19. 志望動機1
アレクサンドリナ家の馬車の中で、リオルは下を向いたまま一言も発しなかった。話しかけてはいけない空気を感じ、クレアも無言で馬車の窓から外を見つめていた。
それぞれの馬車が目的のカフェについた。クレアが馬車から降りる際、リオルはエスコートしてくれたが、視線は合わなかった。
馬車から降りた他の令息達も、全員やや硬い表情のまま店内に入る。店中がそれほど広くはないため、護衛騎士達は店の外で待機となる。
個室の円卓にクレアを中心にリオル、レオポルド、その反対隣にフレデリクス、トマスが座る。
テーブルに茶器とケーキが並べられたところで、ようやくトマスが口を開いた。
「いや〜、クレアの魔法にはびっくりしたよ〜っ!
公爵家だしマナが多いのはわかってたけど、あんな魔法が使えるなんてっ!ほんとに12歳??うちの妹なんて、ほんのちょっとの生活魔法しか使えないよっ。いつからあんなの出来るようになったのさ〜っ!」
と一気に捲し立てる。
「トマス、落ち着け。
気持ちはわかるが。
確かに、クレアの才媛ぶりは特化していた。
公爵家のスペックと教育レベルを考えると、あのレベルの魔法を使えてもおかしくは……ない?」
「フレデリクスも一旦落ち着こう。
どう考えても、おかしいぞ。
あの魔法は、魔法使いすら出来るものがいるかどうかのレベルだ。特級魔法使いか、特級魔術師が使えるレベルだぞ。普通は人を空中に静止させることは不可能だ。……クレアがやったんだよな?…」
と、レオポルドがクレアをみる。
「あの……隠していたつもりはないのですが…
私のマナ量はとても多いようで…
……実は…テレポートも出来るレベルなんです……」
と打ち明けた。
「「「マジかっ!!」」」
3人同時に叫んだ。
それまで黙って一点をみていたリオルが、大きくため息をつく。
「はぁ〜っ、何だったんだ俺。
こんな凄いやつに張り合ってたのかよ…
そりゃ、全然敵うわけないよな…。
レベル違いすぎ。
最初ギスギスしてたのが恥ずかしいわ」
と、砕けすぎな口調で呟いた。
「ええっと…
なんだか、皆様、ごめんなさい…?」
とりあえず謝罪しといた。
「いや、別に謝ることではない。クレアのスペックが凄すぎて理解が追いつかないだけだから。
だが……、そんなすごい魔法を使えるのに、なんで医師科なんだ?
クレアなら間違いなく宮廷魔法使いのトップに立てるぞ?」
と、リオル。
「そうだよなぁ〜、魔法があれだけ使えるなら魔術の腕も確かだろうし、魔術師でも活躍出来るよな」
と、レオポルド。
「普通の令嬢は職に就くことすらないから、学院に進む事がすでに珍しいけど。クレアはどうして医師になりたいの?」
トマスが聞いてきた。
「……そうですね。理由はいろいろあるのですが、母の死が一番の要因かと。不測の事態で亡くなってしまったので…
家族の突然の死で悲しむ事になる人々が、少しでも少なくなればいいな、と思うのが大きな理由だと思います。
母は失血性ショックで亡くなったのですが、今後そういった自体が少なくなるように医療を発展させくて…」
「なるほど、そうか。
志が高いのだな。クレアなら実現出来るだろうな」
「ありがとうございます。レオポルド様。
…あの…この機会に、皆様の志望動機も聞きたいですわ。教えてくださいますか?」
と4人を見回した。
「私は…話すと長くなるが……」
レオポルドの言葉にみんなで頷く。
「では、お茶を飲みながら聞いてくれ。
……国政科のクラスメイトに侯爵家の令嬢がいたんだ。クラスは違うが同期だから、アンディも知っている令嬢だ。外交に興味を持っていて、外交官になるために国政科に在籍していたんだよ。彼女の気概が素晴らしくて、彼女のおかげでクラスの士気も上がっていたよ。
彼女は、申し分のない人柄だった。俺は、彼女に惹かれてしまって、卒業後に婚約を打診しようと思っていたんだ。彼女の方もそれに応じてくれようとしていた。
だが…卒業まであと少しといった時期に、彼女が負傷したんだ。
彼女の領地には鉱山があって、外交の大きな話題に出来るからと、偵察に出向いたんだ。
そこで…運悪く、鉱山の崩落に巻き込まれた。命に別状はなかったが、片足が不自由になってしまった。鉱山の場所が領主館から遠くて、治療が遅れたんだよ。
彼女は外交官の道が閉ざされたことで、とても塞いでしまった……私はそれでも、彼女を婚約者にしたかったが、傷物であるからと、本人も他の者達も納得してくれなかった。
それでも、私は、彼女を諦めきれないんだ。
医師として研鑽すれば、いつか古傷を癒すことが出来るんじゃないかと、医師になることを決めたんだよ。彼女にプロポーズしたいんだ。
もし、古傷を治すことが出来なくても、医師となれば後継を譲れるし、彼女の家の主治医にもなれる。彼女を妻としても反対する者はいないだろう。
だから、医師になりたいんだ」
「っ!素敵な志しですわっ!!
きっと、彼女さんも待っていらっしゃると思います!私も、古傷を治せるよう一緒に研鑽したいです!レオポルド様!頑張りましょう!」
「ああ、ありがとう。
私が無理でも、クレアなら出来るかもな。
よろしくお願いするよ」
と、柔らかく微笑んだ。




