番外編:恋心の自覚…?
二年生も残り2ヶ月となったある日、突然クレアが言った。
「私、プールに行きたいですわ!
みなさま、プールで遊んで息抜きしましょう!」
マグノリア王国は、四季がなく年中温和な気候で海水浴が楽しめた。平民は一般に開放された海水浴場や各所にある国民プールで涼をとっている。
貴族は邸宅にある個人所有のプールや、領地にあるプライベートビーチを使用する他、伯爵家以上が使用できる貴族専用のプールやプライベートビーチがあった。子供が小さいうちは、子供の遊び場として人気の場であり、邸宅では楽しむことが出来ない大きなスライダーは、子供達の心を大いに掴んでいた。親にとっても社交の場にもなるため、社交シーズンはとても賑わう。
とはいえ、高位貴族は、家族以外に肌を晒すことを極力避けるという慣わしがあり、また自分達が出向くと伯爵家の方達を萎縮させてしまう、という理由から利用するのは殆ど伯爵家だ。
しかし、伯爵家の子供から話しを聞いた侯爵家の子供が、どうしてもスライダーを使いたいと駄々をこねる場合がある。その際には、侯爵家同士で誘い合い、貸し切りとする場合があった。しかし、公爵家が過去貸切とした事はほぼない。
「え?プール?貴族家用のか?
クレアは行った事があるのか?」
「もちろん、ないですわ!
ですが、スライダーにとても興味があるのです!
お祖父様達の事があるので、未だに海は苦手で行かないのですが、プールは大好きなのですわ!
シモクレン家で貸し切りといたしますから、皆様一緒に行きましょう!息抜きですわ!!」
興奮気味に話すクレアに、レオポルドが穏やかに言う。
「お誘いは大変有り難いんだが、俺はプールや海水浴には行かない事にしてるんだ。ルチアが楽しめない場所だから、俺は行っても楽しめないし。
あと、肌を晒した令嬢と遠くない距離で接すると、ルチアが悲しむ可能性があるから。なるべく彼女にはよくない噂を聞かせたくない」
「あ、そうですわねっ。ルチア様を大事に思うレオポルド様ならお断りするのは当然ですわ!私が浅はかでした。ごめんなさい!」
「謝らなくていいよ。他のみんなと楽しんでくるといい」と微笑む。
「う〜ん、僕は、とーっても行きたいんだけど、行くことを家族に伝えたら、妹や弟が確実に嫉妬して行きたがるんだよなぁ。同行させても、リオルやクレア、レオポルドが優しく接してくれるのはわかるんだけど…弟達が恐縮してガチガチになるのが目に浮かぶ…
だから、とっても残念だけど、今回は辞退するよ」
と、がっかりした顔を隠さずに話す。
トマスは、その明るい性格から周りに慕われ、面倒見もよく、弟妹達と出掛けることが多かった。
「あ、ではタイサン家で使いたい時があれば貸し切りといたしますわ。遠慮なくおっしゃってくださいね」とクレアが言うと、
「大丈夫だよー。貸し切らなくてもウチは頻回にプールに行ってるから。弟達がスライダーしたいってうるさいから、時々連れて行くんだ。気を遣ってくれてありがとね、クレア!
今回はリオルとフレデリクスとで行っておいで!」
と満面の笑顔でクレアをみる。
「そうだなぁ〜、少人数で貸し切るのは申し訳ない気持ちが強いが…うちの弟妹達もクレアとリオルに恐縮しそうだしな。俺だけ参加でいいか?」
とフレデリクスが二人をみる。
「弟妹達を連れて来てくれて一向に構わないんだが、気を遣うな、といっても無理だろうしな。
俺は弟と妹に声かけるよ。クレア、いいか?」
「もちろんですわ!お会い出来れば、わたしも嬉しいです!私は兄を誘ってみますね!仕事漬けの毎日を送っていますから、強制的に息抜きさせますっ!」
と笑って、二人に貸し切り日の希望を聞いた。
三週間後の休日、貴族家用プールに、アンディとクレア、フレデリクス、リオルと10歳のオズワルド、8歳のメリッサが集った。アレクサンドリナ家は子供が5人いて、メリッサ嬢以外は全員令息だ。
「お久しぶりです、アンディ様。今日はお言葉に甘えて弟のオズワルドと妹のメリッサも参加させていただきます。
当家はメリッサが唯一の姫なので、家族全員メリッサに対して過保護が過ぎるのですが、アンディ様とクレアがいるなら安心だ、と送り出してくれました。
特に、アンディ様と同じ部署に属している兄の、アンディ様に対する信頼がすごいです。助かりました」
と笑顔で兄に挨拶をする。
オズワルドが、
「お初にお目にかかります。オズワルドです。本日をとても楽しみにしていました!本日はよろしくお願いいたします!」
と闊達に挨拶をし、メリッサはやや顔を赤らめて
「みなさま、はじめまして。メリッサです…
本日は参加できてとても嬉しいです。よろしくお願いします…」
と小さく略式のカーテシーをした。
「はは、昔のクレアを思い出すよ。クレアは今でこそ活発な奇天烈令嬢だが、幼い頃は恥ずかしがり屋で私の後ろに隠れることも多かったんだ。
今日は、私が楽しませてあげよう!よろしく!」
「お兄様、私の評価がひどいですわ…
まあ、いいです。はじめまして。オズワルド様、メリッサ様。今日は大人の目もありませんので、思いっきりハシャギ倒しましょう!」
と、クレアが二人に笑顔を向けると、フレデリクスが、
「アンディ様、ご無沙汰しております。フレデリクス・キンジェです。本日はシモクレン家のご好意に甘えて参加させていただきました。クレアにはいつもその博識ぶりに助けられていますが、活発との評価には頷けます」
と笑いながら兄へ挨拶し、
「オズワルド君もメリッサ嬢も、気軽にフレデリクスと呼んでくれ。リオルとクレアも今日はよろしく」
と微笑んだ。
「よしっ!では、まずは私が魔法で波を起こすので、二人は浮き輪を使いなさい」
アンディが、オズワルドとメリッサをみる。
「はい!」と元気に返事をして浮き輪のある場所へ二人は小走りで向かった。
「走ったら危ないぞ!気をつけろよ!」
とリオルが叫ぶ。
「では、私達は早速スライダーを堪能しましょう!」
クレアがすかさず二人の腕をとり歩きだす。
「スライダーは俺も初挑戦だ。楽しみだな」
「俺は、侯爵家で貸し切りをした時に滑ったことがある。3年前が最後かな。思った以上にスピードが出るぞ。行こう!」
スライダーに行く途中、クレアはそれまで着ていた薄手の膝まであるジャケットを脱ぎ、ベンチに置いた。二人も着ていたパーカーを脱ぐ。クレアがワンピース型の水着になり、リオルとフレデリクスは少し息を呑んだ。
もうすぐ14歳となるクレアは、女性らしい身体つきに成長していた。小柄で細身だが、色白で滑らかに輝く手足は長く、ウエストは締まり、胸はそれなりにあった。普段の制服では分かりにくいが、思春期の男子をドキッとさせるには十分な、素晴らしいスタイルだった。まだ14歳のため、今後男性を魅了する身体になる事は間違いない。
「なかなか目のやり場に困るな…」
やや顔を赤らめてリオルが呟く。
「まだ子供だと思っていたが、ちょっと認識を改める必要があるな…」とフレデリクスも呟く。
「お二人とも、何を呟いてるのですか?さあ、行きましょう!」
と二人の腕を再度引っ張り、歩き出す。
「プールで、この距離で触れるのはまずいぞ、クレア。アンディ殿に怒られそうだ」
リオルががやや焦って言うが、
「え?お兄様は私のことなんて気にしませんよ。普段も放置ですからっ」
「確かに…クレアだとどんな暴漢が来ても返り討ちに出来るしな」
とフレデリクスが笑って言った。
3人はスライダーを十分楽しみ、オズワルド達がやって来ると場所を譲った。アンディはどこまで子供達を楽しませる事ができるか、と一人挑戦しているようで、時折魔法を使いながら、安全に配慮して二人を構い倒していた。
広いプールでは、それぞれ3人が波の出し合いをしたり、大きな噴水を作ったりと魔法を使いながら、めいいっぱい水遊びを楽しんだ。
各家それぞれに護衛騎士とメイドが同行していたが、アンディとクレアは自衛に対し騎士以上の実力があるため、本人達の希望により、同行者全員がプールの側のラウンジで、お茶をしながらまったりとした時間を過ごすこととなった。ランチの時間になると、メイドが持ち込んだ食事を騎士達も協力して準備した。
昼食の時間となり、プールからラウンジに来た面々が楽しくランチを取り終えプールへ戻ると、待機している者達みんなで残りのランチをいただいた。
「今日は私達にとっても、思いがけずの1日となりましたね。仕事しながらリラックス出来るなんて、大変なご褒美ですわ」
とメルが話すと、他の同行者全員笑いながら頷いた。
アフタヌーンティーは、人気のパティスリーをリオルが予約したため、午後は早めにプールを切り上げた。
女性の浴場では、クレアとメリッサのメイドが二人の支度を整える。
「クレア様、今日はとっても楽しかったです!ありがとうございました!
リオルお兄様は、クレア様のことをいつも素晴らしいとお話ししているのですが、クレア様はリオルお兄様とフレデリクス様、どちらがお好きなんですか?」
メリッサが無垢な顔で聞いてきた。
「えっ?好き?
お二人とも大好きですが……メリッサ様が聞いているのはそういう事ではないですよね…
う〜ん…考えた事がないのですが……お二人ともそれぞれ、とっても魅力的な男性ですわよね…
もしかしたら、これからどちらかを好きになるかもしれませんね!
あ、でもリオルには内緒にしていてくださいね!」
「はいっ!ですが、クレア様がお姉様となってくれたら、私とっても嬉しいです!リオルお兄様に頑張っていただかないとですねっ!」
その言葉にメイド達も笑った。
一方、男性の浴場では、護衛騎士は侍従の役目も担っているため、騎士達が支度の手伝いを行っていた。
「アンディ様、リオル殿、フレデリクス殿、本日は思いがけない勤務中の休息をありがとうございました」
とシモクレン家の騎士が礼を述べると、他の騎士達も頷き礼を述べる。
「いやいや、休息となったならよかったよ。いつも苦労かけてるからな」とアンディが笑った。
「ところで……私の妹の婚約者になるのはどちらかな?」
と二人に笑顔を向ける。
「クレアが、シモクレン家の者達以外にここまで心を開くのは珍しいんだよ。だいぶ二人を信頼してるんだな。私としては、どちらが弟となっても大歓迎だよ」
「あっ!僕はクレア様がお姉様になって欲しいです!アンディ様も、ぜひとも僕のお兄様になっていただきたいですっ!
リオル兄様!クレア様を婚約者にしてください!」とオズワルドが叫ぶ。
「おっと!それは困るなぁ。
今まで妹のようにクレアをみていたが、今日は妹に思えなかったんだよ。まだしばらくは、クレアには婚約者は出来ないで欲しい。クレアに見合う男になるよう、頑張ろうと決意したところだから」
フレデリクスが真面目な顔で話した。
「フレデリクス……
…俺もクレアには好意を抱いてるよ。ただ、それが婚約者になりたい程のものかと言われると…
だが、フレデリクスには先を越されたくないな。
俺もクレアに釣合が取れる男となるよう励むさ」
とリオルがきっぱりと話した。
「そうか。未来の弟は、まだわからないか。突拍子もない妹だが、大事な妹なんだ。これからもよろしく頼むよ!」
アンディは満面の笑顔で二人を見た。
その日から…リオルとフレデリクスはさらに自分磨きに励んだ。
そしてクレアはそんな二人の心境を知る由もなく。
それまで同様、ただのクラスメイトとして接した。
クレアは14歳となっても、恋より医学だった。
長文となりましたが、お読みいただきありがとうございました!
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