普通なことですから」と平気に答えたお母様。

「おばさん、繁忙期が来た時、お客様は何人ぐらいですか?」と質問した倉崎さん。

「んー、店員は滅多にお客様の人数を数えないけど、二度の食事に至っては八分おきに平均三、四人が入るよ。この広間では最高にすると一日に40人をもてなすことがある。上階を足すなら分かるね」

「わー、なんと200人より多く。東京の店でさえそんな人数をもてなすなら偉いんです」、倉崎さんが驚いた。

「実は、そんな人数を達するなら週末のではなく正月や真夏など休みだ。それに小田原人は小部分で、大部分は隣の都会と県からのお客様になっておる。外国人をも迎えてるから。来た以上は絶対に褒め言葉を遠慮しないよ」

「お姉さん、そういう外国人を見たことあります。彼の方は越南人で、スミヒコ君の注文したその豚肉の角煮にすっごく好んでます。お父様に作り方を教えて頂きたいと求めたほどです。確か、あのお客様はそう言ってる。「料理長の作り方を知りたいのは越南の伝統的な作り方に比較させて貰う為です。どうしてココナッツの水と黒糖を使わずにソースと肉を甘く出来るか、知らせたいと思います」という」

「あの時彼に教えなかったね。「料理人はレシピを明かさず」と言い訳をするしかなかった。でも、彼はヒロシちゃんの答えを待たず、角煮に何の材料が加わったのかを考え出し手帳に書いてた。いつも好奇心を持てば良いでしょう」と返事したお母様。「さっ、皆召し上がれ」

 お母様と女給さんがお辞儀をした後に、私達が「頂きます」と一斉呼び、二週間の挙句に小田原への帰還で初めての食事を食べた。おかずの一箸をご飯の一口と、そしてお汁を啜り、誰もが幸せな膨れの頬を現し、家で三度の食事を完成させる時の私の顔面と同じく見えた。倉崎さんは美味しい食べ物に前回の割に自分がより整い、ゆっくりと食べお料理の味を隅々まで感じようとしていた。一般的に言うと、お父様は普通の服装を白い厨房服、黒青の襷や紫の鉢巻を着替えた以上、直ぐに厨房内の将軍に変わり部下達を腕の良い兵士みたいに司っている。笠人君も最早お父様の一番若い兵士となった。まだ復活中の笠人君を見たと、お父様が早速いざり車を降恆ちゃんに代わって押していき、まるで戦から生き残った仲間にまた会って彼の方を熱心に何処かの席に連れて来るように見えた。

「あのね、松兼さん、学校を卒業したら雅實さんの店に働き続けるか?」と倉崎さんが質問した。

「はい、働き続けます。自分に新しい食店を開くことを考える前にまず資本をなるべく集めないといけません。多分、卒業後、俺は高校進学を拒んで『あおゆみ』で働くのを集中していきます」と答えた笠人君。

「谷子おばちゃんを手伝っとくんだな、なんとかしても。お前の今の腕にとっては早かれに上昇が出来る」と言った純彦君。

「そうしたら放課後と週末ではなく、俺は一週間七日で可笑しくなるまで働くよ。おじさん、おばさんと『あおゆみ』の皆と新しいレシピを考え出すのは良い話だろ。企画を考え出すのと同じ」

「てことは『あおゆみ』の皆は定期的に新しいレシピを考え出してるということ?」、深本さんが好奇に聞いた。

「定期的というより毎四ヶ月ですね。お料理の種類や調理法を分別した上で、材料を別の方法に組み合わせれば良いのかにまず応答し、その別の方法はどれかを次に解決します。例えば、醤油を魚醤とか酒とか味噌とかカレー粉とかに交代したらどうでしょうかという。姉さんも聞いたことありますね、海産物も家畜の肉と料理に出来ると」と言い続けた笠人君。

「つまり、材料を十分に準備すると、何兆の組み合わせにも出来る訳ですね」、深本さんが気付いた。「だから『あおゆみ』はあんなに多いお客様を惹きつけてますね。献立は長いし」

「はい。さっき献立から料理を選ぶ時、『新』という印章が見えたでしょう。四ヶ月毎にまたの新品が出来たし、新たな冊子を刷って判子を押して、既に独自な手続きになりました。手伝ってくれたのは吉岡家、小田原の一番の印刷所です」

「なるほどね。そういえば、沙也香ちゃんは夏祭りの時、松兼君と『あおゆみ』の厨房を体験してきたわね。倒れたことあったね。都合の良い時、『あおゆみ』での仕事を応募したらどう?」、深本さんが倉崎さんにとても適切な助言を送った。

 倉崎さんが一旦と食べ止んで結構長く考えて返事した。「都合の良い時だけですね。あの時が来たらまだ長いかもしれません。あたしはまだお父さんのこと、彼の後ろの黒幕のことに悩まされてるのです。今雅實さんのお父さんの店に働いたら彼らに襲われる可能性があっては嫌です」

 私が言った。「んー、そうですね。そういう襲いは開業の時と全然違うと思います。受け継ぐつもりはないけれど、私が最後までお父様とお母様のお店を守りますから」

 挿絵(By みてみん)

 智埼ちゃんも声を掛けた。「あんたが『花火團』の物理のご知将になったのはおっちゃんの恐ろしい創造力や、おばちゃんのええおつむを受け継いださかいや。その夢があんたをどない遠くへ連れて行くと、家族との絆が決して切れへん。その絆は倉崎姉はんに見せなあかん」

 深本さんが同意した。「うん。無理そうだけど、風士郎おじさんと沙也香ちゃんの絆を結び直さないとあの巨大な借金が決して返済出来ないと思う。なんとかしても倉崎家を救い出すんだ」

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