20. 志望動機2
「レオポルドは、そうだっのか…
うん。俺も応援するよ。今のところ古傷を治すことは出来ないが、レオポルドとクレアなら出来るかもな。……負けられないな。
俺の志望動機は…たいしたものじゃない。すぐ終わるよ。
話す前に、まずは、お茶とケーキをいただかないか?」
と、リオルが少し笑って言った。レオポルドの話に夢中になり、誰も手を付けていなかったお茶を自ら口に運ぶ。
それに倣って、全員お茶を飲み、ケーキをいただいた。
みんながケーキを食べ終わるころを見計らって、リオルが話し出す。
「俺は、小さい頃すごい我儘だったんだ。
王都の端に湖があるだろ?あそこで平民が乗る二人用のボートがあってさ、それにどうしても乗りたいって駄々を捏ねたんだ。4歳の時だ。貴族の子は普通乗らない。危ないからな。
でも俺は、自分の思い通りにならないと魔法をぶっ放すような手のつけられない子だったから、仕方なく護衛騎士と二人でなら乗ってもいいと両親が許可を出したんだ。今思えば、側に主治医がいたから、なんかあっても大丈夫って思ったんだろうな。
で、案の定、ボートに乗って、魚を取ろうと身を乗り出して湖に落ちたよ。すぐに魔法使いに引き上げられて主治医が治癒してくれたんだけど、落ちた時に大量に水を飲んだからやたら苦しくてさ。その苦しさが医師の治療で一瞬で治ったんだ。心底、医師を尊敬したよ。苦しみから救う神かと思った。
あとで、そんな治癒が出来るのは医師の中でもほんの一握りと聞いて、当家の主治医の凄さを知った。その時に、当家の主治医のように、最高レベルの医師になりたいと思ったんだ。
最高レベルの医師になるためには、まずは入試でトップ成績を取ろうと、幼い時から勉学に励んだよ。入試の手応えも良かったから医師科でトップは間違いないと思った。なのに、シェラード医師からクレアに負けたと聞かされて…
こんなに頑張ってきたのに、自分より幼い令嬢に負けるなんて、と自分に苛立ち、ついクレアに八つ当たりしてしまった…クレアは自分の遥か上にいたのにな。
今考えると、ものすごく恥ずかしいよ」
と苦笑した。
「…いえ、遙か上にいたとかはないですわ。入試の時点も今も、マナの操作力に違いがあるだけで、私がリオル様より優れている訳ではありません。
リオル様にもマナの操作力が身につけば、きっと私と同じ事が出来ますわ」
「……そうだといいな。頑張るよ」
クレアをみて優しく微笑んだ。
「僕はっ!ただ、たくさんの人を助けたくてっ。
実は……僕の祖父母もクレアの祖父達と同じ船に乗っていたんだ…。
あの事故で生き残った人はいなかったよね。嵐の波がすべてさらってしまったから……亡き骸が戻ってくる事もなくて、祖父母がいなくなってしまったことに、しばらく実感がわかなかったよ…
もし、予想がつかない大災害にあったら……そんな時に、自分に多くの人を治療できる凄い力があったら、多くの人を救えるんじゃないかと思ってっ!
それで、目指してみることにしたんだ。
ほんの一握りの上位の医師にはなれないかもしれないけど、それでもたくさんの人を治療できる医師になりたいと思うんだ」
「船の転覆では、治療できる医師達も投げ出されてしまいますから…魔法使いも魔術師もひどい嵐には敵わないですし……不運だったと思うしかないですよね。
でも、トマス様の気持ちはよくわかりますわ。
例えなす術がない災害に見舞われたとしても、出来ることがあれば全力で行って、それが少なからず人を救う事に繋がるのなら、やるだけやってみる!という事が大事ですものね!
力のある医師が増えれば、それだけ助かる人も増えるでしょうし、医師を目指す方が増えればいいな、と心より思いますわ」
笑顔でトマスをみた。
「みんなの志がすごすぎて…
俺の理由を言うのが恥ずかしいな…
…俺はただ家から出たくて。医師になれば、殆ど家と関係なくなるだろ?
うちは長子である兄さんが家を後継するからさ、兄さんはマナ量が多かったけど、魔法使いや魔術師にはならず、家の事業を拡げるため国政科に進む道を選んだんだ。だから、弟妹達には魔法使いや魔術師になって、家の名声を高めて欲しかったみたいで…
なのに俺が生まれ持ったマナ量が、兄さんに比べてかなり少なかったから、家の者はみんなガッカリしたらしい。小さい時から、みっちりと魔法や魔術を教えられたけど、才能が開花しないことに両親や兄さんが不満を持ってるのを否応なく感じたよ。
そして、妹の次に産まれた弟は、兄さんを凌ぐ量のマナを持っていたんだ。両親は歓喜して、家族みんな弟に期待してる。
だから、俺は家族にとって、役立たずの存在でさ。 兄や弟へのくだらないコンプレックスといえばそれまでだけど、期待されないなら期待されない立場にいきたくて。だから、医師科を選んだんだ。
医師となって、あの家と距離をおきたいんだ。
こんな理由で申し訳ないな……
ごめん」
「謝らなくていい。志望動機が何であれ、こうやって医師になるべくみんなで邁進しているんだから、立ち位置はみな一緒だ」
「そうだな。医師を目指すクラスメイトとして、ともに頑張っていこう。
ひとまず、俺達はクレアに置いてけぼりを喰らわないようにしないとな」
レオポルドに続いてリオルが言う。
全員が顔を見合わせて笑い、明るい空気に包まれた。




